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Artforum 2025/Nov.「THE FUTURE OF PHOTOGRAPHY」精読ノート――写真の「未来」はどこで決まるのか?

Artforum 2025年11月号の特集「The Materiality of Photography」の中核テキストとして掲載された座談会
“THE FUTURE OF PHOTOGRAPHY: A ROUNDTABLE” は、

  • ケトゥタ・アレクシ=メスキシヴィリ(アーティスト)

  • トーマス・デマンド(アーティスト)

  • ジェフ・ウォール(アーティスト)

  • フロリアン・エブナー(ポンピドゥー・センター写真部門キュレーター)

  • ロクサナ・マルコシ(MoMAチーフ・キュレーター)

  • クリスチャン・シャイデマン(写真・コンテンポラリーアート修復家)

  • 司会:パブロ・ラリオス(ライター/キュレーター)(Artforum)

という、作家/キュレーター/修復家が横並びになったかなり珍しい布陣のラウンドテーブルです。
以下では、令和人文主義者=「生活と接続した人文学」を志向する読者を想定しつつ、

要約 → 論点整理 → 用語解説 → ファクトチェック → 批判分析

の順で、「写真の未来」をめぐる議論を読み解いていきます。
note にそのまま貼れる構成・分量を意図しています。


1. 要約:このラウンドテーブルで何が語られているか

1-1. きっかけは「材料の危機」から

座談会は、トーマス・デマンドの近作――
銅板に直接プリントする「触覚的」な作品――への質問から始まります。

  • 彼は長らく「紙のロジック」(幾何学的で脆く、プロトタイプとしての紙)にこだわってきたが、
    フィルム/印画紙/マウント材などが次々と生産終了になり、「産業そのものが危機」にある。

  • そこで「紙である必要はない」と発想をずらし、銅板などの支持体にプリントする試みへ移行した。

  • それでも「世界―カメラ―撮影者」という**写真固有の構図(photographic equation)**さえ保たれれば、
    それはなお写真であり得る、という立場を示します。

ここで早くも、「写真の未来=どの材料にどうプリントされるのか」という、
きわめて物質的で技術史的な問題が立ち上がります。

1-2. 「静止画」から「生成的で伸縮するイメージ」へ

MoMAのロクサナ・マルコシは、
写真の歴史をカメラ・オブスクラと感光物質という二つの発明から捉え直しつつ、
現代の変化を次のように整理します。

  • 映画的(cinematic)、アルゴリズム的(algorithmic)、AI的なプロセスが一般化し、
    写真はもはや固定された静止画ではなく、生成的で伸縮する時間的メディアになっている。

  • 写真はそもそも、科学、演劇、絵画、彫刻など、他ジャンルのアーティストが持ち込んだ実験の場でもあった。
    → 今日のAIやコンピューテーショナル・イメージングも、その延長として位置づけられる。

つまり「写真の未来」は、メディア横断的なプロセスの交差点として立ち現れている、というわけです。

1-3. 写真の「寿命」と美術館:見せるか、守るか

ジェフ・ウォールは、写真の寿命をめぐる議論を、歴史的に整理します。

  • 「真剣な写真」は長らく**写真集(フォトブック)**という形で読まれてきた。
    その場合、個々のプリントの長期保存性はさほど問題にならなかった。

  • しかし1970〜80年代、大判カラー作品のギャラリー・ミュージアム進出とともに、
    写真は絵画・彫刻と同等の「物質として長期に残るべき作品」とみなされ始め、
    プリントの安定性が重要な問題として浮上した。

マルコシは、ここからさらにミュージアム内部のジレンマに話を進めます。

  • アルブミン/ゼラチンシルバー/クロモジェニック(Cタイプ)など、
    多くの写真プリントは光に非常に弱い

  • 展示すれば黄変・退色し、展示しなければ「見る場」としての美術館の役割が揺らぐ。

  • MoMAは2019年の再開館時に全メディアを統合展示するリインストールを行ったが、
    その裏では、写真作品だけが展示から引き上げられる/アーカイブに引っ込むという緊張が常にある。(The Museum of Modern Art)

