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アクセル全開、ブレーキ全締めで、前に進まないまま壊れてゆく、冷戦終結後の日本社会

ここで、ナフサ不足の問題を、もう一段深いところまで降りてみよう。

なぜ、人類文明には、これほどまでに出世競争が埋め込まれているのか。

なぜ、官僚機構は肥大化するのか。

なぜ、財界は規格を増やすのか。

なぜ、資格、認証、学歴、役職、肩書、序列、審査、監査、ガイドラインが、技術の進歩と共に減るのではなく、むしろ増えていくのか。

私の見立てでは、これは単なる無駄ではない。

出世競争とは、文明の初期段階に組み込まれた、巨大なブレーキ装置である。



エヌマ・エリシュから始まったステータス競争

人類文明の初期刷り込みを、バビロニア神話のエヌマ・エリシュの構造として読むことができる。

中心に座る者がいる。

勝者がいる。

階位を得る者がいる。

名を与えられる者がいる。

命令する者がいる。

従う者がいる。

上へ登る者がいる。

下で働く者がいる。

この構造が、文明の基本OSとなった。

誰もが、自分の能力を自由に発揮するのではない。

誰もが、自分の目的関数に沿って生きるのでもない。

誰もが、中心へ近づこうとする。

より高い地位へ。

より大きな肩書へ。

より多くの報酬へ。

より強い発言権へ。

より安全な席へ。

より上位のサル山へ。

ステータスとは、単なる虚栄心ではない。

文明の内部において、資源、配分、配偶、承認、安全、発言権、免責を獲得するための通行証である。

だから、人間は出世競争から降りられない。

出世競争に参加しなければ、配管から外される。

配管から外されれば、生存条件が悪くなる。

教育、勤労、納税という三義務は、この出世競争へ人間を接続する。

教育によって、序列へ入る。

勤労によって、組織へ入る。

納税によって、制度を支える。

こうして、人間は、文明のブレーキ装置の部品になる。


なぜ、文明にはブレーキが必要だったのか

ブレーキは、最初から不要だったわけではない。

文明の初期段階では、統制が必要だった。

農業を始める。

水路を作る。

倉庫を作る。

食料を分配する。

暦を読む。

都市を守る。

兵士を配置する。

税を集める。

労働を割り振る。

争いを抑える。

この段階では、誰もが勝手に動けばよい、とは言えない。

速度が出過ぎれば、衝突する。

欲望が噴き出せば、奪い合いになる。

権力が乱立すれば、内戦になる。

だから、律法が必要になった。

掟が必要になった。

規則が必要になった。

序列が必要になった。

命令系統が必要になった。

出世競争というブレーキ装置は、文明が未成熟だった時代には、一定の機能を果たした。

人間を止める。

人間を並べる。

人間を待たせる。

人間を我慢させる。

人間を働かせる。

人間を税の配管へ接続する。

人間を組織へ従属させる。

それによって、文明は急加速による自滅を回避してきた。

問題は、ブレーキが存在することではない。

アクセルとブレーキの関係が壊れたことである。


かつては、加速した後にブレーキがかかった

かつての文明では、まず誰かがアクセルを踏んだ。

新しい土地へ進出する。

新しい技術を作る。

新しい市場を開く。

新しい商売を始める。

新しい表現を生み出す。

新しい思想を語る。

新しい機械を作る。

新しい産業を起こす。

すると、速度が出る。

社会が変わる。

人が動く。

資本が動く。

既存の秩序が揺れる。

そこで、律法が現れる。

規則が作られる。

税が課される。

免許が必要になる。

資格が作られる。

監督官庁が生まれる。

業界団体が作られる。

認証制度が導入される。

つまり、最初に進出があり、その後に統制が来た。

アクセルが先で、ブレーキが後だった。

だから、文明は曲がりなりにも進んだ。

危険ではあった。

事故も起きた。

犠牲も出た。

だが、前へ進んだ。


冷戦終結後、官と財は常時ブレーキを踏むようになった

ところが、冷戦終結後、この順序が変わった。

誰かがアクセルを踏もうとする。

すると、官と財が即座にブレーキを踏む。

新しい商売を始めようとする。

規制がある。

