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医療的ケア児支援法が変わります― 「こどもを支える法律」から、「その人の人生を支える法律」へ ―制度を知る。その先を考える。

Today's Insight

医療的ケア児支援は、

「こどもの時期を支える」から、

「その人の人生を、地域で支え続ける」へ。

2026年7月24日。

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の改正法案が、参議院本会議で可決され、成立しました。

衆議院でも7月14日に全会一致で可決され、参議院でも賛成244、反対0。

今回の改正は、単に支援メニューを増やすものではありません。

法律の名前そのものが変わります。

これまでの

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」

から、

「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」

へ。

少し長い名前になりました。

けれど、この名称の変化には、とても大きな意味があるように思います。

なぜなら、これまで「児」と書かれていた法律が、成長して大人になった後の暮らしまで見ようとしているからです。

医療的ケアが必要なこどもも、やがて大人になります。

学校を卒業します。

働きたいと思う人もいます。

地域で暮らしたいと願う人もいます。

家族も年齢を重ねていきます。

今回の改正から見えてくるのは、

「こどもを支援する制度」から、「一人の人の人生を支える仕組み」へ。

そんな大きな転換ではないでしょうか。


Background

2021年、なぜ医療的ケア児支援法が生まれたのか

「医療的ケア児」という言葉を、最近になって耳にするようになった方もいるかもしれません。

医療的ケア児とは、人工呼吸器による呼吸管理や、たんの吸引、経管栄養など、日常生活を送るうえで恒常的に医療的ケアを必要とするこどもたちです。

医療技術の進歩によって、かつてであれば長期入院が必要だったこどもたちが、家族とともに地域で暮らせるようになりました。

これは、とても大きな医療の進歩です。

一方で、新しい課題も生まれました。

保育園に通えるのか。

学校に看護師はいるのか。

家族が付き添わなければならないのか。

相談できる場所はあるのか。

家族は仕事を続けられるのか。

福祉、医療、保育、教育のどこに相談すればいいのか。

「地域で暮らせるようになったこと」と、

「地域に支える仕組みがあること」は、

必ずしも同じではありませんでした。

こうした背景の中で、2021年に医療的ケア児支援法が成立しました。

それまで自治体などの「努力」とされる部分も多かった医療的ケア児への支援について、国や地方公共団体などの責務を明確にした、大きな転換点でした。


Current Status

そして2026年、法律がもう一度大きく変わる

法律ができてから約5年。

今回、大きな見直しが行われました。

施行予定は2027年4月1日です。

では、何が変わるのでしょうか。


① 「18歳まで」ではなく、その先へ

今回、最も大きな変化の一つが支援対象です。

これまで法律の中心にいたのは、

「医療的ケア児」

でした。

しかし、こどもは成長します。

18歳になったからといって、必要だった医療的ケアが突然なくなるわけではありません。

今回の改正では、

医療的ケア児に加え、

医療的ケア児であった人で、引き続き恒常的な医療的ケアを必要とする人、

成人で、日常生活や社会生活を送るために恒常的な医療的ケアが不可欠な人、

そして重症心身障害者とその家族まで、

法律の支援対象が広げられます。

つまり、

「児童期が終わったら、別の制度へ」

ではなく、

一人の人の人生を連続して見ようという考え方が、法律の中に入ってきたのです。


② 「生きること」から「どう暮らすか」へ

今回の改正で、私が特に大切だと感じる部分があります。

法律の目的に、

本人の意思が最大限に尊重され、

必要な支援を受けながら、

地域社会で自立した生活を営むことができるようにする、

という考え方が明記されます。

ここには、

「医療的ケアが必要だから支援する」

という視点だけではありません。

その人自身が、

どこで暮らしたいのか。

何をしたいのか。

どのような人生を送りたいのか。

本人の意思を中心に考えるという視点があります。

医療の対象としてだけではなく、

一人の生活者、一人の市民として見る。

そこに今回の改正の大きな意味があるように思います。


③ 学校だけでなく、暮らし・仕事・住まいまで

今回の改正では、支援する領域も広がります。

保育や教育だけではありません。

日常生活の支援。

切れ目のない医療。

就労支援。

住まいの確保。

当事者や家族同士が支え合うピアサポート。

生涯学習。

こうした内容が新たに盛り込まれます。

これも重要な変化です。

こどもの頃は、

「保育園に行けるか」

「学校に通えるか」

ということが大きな課題になります。

しかし、大人になれば問いは変わります。

どこで暮らすのか。

働くことはできるのか。

日中はどこで過ごすのか。

医療は継続できるのか。

親が支えられなくなったとき、どうするのか。

今回の改正は、

医療的ケアのある人にも、その先の人生がある

という、ごく当たり前でありながら重要なことを制度の中に位置づけようとしているように見えます。


④ 支援センターも「こどもだけ」ではなくなる

現在、各都道府県には「医療的ケア児支援センター」が設置されています。

相談先が分からない家族や支援者をつなぎ、

医療、福祉、教育などの関係機関を結ぶ重要な役割を担っています。

今回の改正では、

名称も**「医療的ケア児等支援センター」**へ変わります。

また、都道府県だけではなく、指定都市、中核市、特別区などでも設置できるようにし、機能強化を図る内容が盛り込まれています。

さらに、地域の関係者が支援体制について話し合う「医療的ケア児等支援地域協議会」を設置できる仕組みもつくられます。

ここから見えるのは、

一つの支援機関だけで解決するのではなく、

地域の中に支援のネットワークをつくろう

という方向性です。


What This Means

この改正が問いかけていること

今回の改正を、

「対象者が増えました」