この「見せる/守る」の二律背反が、ラウンドテーブル全体の太い柱になります。

1-4. ポンピドゥーとDFI:アーカイブと「スコア」という発想

ポンピドゥー・センターのフロリアン・エブナーは、
**フランス法によりオリジナルプリントを手放せない(不可譲)**ことを前提に、

  • アーティストを 取得の最初期から巻き込み
    将来の再プリントや別形式での展示をどう考えるかを一緒に決める。

  • たとえばエリック・ボードレールの《Site Displacement》のように、
    スライド投影版と額装プリント版など、複数の形態が併存する作品を前提にアーカイブしている。

と説明します。

修復家クリスチャン・シャイデマンは、
ドイツで構想されている Deutsches Fotoinstitut(DFI) を引き合いに出しつつ、

  • 写真材料とプロセスに関する「身体化された知識」を保存する仕組みが必要だが、
    それは日本の人間国宝(Living National Treasure)制度のようなモデルにも学び得る。(DFI e.V.)

  • さらに、ネルソン・グッドマンの区別を踏まえ、
    一回性の強いオートグラフィック(autographic)な作品と、
    スコアやプロトコルに基づくアログラフィック(allographic)な作品を区別する必要がある、と指摘します。(De Gruyter Brill)

ここで重要になるのが、
「スコア(楽譜)」として作品を残すという考え方です。

  • ピップ・ローレンソンの有名な論文(2006)を参照しつつ、
    タイムベースド・メディアやインスタレーション作品では、
    作品の「正しさ」は単一のオリジナルではなく、
    インストラクション/スコアに沿って再演されることにあると説明します。(tate.org.uk)

写真もまた、スコアに基づく「演奏される作品」になり得るのではないか
という問いがここで提示されます。

1-5. アナログ回帰と「オブジェクトとしての写真」の魔力

ケトゥタ・アレクシ=メスキシヴィリは、ベルリンのラボ gOlab/gOdigital での経験を語ります。

  • gOlabは2000年にスザンナ・キルシュニックが立ち上げたアナログCプリント専門ラボで、
    若い学生向けのアナログワークショップは常に満席。(golab.de)

  • 同時にgOdigitalではデジタル・アーカイバル・ピグメントプリントも手掛ける。
    → 一人のプリンターがアナログとデジタルをまたぐ知識を持っていることが重要だと強調します。(PiB (Photography in Berlin))

ジェフ・ウォールは、

  • ピグメントプリントの安定性の高さを指摘しつつ、

  • それでも「物質として長く残ることを社会が期待するごく少数の写真」だけが、
    絵画や彫刻と同じ重い負荷を背負わされている、と語ります。(John Craig Photography)

トーマス・デマンドは、

  • アナログプリントの触覚性や「パティナ(時間の痕跡)」が、
    スクリーン上の画像にはない魅力を持つと述べ、

  • 大量生成可能なAIイメージの時代だからこそ、
    オブジェクトとしての写真のアウラが逆説的に強まっている、と主張します。

ケトゥタ自身は、

  • アナログで育ち、10年ほどはデジタルプリントを中心に制作してきたが、
    パンデミック後に「スクリーン上で生きつづけること」に違和感を覚え、
    再び暗室に戻った。

  • いまは、アナログCプリントと、アルミ板への昇華型デジタルプリントを並行して制作し、
    「相反するプロセスの緊張」に興味を持っている、と語ります。

1-6. 「インデックスでもコピーでもない」写真:アナロジーとしてのイメージ

議論はやがて、写真の本質は何かという哲学的問いに向かいます。

  • ケトゥタは、写真を「証拠(evidence)」でありつつ、
    同時に主観的な世界構築でもあると捉え、
    インデクシカリティ(現実との物理的な痕跡性)とワールドビルディングの緊張に関心があると述べます。

  • マルコシはカイア・シルバーマン『The Miracle of Analogy』を参照し、
    写真はインデックスでもコピーでもなく、
    **世界とイメージの間のアナロジー(類比関係)**として働くと紹介します。(アマゾン)

