DiffusionGemma 登場 ─ テキスト生成をブロック単位で速くする試み
この記事でわかること
この記事では、Google DeepMind が公開した DiffusionGemma について、次の点を整理する。
DiffusionGemma がどんなモデルなのか
従来のテキスト生成と何が違うのか
「ブロックを同時に生成する」とはどういうことか
どんな場面で役立ちそうか
使う前に知っておきたい注意点
DiffusionGemma は、すぐにあらゆる用途を置き換える完成形のモデルというより、テキスト生成の速度を別の角度から探るための実験的なモデルと見ると理解しやすい。
速度に関心がある開発者にとっては、見ておきたい一歩といえる。
DiffusionGemma とは何か
DiffusionGemma は、Google DeepMind が公開した実験的なオープンウェイトモデルだ。
Gemma 4 の 26B A4B Mixture-of-Experts、つまり複数の専門部分を持つ構成を土台にしている。発表上は 26B 規模のモデルとして紹介されているが、モデルカードでは総パラメータ数は 25.2B、推論時に有効になるパラメータは 3.8B とされている。
ライセンスは Apache 2.0。重みが公開されており、研究や開発で触りやすい形になっている点も大きな特徴だ。
なお、DiffusionGemma はテキストだけでなく、画像や動画フレームを入力に含められるマルチモーダルモデルでもある。ただし、出力はテキストだ。この記事では、その中でもテキスト生成の速さに関わる仕組みに絞って見ていく。
ここで大切なのは、DiffusionGemma を「Gemma 4 の新しい高品質版」とだけ見るのではなく、テキスト生成の仕組みそのものを変えてみる実験的なモデルとして捉えることだ。
多くの大規模言語モデルは、文章を左から右へ、1トークンずつ順番に生成する。DiffusionGemma はそこから少し離れ、まとまったテキストのかたまりを同時に扱う。
この違いが、速度や得意分野に影響してくる。
従来のモデルは「1トークンずつ」進むように動く
今よく使われている多くの言語モデルは、自己回帰型と呼ばれる方式で動いている。
難しく聞こえるが、考え方はかなり素直だ。前に出した単語や文字を見ながら、次に来るものを1つずつ決めていく。
ここでいうトークンは、モデルが文章を扱うときの最小単位に近いものだ。日本語では1文字の場合もあれば、単語の一部や短いまとまりになることもある。
たとえば、次のような流れになる。
「今日は」
「今日は天気が」
「今日は天気がいいので」
「今日は天気がいいので散歩に」
このように、少しずつ続きを足していく。文章としては自然で、品質も高くなりやすい。一方で、仕組みとしては順番待ちが発生する。
次のトークンを出すには、前のトークンが決まっていないといけない。これが、生成速度の壁になりやすい。
クラウド上でたくさんの利用者をまとめて処理する場合は、効率よく動かせる場面も多い。けれど、手元のGPUで1人が使うような場面では、GPUの計算能力を使い切れないことがある。
高性能なGPUを持っていても、モデル側が「次を1つずつ決める」流れを続けるため、待ち時間が残ってしまう。ここに、DiffusionGemma が狙っている余地がある。
DiffusionGemma は「下書きをまとめて直す」ように考える
DiffusionGemma の考え方は、画像生成AIで使われる拡散モデルに近い。
画像生成AIでは、最初にノイズのような状態から始めて、少しずつ画像をきれいにしていく。DiffusionGemma は、それに似た流れをテキストへ持ち込んでいる。
もっとも、テキスト生成に拡散モデルの発想を使う研究自体は、以前からあった。DiffusionGemma の特徴は、その方向性を Gemma 4 ベースのオープンウェイトモデルとして、開発者が実際に試しやすい形にした点にある。
最初から左から右へ完璧に文章を作るのではなく、まずテキストのための「キャンバス」を用意する。そこに仮のトークンを置き、何度も見直しながら文章らしい形へ整えていく。
公式情報では、このキャンバスは 256 トークン単位で扱われる。つまり、1トークンずつ順番に確定していくのではなく、最大 256 トークンのブロックを並列に見ながら、何度か見直して整えていく。
ただし、256トークンが一度の処理でそのまま完成するわけではない。ブロック全体を同時に見られる状態にして、複数回の denoising、つまりノイズを取り除くような処理を通じて、少しずつ確からしい形へ近づけていく。