「支援センターの機能が増えました」

という制度変更だけで捉えると、大切な部分を見落としてしまう気がします。

もう少し大きな視点で見ると、

国が向き合おうとしている課題が見えてきます。

それは、

医療的ケアのある人が成長しても、その人の人生は続いていく

という、とても当たり前の事実です。

制度には区切りがあります。

児童福祉には18歳という区切りがあります。

学校には卒業があります。

サービスにも対象年齢があります。

行政にも担当部署があります。

けれど、

人の人生に、制度のような切れ目はありません。

昨日まで17歳だった人が、

18歳になった瞬間に別の人になるわけではありません。

必要な医療も、

家族との関係も、

その人らしさも、

地域での暮らしも続いていきます。

今回の法改正は、

制度の側が、少しずつ「人の人生」に合わせようとしている変化なのではないでしょうか。


家族を支える法律から、本人の人生を見る法律へ

2021年の医療的ケア児支援法が果たした役割は、とても大きなものでした。

医療的ケア児と家族が抱えてきた困難を、

「家庭だけの問題」にしない。

社会全体で支える。

そのことを法律として示しました。

そして今回、そこからさらに一歩進んでいます。

本人の意思。

日常生活。

社会生活。

就労。

住まい。

地域生活。

こうした言葉が法律の中に入ってきます。

これは、

「家族が支えられる社会」から、さらに「本人が自分の人生を生きられる社会」へ

視点を広げようとしているとも読めます。

もちろん、法律が変わったからといって、

明日からすべての地域で十分な支援が受けられるわけではありません。

人材不足があります。

地域格差があります。

医療資源の違いがあります。

学校、福祉、医療の連携にも課題があります。

住まいや就労についても、これから具体化していかなければならないことがたくさんあります。

だからこそ、

今回の法改正は「完成」ではなく、

次の段階へのスタート

なのだと思います。


「支える人」を増やすだけではなく、「支えられる地域」をつくる

医療的ケアという言葉を聞くと、

専門職にしか関係のない話に感じるかもしれません。

もちろん、医療的ケアそのものには専門性が必要です。

しかし、

一緒に学校で学ぶこと。

仕事をすること。

地域のイベントに参加すること。

買い物に行くこと。

好きなことを学ぶこと。

家族以外の人と関係をつくること。

こうした暮らしは、

専門職だけでつくられるものではありません。

医療的ケアのある人が地域で生きるということは、

その人だけの問題でも、

家族だけの問題でも、

福祉だけの問題でもありません。

私たちの地域が、多様な人と一緒に暮らせる地域なのか。

そこまで含めて考えるテーマなのだと思います。


編集後記

私自身、医療的ケア児等コーディネーターとして学び、

相談支援専門員として、こどもや家族の暮らしに関わっています。

以前から感じていたことがあります。

それは、

「こどもの支援」を考えているだけでは足りない

ということです。

こどもは成長します。

学校を卒業します。

家族も年齢を重ねます。

そして本人には、その先も人生があります。

今回の法改正を読んでいて、

法律がようやく、その当たり前の時間の流れに少し近づこうとしているように感じました。

「医療的ケア児」という言葉の向こう側にいるのは、

制度の対象者ではありません。

一人のこどもであり、

一人の若者であり、

やがて一人の大人になる人です。

好きなことがあります。

やってみたいことがあります。

誰かと出会い、

迷い、

選び、

その人なりの人生を歩いていきます。

制度を知ることは、

法律の条文を覚えることではないと思っています。

なぜ、その法律が変わったのか。

その背景には、どんな人たちの暮らしがあるのか。

そして、その先にどんな社会をつくろうとしているのか。

そこまで考えてみる。

今回の法改正は、

私たちにこんな問いを投げかけているのかもしれません。

医療的ケアがあっても、年齢にかかわらず、
自分らしく地域で暮らし続けられる社会になっているでしょうか。

法律は変わります。

次は、地域がどう変わるのか。

これからも一緒に考えていきたいと思います。


さらに詳しく知りたい方へ

今回の改正については、次の一次資料から確認できます。

① 衆議院

「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の一部を改正する法律案」要綱

改正後の対象者、目的、支援施策、施行時期など、今回の改正内容を整理して確認できます。

② 衆議院

第221回国会 法律案本文

実際に法律のどの条文がどのように変わるのかを確認できます。

③ 参議院

2026年7月24日 本会議投票結果

改正法案は、投票総数244、賛成244、反対0で可決されました。

④ こども家庭庁

「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」

現行法、医療的ケア児支援センター、現在の支援施策や関連資料などを確認できます。

行政資料というと少し難しく感じるかもしれません。

すべてを読む必要はありません。

今回なら、

「対象者」
「本人の意思」
「就労」
「住居」
「地域社会」

といった言葉だけを追ってみても、

国が今回の改正で何を変えようとしているのかが見えてきます。
成立状況は、衆議院では2026年7月14日に全会一致で可決、参議院では7月24日に244票すべてが賛成となり成立しています。2027年4月1日です。対象拡大、本人の意思の尊重、地域生活、就労・住居・ピアサポート、支援センターの機能強化などは、衆議院の改正法案要綱・法案本文・委員会記録で確認できます。から直接確認できます。
衆議院・改正法案要綱衆議院・改正法案本文参議院・7月24日本会議投票結果


制度を知る。その先を考える。

一般社団法人 福祉でつながる会
代表理事 高田 誠

制度は、社会が目指す未来へのメッセージです。

福祉インサイトでは、制度改正や政策の背景を読み解きながら、
「国はどのような社会を目指しているのか」を考える記事をお届けしています。

▼ プロフィールはこちら
https://note.com/welfare_connect

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