この視点から見ると、

  • 写真はもはや「一度きりの瞬間を凍結した証拠」ではなく、

  • 時間にまたがって生成され、再演される類比的プロセスとして理解される、
    という方向性が見えてきます。

1-7. ゴールディンとティルマンス:アナログへの憧れと若い観客

ケトゥタは、最近の展覧会として

  • ナン・ゴールディンのベルリン・ノイエ・ナショナルギャラリーでの大回顧展
    “This Will Not End Well”(Staatliche Museen zu Berlin)

  • ウォルフガング・ティルマンスのMoMAおよびポンピドゥーでの展示

を挙げ、若い観客が強く共鳴していたと述べます。(The Museum of Modern Art)

  • スライド・プロジェクション、カラースライドのキャロセル、デジタル・プロジェクションなど、
    アナログとデジタルをミックスした展示構成。

  • 特にアナログスライドとプリントには独特のルックとフィールがあり、
    「よりシンプルな写真言語」へのノスタルジアが感じられる、と述べます。

マルコシはティルマンスについて、

  • 彼がゼロックスコピーやカメラレス作品など、
    不純物や偶然性を前景化するイメージを扱ってきたこと、

  • その背景に、天文学やコピー機への初期の関心、
    そしてシグマール・ポルケの「ネガは決して完成しない」という言葉があることを補足します。(The Museum of Modern Art)

1-8. ベンヤミンの「アウラ」は再び立ち上がるのか?

司会のラリオスは、
オリジナル写真を布カーテンの裏に展示して光ダメージを防ぐような展示を見た経験から、

  • こうした保護措置は、逆に写真オリジナルの「唯一性」をフェティッシュ化してしまうのではないか?

  • ベンヤミンが論じた「複製技術時代のアウラの凋落」と逆行していないか?

と問いかけます。

エブナーは、

  • ベンヤミンが本当に問いたかったのは、
    「写真は芸術か?」ではなく、「写真が芸術の認識をどう変えるか?」だったと指摘しつつ、

  • 現実には、いまだにわれわれはオリジナルのフェティッシュにしがみついている、と認めます。(Artforum)

そのうえで彼は再びローレンソンの比喩に戻り、

写真の「複製可能性」を、
一回性を守るための敵としてではなく、
作品コンセプトを未来に「演奏」し続けるための資源として使えないか

と問い直します。

1-9. AI・アーカイブ・インフラ:技術はどこから来て、どこへ行くのか

後半では、AIと保存の関係も議論されます。

  • マルコシは、MoMAだけでなくナショナル・ギャラリー(ロンドン)やMITなどで、
    AIとコンピュータビジョンを使った染料退色の予測・補正の研究が進んでいると指摘。(Artforum)

  • シャイデマンも、AIがアーティストインタビューや修復プロセスの膨大なドキュメント整理に使われ始めていると述べます。(MDPI)

しかしマルコシは最後に、

  • AIやコンピューテーショナルな技術は決して「無垢な」ものではなく、
    それ自身が**採掘的インフラ(データセンター、レアメタル、エネルギー)**に支えられていること、

  • 写真史そのものが植民地主義と深く結びついてきたことを想起すべきだと強調します。(SpringerLink)

つまり、写真の未来を考えるとき、
保存技術そのものが、どのような権力関係と資源の不均衡の上に成り立っているかを忘れてはならない、
という倫理的な課題が最後に残されます。


2. 論点整理:このテキストが立てている5つの問い

ここからは、座談会の論点を、令和人文主義的な関心に沿って整理してみます。

2-1. 物質性と保存:写真はどこまで「モノ」でいられるか?

  • 写真材料(フィルム、印画紙、薬品、ラボ)の消失と、
    それに伴う身体知の消滅(ベテランプリンターの退職/転職)。

  • 新しいピグメントプリントや金属支持体による超長期保存性の獲得。

  • その一方で、クロモジェニックプリントの脆弱さが、美術館の展示・貸出を制限している現実。(John Craig Photography)

→ 「写真を長く残すこと」と「写真を人に見せること」が矛盾し始めている。

2-2. アウラと複製可能性の再配列

  • ベンヤミン的な意味での「アウラの凋落」は、
    デジタル複製とSNSの拡散によって、ある程度「達成された」ように見える。

  • しかし実務レベルでは、
    光から守るために布で覆われたオリジナルプリントのような状況が、
    逆に新たなアウラを生成している。

  • そこで提案されるのが、
    **「スコアとしての作品」**という発想:
    プリントそのものではなく、
    作品コンセプトやインストラクションを将来世代に渡す。(tate.org.uk)

→ アウラは「一個のオリジナル」ではなく、
スコアとその解釈の履歴の中に分散していくのではないか?