身近な例に置き換えるなら、従来のモデルは「一文を先頭から順番に書いていく」方法に近い。DiffusionGemma は「段落全体のラフな下書きを置き、全体を見ながら何度も直す」方法に近い。
この「同時に眺めながら直す」点が、従来の1トークンずつ進む方式との大きな違いになる。
速さの理由は、GPUにまとまった仕事を渡せること
DiffusionGemma は、GPU上で最大 4倍高速なテキスト生成を目指すモデルとして紹介されている。
ここでいう高速化は、どんな環境でも必ず4倍になるという意味ではない。特に効果が出やすいのは、専用GPUを使ったローカル推論や、同時リクエストが少ない場面とされている。
なぜ速くなるのか。
従来の1トークンずつの生成では、GPUは何度もモデルの重みを読み込みながら、少しずつ結果を出す。これはメモリの読み書きが詰まりやすい処理だ。
一方、DiffusionGemma は 256 トークンのキャンバスをまとめて処理する。GPUにとっては、一度に大きな計算を渡される形になるため、計算性能を活かしやすい。
公式発表では、NVIDIA H100 では毎秒 1,000 トークン以上、GeForce RTX 5090 では毎秒 700 トークン以上という数字も示されている。数字だけを見ると十分に速いが、これは特定のハードウェアや条件での結果として見ておきたい。
DiffusionGemma は、専用GPUに大きな計算をまとめて渡すことで速くする設計なので、Apple Silicon のような統合メモリ環境では効果が見えにくい場合がある。
「全体を見られる」ことの意味
DiffusionGemma の特徴として、双方向の文脈を見られることが挙げられている。
従来の自己回帰型モデルは、基本的に前に出した内容を見ながら次を決める。もちろん内部では高度な処理をしているが、生成の流れとしては左から右へ進む。
DiffusionGemma では、生成中の 256 トークンのキャンバス内を双方向に見ながら調整する。前の部分だけでなく、後ろに置かれた候補も見ながら整えられる。
長い文章では、確定したブロックを文脈として使いながら、次のブロックへ進んでいく。つまり、長文全体を常に同時に見ているというより、ブロック内では並列に見て、ブロック間では順番に進める設計だ。
この性質は、次のような作業で効きやすいと考えられる。
文章の途中を自然に埋める
コードの一部を補完する
Markdown の括弧や見出しの整合性を保つ
数独のように全体の制約を見る必要がある問題を扱う
特に「途中を埋める」作業では、前後の文脈を同時に見られることが助けになる。
たとえば、すでにある文章の真ん中に説明を追加する場面では、前だけでなく後ろの流れにも合わせたい。左から順番に書くだけでは、後ろとの接続が不自然になることもある。
DiffusionGemma のような方式は、この種の作業と相性がよさそうだ。
どんな使い方が考えられるか
DiffusionGemma は実験的なモデルなので、まずは「速度が効く小さなワークフロー」で試すのが向いている。
たとえば、エディタ内の文章補完。長い記事を丸ごと書かせるというより、すでにある文章の一部を整えたり、見出しの下に短い説明を追加したりする用途だ。
反応が速いと、文章を書くリズムを止めにくい。待ち時間が短いだけで、試行錯誤のしやすさは大きく変わる。
もうひとつは、コードの穴埋めや小さな修正だ。
関数全体を最初から生成するより、既存コードの中で不足している処理を補う。前後の流れを見ながら埋める作業は、ブロック単位で全体を調整する考え方と合いやすい。
また、ローカル環境で動かす対話型ツールにも向いている可能性がある。社内文書を手元の環境で要約したり、ローカルの開発支援ツールに組み込んだり、UI上で何度も候補を出し直したりする場面では、最高品質の長文を一発で出すことより、速く返して何度も試せることが価値になる。
DiffusionGemma の方向性は、こうした使い方に近い。
ただし、品質では標準のGemma 4が有利
ここは丁寧に見ておきたい。
公式発表でも、DiffusionGemma は速度や並列生成を重視した実験的なモデルであり、最大品質を求める用途では標準の Gemma 4 が推奨されている。
実際、モデルカードの主要ベンチマークでも、多くの項目で標準の Gemma 4 26B A4B が DiffusionGemma を上回っている。
つまり、DiffusionGemma は「速いから常に良い」というモデルではない。
品質を最優先するプロダクトや、正確さが重要な長文生成では、標準の Gemma 4 のほうが向いている。特に、誤りが許されにくい業務文書、専門的な回答、複雑な推論では、速度だけで判断しないほうが安心だ。