新しい技術を使おうとする。

認証が必要である。

新しい素材を使おうとする。

規格外である。

小さな会社が市場へ入ろうとする。

実績がない。

個人が独立しようとする。

信用がない。

異なる働き方をしようとする。

キャリアに傷が付く。

AIを使って業務を簡素化しようとする。

責任の所在が不明である。

行政を縮小しようとする。

制度設計が必要である。

税を減らそうとする。

財源が必要である。

補助金を廃止しようとする。

支援が必要である。

資格をなくそうとする。

安全性が心配である。

規格外品を売ろうとする。

品質保証が必要である。

何をするにも、まずブレーキがかかる。

動いてから止めるのではない。

動く前に止める。

考える前に止める。

試す前に止める。

作る前に止める。

売る前に止める。

責任という言葉で止める。

安全という言葉で止める。

公平という言葉で止める。

コンプライアンスという言葉で止める。

これが、冷戦終結後の官財構造である。


アクセル全開、ブレーキ全締め

しかし、ここで奇妙なことが起きる。

官と財は、国民にはアクセルを踏めと言う。

もっと働け。

もっと学べ。

もっと資格を取れ。

もっと生産性を上げろ。

もっと競争しろ。

もっと稼げ。

もっと投資しろ。

もっと消費しろ。

もっと納税しろ。

もっと子供を産め。

もっとリスキリングしろ。

もっとデジタル化しろ。

もっと成長しろ。

もっとイノベーションを起こせ。

つまり、アクセルは全開である。

だが、少しでも本当に動こうとすると、ブレーキを踏む。

規格を守れ。

法令を守れ。

手続を守れ。

前例を守れ。

ガイドラインを守れ。

業界慣行を守れ。

資格制度を守れ。

補助金の要件を守れ。

融資基準を守れ。

監査対応を守れ。

空気を読め。

波風を立てるな。

失敗するな。

つまり、ブレーキも全締めである。

この状態で走り続けたら、どうなるか。

車は前へ進まない。

だが、燃料だけは消費する。

エンジンは唸る。

熱がこもる。

油圧が上がる。

クラッチが焼ける。

ミッションに負荷がかかる。

ブレーキパッドは削れる。

タイヤは回転しようとする。

駆動系は悲鳴を上げる。

外から見れば、動いていない。

だが、内部では壊れ始めている。

これが、今の日本社会である。


ナフサ不足は、油圧系の異常警報である

ナフサ不足は、単なる資源問題ではない。

文明の油圧系に警告灯が点灯したのである。

原料はある。

だが、流れない。

船はある。

だが、届かない。

届いても、既存設備へそのまま入らない。

混ぜれば使える。

だが、誰も責任を取りたくない。

用途を限定すれば売れる。

だが、規格外である。

値段を下げれば需要はある。

だが、既存価格体系が壊れる。

現場は言う。

使えるものを早く作れ。

官と財は言う。

慎重に検討します。

これは、油圧系の詰まりである。

配管が細すぎる。

バルブが多すぎる。

圧力計が多すぎる。

監視装置が多すぎる。

制御装置が多すぎる。

安全装置が多すぎる。

誰もバルブを開けない。

開けて何か起きれば、責任を問われるからである。

その結果、圧力だけが上がる。

どこかで破裂する。


壊れるのは、ミッションか、油圧系か、エンジンか

文明を車にたとえるなら、今や故障箇所は一つではない。

ミッションが壊れる

ミッションとは、社会の中間伝達装置である。

官僚機構。

金融機関。

商社。

業界団体。

大企業の本社部門。

人事部。

法務部。

品質保証部。

監査法人。

コンサルタント。

認証機関。

補助金執行団体。

これらは、本来、エンジンの力をタイヤへ伝える役割を持つ。

だが、ギアが噛み合わなくなる。

現場の力が、ユーザーへ届かない。

作れるものが、売れない。

必要なものが、届かない。

人材がいるのに、配置できない。

技術があるのに、実装できない。

知識があるのに、制度化できない。

歯車は回る。

会議も増える。

書類も増える。

予算も増える。

だが、車は前へ進まない。

これが、ミッション故障である。

油圧系が壊れる

油圧系とは、社会の配分装置である。

通貨。

信用。

融資。

補助金。