2-3. アナログ/デジタル/AIの再構成

  • アナログ=真/デジタル=偽という単純な二元論ではなく、

    • アナログは、「証拠」でありつつ、同時に世界を想像的に構築するメディア。

    • デジタルは、流通・編集・拡張性の高さと引き換えに、
      フォーマット移行の失敗による「突然の喪失」を抱える。

  • AIは、

    • 一方で保存や修復を助けるツールであり、

    • 他方で、巨大なデータセンターと資源採掘に支えられたインフラ/権力装置でもある。(ResearchGate)

→ ここでは、「どの技術が偉いか」ではなく、
どの技術が誰の負荷と引き換えに成立しているかという問いが重要になる。

2-4. インスティテューションと権力:誰が「写真史」を書き換えるのか?

  • キュレーターと修復家は、展示の可否を通じて写真史の目立つ/埋もれるを決定してしまう。

  • 保存のために展示から外された作品は、
    「存在するが誰も見ない」状態に置かれる。

  • DFIや美術館のアーカイブは、
    単なるストレージではなく、
    力学の中心としてのインフラである。(DFI e.V.)

→ 「写真の未来」は、作家だけでなく、
美術館/アーカイブ/ラボの制度設計によっても決まる

2-5. 倫理と非対称性:誰の写真が未来に残るのか?

  • AIやデジタル保存技術は、
    すでに富とインフラを持つ美術館や国に有利に働きやすい。(MDPI)

  • 植民地主義的なアーカイブ構造を引き継いだまま、
    さらに「高度な保存技術」が導入されれば、
    どの地域/コミュニティのイメージが未来に残るかの不均衡はむしろ拡大しうる。

→ 写真の未来を考えることは、
どのイメージに「未来を持つ権利」を与えるかを考えることでもある。


3. 用語解説(令和人文主義者のためのミニ辞典)

3-1. クロモジェニックプリント(C-type)

カラー銀塩プリントの代表的方式。
カラーネガまたはデジタル露光データを、
**発色現像(chromogenic)**で処理することで色を出す印画紙。

  • 代表例:Kodak Endura、Fuji Crystal Archiveなど。(John Craig Photography)

  • 発色染料が光や環境汚染に弱く、
    展示条件によっては数十年レベルで退色する可能性があるとされる。(John Craig Photography)

3-2. ピグメントプリント(インクジェット・アーカイバル)

顔料系インクを使ったインクジェットプリント。
染料よりも光・ガスに対して安定で、
検証によっては「数百年レベル」の耐光性を示すケースもあると報告されています。(John Craig Photography)

ただし、

  • 実際の寿命は用紙/インク/環境によって大きく変わる。

  • 「ピグメントだから絶対安全」ではなく、管理と検証が前提。

3-3. gOlab/gOdigital(ベルリン)

  • gOlab:2000年設立のアナログCプリント専門ラボ。
    展覧会用の手焼きカラーを得意とし、ワークショップやラボレンタルも行う。(golab.de)

  • gOdigital:2012年に設立されたデジタルラボ。
    高品質のデジタル・アーカイバル・ピグメントプリントやドラムスキャンを担う。(PiB (Photography in Berlin))

アナログとデジタルの両方を同じ人間が横断する現場として、
本ラウンドテーブルでも象徴的に扱われています。

3-4. Deutsches Fotoinstitut(DFI)

ドイツ・デュッセルドルフで設立準備中の国立写真インスティテュート。(DFI e.V.)