DiffusionGemma は、速さと新しい生成方式を試すための選択肢。そう捉えると、期待しすぎず、かといって過小評価もしない距離感で見られる。
使う前に確認しておきたいこと
DiffusionGemma は、Hugging Face Transformers、vLLM、SGLang、MLX などから利用できると案内されている。ローカルで試す場合は、GPUメモリの条件を先に確認しておきたい。
公式発表では、量子化した場合に高性能なコンシューマー向けGPUの 18GB VRAM 程度に収まるとされている。とはいえ、実際の使いやすさは、量子化方式、推論フレームワーク、入力長、同時処理数によって変わる。
最初から大きな用途を想定するより、短い質問や小さな補完で挙動を見ていくほうが向いている。
試すなら、次のような流れが落ち着いている。
短い質問で通常の応答速度を見る
文章の途中補完を試す
コードの小さな穴埋めを試す
長めの文章で品質の崩れ方を確認する
既存の自己回帰型モデルと比較する
こうして比べると、速度だけでなく、どの種類の出力で安定するかも見えやすい。
特に、拡散型の生成では、完成前のテキストが途中で書き換わることがある。自己回帰型のように、左から右へ自然に伸びていく表示とは違うため、UIで途中経過を見せる場合は工夫が必要になりそうだ。
開発者が見るべきポイント
DiffusionGemma の面白さは、単に「速いモデルが出た」という話にとどまらない。
テキスト生成は長く、左から右へ1トークンずつ作る方式が中心だった。もちろんその方式は強く、今後も主流であり続ける可能性が高い。
ただ、すべての用途がその方式に最適化されているわけではない。
文章の一部を書き換える。コードの空欄を埋める。構造の整った短い出力を高速に作る。ユーザーの入力にすぐ反応するローカルアシスタントを作る。
こうした用途では、ブロック単位で同時に考える方式が新しい選択肢になる。
DiffusionGemma は長い文章を扱うために、ブロックごとの生成と従来型の流れを組み合わせる仕組みも採用している。256トークンのキャンバスを生成し、それを確定させて次のブロックへ進む形だ。
完全に順番を捨てるのではなく、ブロック内では並列に、ブロック間では安定して進める。実験的でありながら、現実の利用も意識した設計に見える。
特に相性がよさそうなのは、ローカルGPUで低遅延のAIツールを作りたい場合や、エディタ内補完のように短い応答を何度も出したい場面だ。文章やコードの途中を自然に埋める用途でも、ブロック単位で見直す仕組みがうまく働く可能性がある。
一方で、最高品質の長文、複雑な推論、厳密な正確性が必要な業務では、標準的な高品質モデルとの比較を欠かさないほうがよい。
DiffusionGemma は、完成された答えというより、新しい問いを見せてくれるモデルだ。
テキスト生成は、本当に1トークンずつ進むしかないのか。GPUの力をもっと自然に使える生成方法はないのか。そうした問いに対する、具体的な試みになっている。
すぐに日常のAI利用が大きく変わるとは限らない。けれど、ローカルで速く、対話的に何度も試せるAIを作る流れには、確かにつながっているように思える。
焦らず、まずは得意な場面を見つけるところから始めたいモデルだ。
参考リンク
DiffusionGemma の公式発表
https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/diffusion-gemma-faster-text-generation/DiffusionGemma 開発者向けガイド
https://developers.googleblog.com/diffusiongemma-the-developer-guide/DiffusionGemma 26B A4B モデルカード
https://huggingface.co/google/diffusiongemma-26B-A4B-itGoogle AI for Developers:DiffusionGemma モデルカード
https://ai.google.dev/gemma/docs/diffusiongemma/model_cardHugging Face Transformers での実行方法
https://ai.google.dev/gemma/docs/diffusiongemma/inference-diffusiongemma-with-hfNVIDIA環境向けの最適化情報
https://blogs.nvidia.com/blog/rtx-ai-garage-local-gemma-diffusion/