税。

社会保険料。

価格。

物流。

在庫。

契約。

原料調達。

人材配置。

ここが詰まると、資源が存在していても動かない。

金はある。

だが、現場へ流れない。

人材はいる。

だが、必要な場所へ配置されない。

原料はある。

だが、規格が違うので使えない。

住宅はある。

だが、住めない。

食料はある。

だが、高い。

土地はある。

だが、使えない。

技術はある。

だが、認証がない。

この状態が続けば、圧力は局所的に上がる。

資産価格だけが上がる。

税負担だけが上がる。

生活コストだけが上がる。

国債残高だけが増える。

現場の疲労だけが蓄積する。

どこかでホースが裂ける。

どこかでバルブが飛ぶ。

どこかでオイルが漏れる。

これが、油圧系故障である。

エンジンが壊れる

最も恐ろしいのは、エンジンが壊れることである。

エンジンとは何か。

人間の創造力である。

発明する力である。

作る力である。

考える力である。

試す力である。

失敗する力である。

立ち直る力である。

独立する力である。

誰かと出会い、新しいものを生み出す力である。

社会を動かしているのは、官僚ではない。

規格でもない。

資格でもない。

監査法人でもない。

認証機関でもない。

補助金でもない。

人間が、何かを作ろうとする力である。

このエンジンへ、三義務によって延々と負荷をかける。

教育で競争させる。

勤労で拘束する。

納税で吸い上げる。

キャリアで脅す。

規格で縛る。

資格で絞る。

監査で怯えさせる。

コンプライアンスで黙らせる。

失敗すれば、自己責任だと言う。

成功すれば、税を取る。

独立しようとすれば、信用がないと言う。

新しいことを始めれば、前例がないと言う。

それでも、イノベーションを起こせと言う。

そのうち、エンジンは焼き付く。

人間は、考えなくなる。

作らなくなる。

挑戦しなくなる。

結婚しなくなる。

子供を産まなくなる。

会社へ期待しなくなる。

政治へ期待しなくなる。

社会へ期待しなくなる。

未来へ期待しなくなる。

これは、単なる景気後退ではない。

文明の駆動力そのものが失われるということである。


官と財は、ブレーキを踏みながら速度不足を嘆く

ここに、現代日本の滑稽さがある。

官と財は、自分たちでブレーキを締めながら、速度が出ないと嘆く。

生産性が低い。

成長率が低い。

出生率が低い。

起業率が低い。

投資が少ない。

賃金が上がらない。

消費が弱い。

若者に意欲がない。

デジタル化が遅い。

AI活用が遅い。

イノベーションが起きない。

当然である。

ブレーキを踏んでいるからだ。

規格を増やした。

資格を増やした。

税を増やした。

保険料を増やした。

補助金を増やした。

申請書を増やした。

認証を増やした。

研修を増やした。

評価指標を増やした。

中間管理職を増やした。

会議を増やした。

横文字を増やした。

その結果、速度が落ちた。

すると、さらに会議を増やす。

さらに専門家を呼ぶ。

さらに規格を増やす。

さらに補助金を出す。

さらに税を取る。

さらにブレーキを締める。

これを、政策と呼んでいる。


デフレ社会では、希少性を作らなければ序列が維持できない

冷戦終結後、日本は長いデフレと低成長へ入った。

物が売れない。
賃金が上がらない。
需要が弱い。
人口が減る。
設備投資が鈍る。
新しい産業が育たない。
企業は内部留保を積む。
現場はコスト削減を求められる。
下請けは値下げを迫られる。
非正規雇用が増える。
若者は将来を失う。

本来なら、そこで出世競争型の社会構造を見直すべきだった。

管理職を減らす。
官僚機構を縮小する。
中間業者を減らす。
税制を簡素化する。
規格を緩める。
小規模事業者を増やす。
自営業を増やす。
生活コストを下げる。
ベーシックインカムを考える。
働く時間を減らす。
人材を適材適所へ戻す。

しかし、逆のことをした。

規格を増やした。
認証を増やした。
監査を増やした。
資格を増やした。
補助金を増やした。
委託事業を増やした。
政策事業を増やした。
評価制度を増やした。
研修を増やした。
横文字を増やした。
専門家を増やした。
管理者を増やした。