  • 写真遺産の保存・研究・公開を統合する拠点として構想されており、
    連邦政府とNRW州が約8,600万ユーロを拠出。

  • シンディ・シャーマンやジェフ・ウォールらアーティストも支援を表明している。(ウィキペディア)

座談会では、技術と身体知の保存拠点としての役割が期待されています。

3-5. 日本の「人間国宝」制度(Living National Treasure)

  • 正式名称は**「重要無形文化財保持者」**。

  • 演劇・音楽・工芸などの高度な技能を持つ個人/団体を国が認定し、
    年間200万円の助成などを通じて技能の継承を支援する制度。(ウィキペディア)

デマンドとシャイデマンは、
この制度をモデルにしつつ、
写真プリント技術の「生きたアーカイブ」をどう制度化するかを議論しています。

3-6. オートグラフィック/アログラフィック(Nelson Goodman)

アメリカの美学者ネルソン・グッドマンが提示した区別。(De Gruyter Brill)

  • オートグラフィック(autographic)
    制作履歴が個別に重要で、「本物/贋作」が問題になる作品(絵画、彫刻など)。

  • アログラフィック(allographic)
    スコアや記譜に基づいて、複数の正当な実現形がありうる作品(音楽、演劇など)。

写真は長らく「オートグラフィック寄り」に扱われてきたが、
デジタルやAI時代において、
どこまでアログラフィックな作品として扱えるかが問われています。

3-7. スコア(score)としての作品

ピップ・ローレンソン「Authenticity, Change and Loss in the Conservation of Time-Based Media Installations」(2006)に由来する考え方。(tate.org.uk)

  • タイムベースド・メディア作品では、
    作品の「本質」は1回きりの上映ではなく、
    インストラクションやスコアに基づいて何度も再演されることにある。

  • 写真にこれを適用するなら、
    作品の内容・サイズ・支持体・設置条件などをプロトコルとして記録し、
    将来世代の再制作を許容する
    発想につながる。

3-8. カイア・シルバーマン『The Miracle of Analogy』

  • 2015年刊行。写真史を「アナロジー(類比)」の観点から書き換える試み。(アマゾン)

  • 写真はインデックスでもコピーでもなく、
    世界とイメージのあいだに**関係性を結び直す「アナロジー」**として理解されるべきだと主張。

  • 本ラウンドテーブルでは、
    「ノン・スタシス(non-stasis)」――静止していない写真――という観点と結びつけて参照される。

3-9. AIによる保存・修復

  • MITの研究者アレックス・カチキンによる「AI生成マスクを使った絵画修復」など、
    数時間でダメージを補償する新手法が報告されている。(news.mit.edu)

  • ナショナル・ギャラリー(ロンドン)では、
    デジタル画像処理を使って5年ごとの色変化を測定し、
    環境条件と退色の関係を長期的にモニタリングしている。(nationalgallery.org.uk)

写真特有の染料退色(クロモジェニック)の完全なAI予測モデルはまだ初期段階ですが、
「材料の未来」をシミュレーションしながら保存方針を決めるという方向性が見えています。(wilhelm-research.com)


4. ファクトチェック(主要ファクトと検証結果)

※座談会の全文に含まれるすべての事実命題を個別検証するのは物理的に不可能なので、
ここでは 論旨に関わる主要なファクト に絞って、
複数ソースからの確認結果をまとめます。

4-1. Artforum特集「The Materiality of Photography」と本ラウンドテーブル

  • 主張
    「The Future of Photography: A Roundtable」は、Artforum 2025年11月号の写真特集の一部であり、
    参加者は Ketuta Alexi-Meskhishvili, Thomas Demand, Florian Ebner, Roxana Marcoci,
    Christian Scheidemann, Jeff Wall、司会 Pablo Larios である。

  • 検証結果:ほぼ完全に正確。

    • Artforumサイトの著者ページおよび特集紹介は同じタイトルと参加者名を掲載。(Artforum)

4-2. MoMA 2019年の「メディア統合」リインストール

  • 主張
    MoMAは2019年の拡張・再開館時にコレクション展示を全面的に再構成し、
    絵画・彫刻に加え、映画・写真・デザイン・建築などを統合的に展示する方針を採用した。

  • 検証結果:概ね正確。

    • MoMA公式サイト「A new MoMA」は「コレクションを全面的に再インストールし、
      フィルム、写真、デザイン、建築などを中心的ストーリーに統合した」と説明。(The Museum of Modern Art)

4-3. Deutsches Fotoinstitut(DFI)の設立計画

  • 主張
    DFIはドイツに設立予定の国立写真インスティテュートであり、
    写真文化の研究・保存・普及を担う。

  • 検証結果:事実。

    • DFI公式サイトおよびWikipediaは、
      DFIがデュッセルドルフに設立中であること、
      連邦政府とNRW州の共同イニシアチブであることを明記。(DFI e.V.)

