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🌟 なぜABC『The Lexicon of Love』はUKロック史に残る名盤なのか? 🌟

🎧 まずはこの一曲!『The Lexicon of Love』を象徴する、きらびやかなのにどこか苦い決定打 🎧

このアルバムを一曲で感じるなら、最大のヒット曲「The Look of Love」が最適です。跳ねるリズム、華やかなホーン、一度で耳に残るメロディ。80年代ポップソングとして異常なほど完成度が高く、今聴いても一瞬で空気を変える力があります。けれどこの曲は単純なラブソングではありません。「愛の表情」を歌っているようでいて、そこには疑い、諦め、見栄、空回りが混ざっている。明るく踊れるのに、どこか心からは笑っていない。その感じがいいのです。きらびやかなポップの奥に、どうにもならない感情のこじれがある。だからこそこの曲は、単なる時代のヒット曲ではなく、アルバム全体の核になっています。全英4位を記録した、バンド最大のヒットです。


「The Look of Love」


ABCとは?:シェフィールドから現れた、ニュー・ポップ最高の演出家たち


ABC(エービーシー)は、イングランド・シェフィールド出身のポップ・バンドです。中心人物はヴォーカルのマーティン・フライ、ギター/キーボードのマーク・ホワイト、サックスのスティーヴン・シングルトン、ドラムのデヴィッド・パーマー。エレクトロニック色の強いヴァイス・ヴァーサを前身とし、そこからよりポップで洗練された方向へと変化していきました。ヒューマン・リーグやキャバレー・ヴォルテールを生んだ電子音楽/ポストパンクの土地で育ちながら、彼らは冷たい機械音だけに向かうのではなく、ソウル、ディスコ、映画音楽、ミュージカルのような派手な演出へと進みます。その結果として1982年6月にNeutronから生まれたデビュー作『The Lexicon of Love』は、いきなり全英アルバムチャート1位を獲得。デビュー作にして時代の中心へ躍り出た一枚となりました。アルバム・タイトルは、彼らのライヴを評したNME誌の見出しに由来しています。


1. 音は華やかなのに、感情は傷だらけ


『The Lexicon of Love』を聴いてまず感じるのは、音の豪華さです。ストリングス、ホーン、分厚いリズム、艶のあるベースライン、きらびやかなシンセサイザー。音だけを追えば、非常にゴージャスで、都会的で、80年代的な派手さに満ちています。しかし、歌われている世界はそこまで明るくありません。恋愛は成就するというより、すれ違い、裏切り、執着、諦めへと向かっていく。甘い言葉の裏側には、どこか醒めた視線がある。この「音は華やかなのに、感情は傷だらけ」というズレこそが、このアルバム最大の魅力です。まるで、失恋した人間が部屋で泣いているのではなく、巨大なステージに立ち、照明とオーケストラを背負って失恋を演じているような感覚がある。悲しいのに派手、未練がましいのに気取っている、傷ついているのに最後までポーズを崩さない。この大げささこそがABCの美学です。タイトルが示す「愛の語彙集」に並ぶのは、幸福な言葉ばかりではなく、むしろ失敗した恋愛の単語なのです。


2. トレヴァー・ホーンの音と、アート・オブ・ノイズの胎動


本作は、ABCのアルバムであると同時に、プロデューサーのトレヴァー・ホーンのプロダクション作品としても重要です。音の一つひとつが大きく、磨かれ、緻密に配置されています。ドラムは派手に鳴り、ストリングスは映画のように広がり、ホーンは歌の感情をさらに大げさに煽る。小さな失恋を、世界の終わりのように鳴らす——個人的な感情を、巨大なポップミュージックの建築物へと変えてしまうのです。この現場には、オーケストレーションを手がけたアン・ダドリー、フェアライトCMIをプログラムしたJ.J.イェチャリク、エンジニアのゲイリー・ランガンが集っており、彼らはホーンとともに翌年アート・オブ・ノイズを結成することになります。のちにフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどで頂点に達するホーンの巨大で光沢のあるサウンド。その原型のひとつが、この一枚に詰まっています。


3. アルバム内の主要楽曲紹介


  • 「Show Me」 アルバムの幕開けを飾るオープニング曲。軽快なリズム、ソウル/ディスコ的なベース、そこに乗るマーティン・フライの芝居がかったヴォーカルで、バンド演奏というより「ショーが始まった」ような感触を一気に作り出します。

  • 「Poison Arrow」 全英6位・全米25位を記録した代表的シングル。タイトルは恋の矢ではなく「毒矢」で、ロマンティックな言葉を使いながら中身はかなり辛辣です。悲劇を泣き崩れるように歌うのではなく、スーツを着てライトを浴びながら「傷ついた自分」をスタイリッシュに見せる——その演劇性にABCのセンスが凝縮されています。

  • 「All of My Heart」 派手な曲が多い中で、よりバラード的に感情の輪郭がはっきり見える楽曲。ストリングスの使い方、メロディの運び、ヴォーカルの切実さ。過剰でありながら不思議と嘘に聞こえず、人工的な装飾の隙間から本音が漏れるような美しさがあります。


結論

ABC『The Lexicon of Love』は、1980年代ニュー・ポップを代表する名盤です。デビュー作でありながら完成度は異常に高く、ポップで、踊れて、華やかで、都会的。それでいて、歌われている感情は意外なほど苦い。このアルバムの魅力は、甘いメロディと辛辣な感情、豪華なサウンドと失恋の空虚さ、その両方が同時に存在しているところにあります。「The Look of Love」や「Poison Arrow」のヒット曲だけを聴いても楽しめますが、通して聴くとより大きな物語が見えてくる。恋愛は美しい、けれどだいたい面倒くさい。愛は輝いている、けれどその輝きはしばしば毒を含んでいる。そんな身もふたもない真実を、ここまで豪華絢爛なポップミュージックに仕立てたところに、この作品のすごさがあります。失恋を巨大なショービジネスに変えたアルバムであり、80年代英国ポップが最も美しく、最も気取って、最も大げさに輝いた瞬間のひとつです。


本記事で紹介したアルバム

アーティスト名:ABC /アルバム名: The Lexicon of Love

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