なぜか。

デフレ社会で、かつてと同じ出世競争を維持しようとしたからである。

成長が止まっているのに、役職は維持したい。

市場が縮小しているのに、報酬は維持したい。

人口が減っているのに、制度は維持したい。

企業利益が伸びないのに、株主価値は上げたい。

現場の賃金は抑えたい。

だが、上位層の報酬は守りたい。

それには、どこかに新しい希少性を作らなければならない。

規格が必要になる。

認証が必要になる。

専門家が必要になる。

政策が必要になる。

税金が必要になる。

補助金が必要になる。

金融緩和が必要になる。

財政出動が必要になる。

債務が必要になる。


累積財政債務は、序列維持コストの堆積でもある

累積財政債務を、単純に放漫財政と呼ぶだけでは足りない。

もちろん、財政赤字には複数の原因がある。

社会保障費。
高齢化。
景気対策。
公共事業。
防衛費。
災害対応。
感染症対策。
産業支援。
地方交付税。
国債利払い。

だから、すべてを一つの原因へ還元することはできない。

しかし、構造として見るなら、累積債務は別の顔を持つ。

低成長社会で、既存の序列、既存の配管、既存の役職、既存の報酬、既存の受益構造を維持し続けた費用の堆積である。

成長がないのに、制度は縮小しない。

人口が減るのに、配管は減らない。

技術が進歩するのに、管理者は減らない。

AIが出てくるのに、書類は減らない。

デジタル化するのに、手続は減らない。

規格を増やし、認証を増やし、補助金を増やし、政策事業を増やし、制度を延命する。

その費用を、税金だけでは支えきれない。

だから、借金する。

国債を発行する。

金融緩和で支える。

通貨価値を薄める。

そして、最後にはインフレが来る。

ここで起きるインフレは、単なる物価上昇ではない。

デフレ期に隠されていた序列維持コストが、生活者へ転嫁される局面である。

これまで見えなかった無駄が、電気代、ガソリン代、食料品、住宅費、税負担、社会保険料として可視化される。


インフレは、秀才秩序の救命装置になる

デフレは、秀才秩序にとって苦しい。

値上げできない。
売上が増えない。
給与原資が増えない。
税収が増えにくい。
管理者の報酬を支えにくい。
既得権を維持しにくい。
債務の実質負担が重い。

だから、どこかでインフレが必要になる。

インフレになれば、名目売上は増える。

名目税収も増える。

名目賃金も一部は増える。

債務の実質価値は薄まる。

価格転嫁が可能になる。

制度コストを消費者へ回せる。

もちろん、インフレを誰かが完全に設計しているという単純な話ではない。

戦争。
資源価格。
為替。
金融政策。
供給制約。
人口動態。
財政支出。
企業行動。
市場心理。

複数の要因が絡む。

しかし、既存秩序から見れば、インフレには都合のよい側面がある。

デフレのままでは支えきれなくなった配管を、価格上昇によって延命できるからである。

その意味で、インフレは、秀才秩序の救命装置になり得る。


ナフサ不足は、希少性の演出装置を暴いた

ナフサ不足で見えたのは、この構造である。

原料がないのではない。

特定の規格に合う原料が足りない。

特定の設備へそのまま投入できる原料が足りない。

特定の契約で調達できる原料が足りない。

特定の価格で買える原料が足りない。

特定の責任分担で扱える原料が足りない。

特定の社内稟議で通せる原料が足りない。

つまり、不足しているのは、資源ではない。

既存秩序にとって都合のよい資源である。

ところが、ユーザーはそんなことを知ったことではない。

塗れればよい。
包めればよい。
流せればよい。
建てられればよい。
動けばよい。
食べられればよい。
安ければよい。

多少、規格が違ってもよい。

用途を限定すればよい。

値段を下げればよい。

説明して売ればよい。

選ばせればよい。

ここで、ユーザーと秀才の利害が衝突する。

ユーザーは、希少性を解消したい。

秀才は、希少性を管理したい。

ユーザーは、安く使える物が欲しい。

秀才は、規格を維持したい。

ユーザーは、代替品でよいと言う。

秀才は、認証されていないと言う。

ユーザーは、これでいいじゃないかと言う。

秀才は、怒る。

なぜなら、「これでいいじゃないか」は、単なる現場の工夫ではないからである。

それは、秀才優位社会の収益構造を壊す言葉だからである。


三義務は、希少性管理者を再生産する

教育、勤労、納税。

三義務とは、希少性管理社会の再生産装置でもある。

教育によって、規格に適応する人間を作る。

勤労によって、規格を運用する組織へ配置する。

納税によって、規格を維持する制度へ資金を流す。

学校で正解を覚える。

会社で前例を守る。

役所で規則を作る。

財界で規格を要求する。

金融機関で融資条件を絞る。

大企業で取引条件を絞る。

認証機関で許可を出す。

専門家が説明する。

政治家が制度化する。

メディアが必要性を報じる。

国民が税金を払う。

これが循環する。

その結果、社会全体が、コントロールされた希少性を前提に最適化される。

資源も、人材も、知識も、土地も、信用も、資格も、役職も、発言権も、制度によって絞られる。

絞るから、値段が付く。

絞るから、権威が生まれる。

絞るから、出世競争が成立する。

絞るから、秀才が優位に立つ。


希少性の管理とは、ブレーキの管理である

前節で述べた、コントロールされた希少性という問題も、ここへ接続する。

希少性を管理するとは、流れを絞ることである。

資源を絞る。

資格を絞る。

信用を絞る。

融資を絞る。

許認可を絞る。

役職を絞る。

情報を絞る。

人材を絞る。

市場参入を絞る。

発言権を絞る。

配管を細くする。

配管が細ければ、通行許可証の価値が上がる。

許可を出す者の価値が上がる。

規格を決める者の価値が上がる。

審査する者の価値が上がる。

認証する者の価値が上がる。

管理する者の価値が上がる。

だから、秀才優位社会は、希少性を必要とする。

希少性を解消してはならない。

誰でも使えるようにしてはならない。

誰でも作れるようにしてはならない。

誰でも理解できるようにしてはならない。

誰でも参入できるようにしてはならない。

誰でも独立できるようにしてはならない。

「これでいいじゃないか」と言わせてはならない。

ブレーキが要らなくなるからである。

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