4-4. gOlab / gOdigital とスザンナ・キルシュニック

  • 主張
    スザンナ・キルシュニックは、2000年にベルリンでアナログカラーラボ gOlab を創設し、
    2012年にデジタルラボ gOdigital を共に立ち上げた。

  • 検証結果:事実。

    • gOlab公式サイトおよび各種プロフィールは、
      2000年のgOlab設立、2012年のgOdigital設立、
      アナログCプリントおよびデジタル・アーカイバルプリントへの従事を記載。(golab.de)

4-5. クロモジェニックプリント vs ピグメントプリントの寿命

  • 主張
    クロモジェニックプリントは退色しやすく、
    ピグメントインクによるインクジェットプリントはより長寿命である。

  • 検証結果:方向として妥当だが、条件依存であり誇張に注意。

    • Wilhelm Imaging Researchを含む複数の技術文献は、
      一般的条件下でCプリントが数十年単位の寿命である一方、
      高品質ピグメントプリントが数百年スケールの耐光性を持つと報告。(John Craig Photography)

    • ただし実際の寿命は紙種・インク・展示環境に強く依存し、
      「必ずこうなる」と断定するのは不正確。

4-6. ナン・ゴールディン《This Will Not End Well》展

  • 主張
    ナン・ゴールディンの大規模回顧展 “This Will Not End Well” がベルリンのノイエ・ナショナルギャラリーで開催され、
    2024〜2025年にかけて大きな注目を集めた。

  • 検証結果:事実。

    • 同展はノイエ・ナショナルギャラリー公式サイトおよび複数の美術メディアで確認できる。(Staatliche Museen zu Berlin)

4-7. 「Wolfgang Tillmans: To look without fear」(MoMA)とポンピドゥーでの展覧会

  • 主張
    ティルマンスは2022–23年にMoMAで大規模回顧展 “To look without fear” を行い、
    2025年にはポンピドゥーの最終展として6,000㎡を使った展示 “Nothing could have prepared us – Everything could have prepared us” を行っている。

  • 検証結果:事実。

4-8. カイア・シルバーマンの「写真=アナロジー」論

  • 主張
    シルバーマンは『The Miracle of Analogy』で、
    写真をインデックスでもコピーでもない「アナロジー」として再定義している。

  • 検証結果:事実。

    • 出版社サイト、書籍紹介、論文PDFはいずれも、
      写真を「アナロジー」と位置づける趣旨を明記。(アマゾン)

4-9. ローレンソン「Authenticity, Change and Loss…」とスコア比喩

  • 主張
    Pip Laurensonの論文は、タイムベースド・メディアの保存において「スコア」比喩を提示している。

  • 検証結果:事実。

    • Tate Papersおよび関連リソースは、
      「真正性・変化・喪失」をめぐってスコア/プロトコルという概念を用いていることを明記。(tate.org.uk)

4-10. 日本の「人間国宝」制度

  • 主張
    日本には、重要無形文化財の保持者を「人間国宝」として顕彰し、
    助成金を通じて技能継承を支援する制度がある。

  • 検証結果:事実。

    • 文化庁資料および複数の解説記事が制度の存在と概要を説明。(ウィキペディア)

4-11. National Gallery London / MIT でのAI・デジタル技術の活用

  • 主張
    ナショナル・ギャラリーやMITなどで、AIやデジタル画像処理を用いた色変化の測定や修復技術が研究されている。

  • 検証結果:概ね正確。

    • ナショナル・ギャラリーはデジタル画像処理による色変化測定システムを公開している。(nationalgallery.org.uk)

    • MITの研究チームはAI生成マスクを使った物理的修復手法を公表しており、
      これがメディアで広く報じられている。(news.mit.edu)

