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【福祉LTV論(顧客)第5回】「親切」という名の最強の防衛壁。──LTV1.5倍を確定させる「スイッチング・コスト」の正体

前回の記事で、私は「45分の面談の前後に、90分の泥臭い環境調整(基礎工事)を行っている」と書きました。 役所への同行、申請書類の作成補助、家族との調整……。
これを聞いて、「なんて親切な相談員なんだ」と思った方がいるかもしれません。 あるいは、「そこまでするのは過保護ではないか?」と眉をひそめた経営者もいるでしょう。
はっきり申し上げます。 私がこの「90分」をかける理由は、単なる優しさではありません。 これは、ビジネスにおける「スイッチング・コスト(切り替えコスト)の最大化」という、極めて冷徹な計算に基づいた戦略なのです。
今回は、なぜ私の事業所の利用者が「辞めない」のか。その経済学的なメカニズムについて解説します。

1. 「優しさ」を「戦略」に翻訳する


ビジネスの世界には「スイッチング・コスト」という言葉があります。 あるサービスから他社のサービスに乗り換える際に発生する、金銭的・心理的な負担のことです。
例えば、あなたがiPhoneを使っているとします。Androidの方が端末が安くても、なかなか乗り換えられないのはなぜでしょうか? 「データの移行が面倒」「使い慣れた操作が変わるのが怖い」「Appleのアプリ資産が使えなくなる」……これらがスイッチング・コストです。
私は福祉の現場で、これを意図的に構築しています。

2. 「制度の番人」という不可逆なポジション


私がインテークで行う「90分の基礎工事」には、障害年金の申請や、自立支援医療の手続き、交通費助成の申請などが含まれます。 これらは本来、利用者本人や家族が行うべきものとされていますが、精神的な不調を抱えた方には酷な作業です。
私はあえて、ここに深く介入し、私が持つ「精神保健福祉士」「社会福祉士」としての知識で、最短ルートでこれらを処理します。 すると、利用者の心理に何が起きるでしょうか?

「ここを辞めたら、またあの面倒な手続きを一人でやらなければならない」

「他の事業所に行っても、ここまでやってくれる人はいない」

この心理こそが、最強の離脱防止策となります。 他社のパンフレットがいかに魅力的でも、「生活の基盤(事務手続きや環境調整)を握られている」という安心感は、何物にも代えがたい「接着剤」となるのです。

3. 「依存」ではなく「ポジティブな依存」


「それは利用者を依存させているだけではないか?」という批判には、こう反論します。 私はこれを「制度依存(Positive Dependency)」と呼んでいます。
トップアスリートには、食事管理やスケジュール調整を行う専属マネージャーがいます。 アスリートが競技(本業)に集中するために、雑務を他者に依存することは「甘え」でしょうか? いいえ、それは「プロの分業」です。
利用者様にとっての「本業」は、病気を回復させ、就労に向けて訓練することです。 複雑怪奇な役所の手続きや、家族間の感情的な調整といった「ノイズ」を私が引き受けることで、彼らは初めて「回復と訓練」に全リソースを集中できるのです。
その結果、彼らは早く元気になり、長く通所し、就職していきます。 これが、私の事業所が業界平均の1.5倍のLTV(顧客生涯価値)を叩き出しながら、高い就職率を維持している理由です。

4. 模倣困難な「参入障壁」を作る


多くの事業所は、プログラムの内容(カリキュラム)や、昼食無料といった「目に見えるサービス」で差別化しようとします。 しかし、これらはすぐに他社に模倣されます。
一方で、私が提供している「90分の基礎工事(制度活用と環境設計)」は、簡単には真似できません。 なぜなら、これを行うには精神保健福祉士としての臨床知識、社会福祉士としての制度知識、そして面倒を厭わない泥臭い実務能力のすべてが必要だからです。
「マニュアル化されたサービス」はコモディティ(安売り)化しますが、「個別の人生設計」はブランドになります

まとめ


「親切」は、消費されるものではなく、投資するものです。
もしあなたが経営者で、「利用者が定着しない」と悩んでいるなら、一度点検してみてください。 あなたは利用者に、「ここを離れたら困る」と思わせるだけの「生活のインフラ」を提供できているでしょうか?
笑顔で迎えるだけが支援ではありません。 面倒な手続きの書類一枚を代わりに書くことが、時にはどんな励ましの言葉よりも、強力な信頼(と収益)を生むのです。
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(執筆者)
Welfare Growth Architect(福祉事業成長設計士)

  • 経歴: 精神保健福祉士・社会福祉士。元・理系専門商社営業(13年)× 現・福祉系企業本部管理職。

  • 実績: インテーク成約率66%(業界平均の2〜3倍)、LTV(定着率)1.5倍。開設5ヶ月で満員を実現。

  • Style: 「マニュアルを作らない」を信条とし、臨床的対話と科学的営業を融合させた独自の支援を行う。
    X(Twitter)でも発信中。フォローはこちらから👇


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