4-12. AIと文化遺産の「バイアス」問題

  • 主張
    AIによる文化遺産アーカイブは、既存のバイアスや非対称性を継承・増幅しうる。

  • 検証結果:事実。

    • 文化遺産とAIを扱う複数の論文が、データ構造・アルゴリズム・インフラの各段階で
      バイアスが発生するリスクを指摘している。(MDPI)


5. 批判分析:このテキストをどう読むか(令和人文主義的視点から)

最後に、このラウンドテーブルを「令和人文主義者」の立場から読んだときに、
見えてくるポイントと違和感を整理してみます。

5-1. 「写真の未来」は、きわめて小さな断面にすぎない

ジェフ・ウォール自身が、

「物理的な永続性が問題になるのは、写真全体のごく一部に限られる」

と語っているように、
ここで議論されている「写真」は、美術館とギャラリーに収蔵される少数の作品にほぼ限定されています。

  • スマホで撮られSNSで消費される膨大なイメージ群、

  • 監視カメラ、医療画像、プラットフォームのレコメンド用サムネイル、

といった「写真的イメージの大部分」は、
ほとんど視野に入っていません。

これは悪いことではなく、
「インスティテューションに回収された写真」の未来に集中している、という意味で明確です。
ただし、令和人文主義的な関心からすると、

「誰の写真が、どのような制度のもとで、未来に残るのか」

という問いを、より広いイメージ経済の中で考え直す必要があります。

5-2. アウラは消えていないどころか、再配分されている

ベンヤミン以後の写真論では、「アウラの凋落」がひとつの定番トピックでした。
けれどもこのテキストを読むと、

  • アナログプリントの「パティナ」

  • 光から守るためのカーテンや展示制限

  • オリジナルと再プリントの微妙な違い

などを通じて、
新しいタイプのアウラが再び立ち上がっていることがよく分かります。

重要なのは、
このアウラがもはや作品そのものに内在する質ではなく、

  • 保存・修復技術

  • 美術館のポリシー

  • 法制度(譲渡不可/著作権)

  • アーティストの「意図」をどう記述するか

といった制度的なレイヤーによって再配分されているという点です。

写真をめぐる「アウラの政治」は、
単なる近代批判ではなく、
21世紀のインフラ政治学として読み直す必要がある、
というのが本テキストから引き出せる示唆です。

5-3. スコアとしての作品観は、「行為主体性」の議論と接続可能

ローレンソンのスコア比喩や、
シャイデマンの「作品のバイオグラフィー(伝記)」という考え方は、
人類学やSTSで議論されてきた

「モノの生涯」「モノのエージェンシー」

と非常に相性が良いアイデアです。

  • 写真作品は、一回きりの「出来事の痕跡」ではなく、
    撮影→プリント→展示→保存→再プリントという
    行為連鎖の中で生成され続ける存在。

  • その連鎖のどこに「権限」と「責任」を置くかによって、
    作品の行為主体性(エージェンシー)のあり方が変わる。

これは、ユーザーが別の読書会で議論してきた
「駆け引きによって行為主体性が立ち上がる」というテーマとも接続できるでしょう。
写真保存をめぐるアーティスト/キュレーター/修復家/ラボ/AIの駆け引きは、
まさにエージェンシーの分配実験になっています。

5-4. AIへのスタンス:テクノロジーではなく「インフラ」として読む

本テキストの優れている点は、
AIを「便利なツール」としてではなく、
採掘的インフラの一部として捉えようとするマルコシの視点です。

  • 電力・水・レアメタル・労働力の不均衡の上に成り立つAIインフラが、
    どの写真を未来に残すのか。

  • その選択が、すでに植民地主義的なアーカイブ構造と結びついている。

令和人文主義的な観点では、
ここからさらに一歩進めて、

  • 写真保存のためにAIを導入することが、
    他地域の生活環境やエネルギー消費にどう影響するのか

  • 「守られる写真」と「守られない写真」の線引きが、
    どのような社会階層/人種/ジェンダー/地域間格差に結びつくのか

といった問いを掘り下げる必要があります。

5-5. 「写真の未来」は、むしろ「写真をめぐる仕事と制度の未来」

このラウンドテーブルの面白さは、
「写真の未来=新しい表現論」ではなく、

プリンターやラボの仕事がどうなるか

修復家の訓練体系をどう変えるかアーカイブの制度や法をどう設計するか

といった、写真を支える仕事と制度の未来を真正面から論じている点にあります。

これは、
令和人文主義がめざす「生活に接続した知」とも響き合う部分です。

  • 作品だけでなく、その周りで働く人々の知識・労働・生活。

  • 技術の変化に伴って消える/現れる職能。

  • それらをどう社会的共通資本として支えるのか。

写真の未来を考えることは、
写真に関わる人びとの未来をどう設計するかを考えることでもあり、
この点で本テキストは、
技術論と労働論・インフラ論をつなぐ好例といえるでしょう。


6. 参考文献リスト(参考用)

※URLは省略し、書誌情報のみ簡略表記しています。

  1. Ketuta Alexi-Meskhishvili et al. “The Future of Photography: A Roundtable.” Artforum, November 2025.

  2. Artforum. “Fugitive Processes: The Materiality of Photography.” Artforum, November 2025.(Artforum)

  3. Deutsches Fotoinstitut (DFI). “A National Institute for Photography.” DFI公式サイトおよび関連資料。(DFI e.V.)

  4. gOlab / gOdigital. “Lab for Analogue Colorprinting / Lab for digital printproductions.” 各公式サイトおよびラボ紹介記事。(golab.de)

  5. The Museum of Modern Art (MoMA). “A new MoMA.” MoMA公式サイト(2019年リインストール・ガイド)。(The Museum of Modern Art)

  6. The Museum of Modern Art (MoMA). “Wolfgang Tillmans: To look without fear.” 展覧会ページおよび関連プレス資料。(The Museum of Modern Art)

  7. Centre Pompidou. “Wolfgang Tillmans: Nothing could have prepared us – Everything could have prepared us.” 展覧会情報およびレビュー。(ポンピドゥー・センター)

  8. Staatliche Museen zu Berlin / Neue Nationalgalerie. “Nan Goldin: This Will Not End Well.” 展覧会情報および批評。(Staatliche Museen zu Berlin)

  9. Kaja Silverman. The Miracle of Analogy: or The History of Photography, Part I. Stanford University Press, 2015.(アマゾン)

  10. Pip Laurenson. “Authenticity, Change and Loss in the Conservation of Time-Based Media Installations.” Tate Papers, 2006.(tate.org.uk)

  11. Henry Wilhelm. “How Long Will They Last? An Overview of the Light-Fading Stability of Inkjet Prints and Traditional Color Photographs.” Wilhelm Imaging Research, 2002.(wilhelm-research.com)

  12. John Craig. “Inkjet vs. C-Prints – Which Lasts Longer?” ブログ記事, 2020.(John Craig Photography)

  13. A. Fenech et al. “Stability of chromogenic colour prints in polluted indoor atmospheres.” Journal of Cultural Heritage, 2010.(サイエンスダイレクト)

  14. National Gallery, London. “Colour Change Measurement by Digital Image Processing.” 技術レポート。(nationalgallery.org.uk)

  15. Alex Kachkine / MIT. “Have a damaged painting? Restore it in just hours with an AI-generated ‘mask’.” MIT News, 2025.(news.mit.edu)

  16. Living National Treasure (Japan). 文化庁資料および各種解説記事。(ウィキペディア)

  17. C. Avlonitou. “A Human–AI Compass for Sustainable Art Museums.” Heritage, 2025.(MDPI)

(※上記以外にも、細部の確認には複数の補助ソースを参照しています。)


7. ハッシュタグ案(20個)

最後に、このテキストを note で検索しやすくするためのタグ案です。

  1. #写真の未来

  2. #Artforum

  3. #現代写真

  4. #写真保存

  5. #アーカイブ

  6. #アウラ

  7. #アナログ写真

  8. #デジタル写真

  9. #AIとアート

  10. #美術館研究

  11. #ジェフウォール

  12. #トーマスデマンド

  13. #ナンゴールディン

  14. #ヴォルフガングティルマンス

  15. #写真理論

  16. #メディア論

  17. #令和人文主義

  18. #STS

  19. #行為主体性

  20. #写真とインフラ

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