短編小説 | 待ち人来たらず①
英語嫌いなのに英語サークルに入った理由を聞かれたら、俺はこう答える。
一般教養で一緒にドイツ語を受けていた経済学部経済学科の小野イチカちゃんより、是非とも入るよう誘われたからです。
そのイチカちゃんからの有難いお申し出を受け、先週から男女のお付き合いしておりました。
はい。かわいいかわいいイチカちゃんです。今この瞬間、俺の目の前におられます。テーブルを挟んで、これでもかの神妙な顔をして前傾姿勢です。
「確かに一昨日も合コンに行ったわ。ある人と連絡先を交換したのも本当。でもね、これだけは信じて欲しいな。試験明けに映画に行こうって言われたんだけど、ちゃんと断ったよ。ね、私って偉くない?」
「……えーっと」
合コンに行った時点でアウトです。男にナンパされたら穢れです。全然偉くないです。
「短い間でしたが、どうもありがとうございました」
「は!?」
イチカちゃんは激おこで去っていきました。
学食に残された俺はここから離れられない事情がありました。
去り際のイチカちゃんの顔は歪んでいたよね。可愛い顔が台無しだってばよ。あんな顔にさせたのは俺?
どんな顔でも君カワイイネェ、なんて言うようなキャラじゃないんだ、俺は。
思いの外、スッキリしとるわ。俺ってイチカちゃんのことがそんなに好きじゃなかったんだろうかと自問自答する。
「おおう、山田」
そこにやって来たのは脳天が黒いプリン頭の田中君である。
田中のピアスといえば、拘りのリアルダイヤモンド。リボ払いではチャラさは帳消しにならないんだよ、知ってたか。
「今そこでイチカちゃんと会ったけど、ひでぇ顔してたわ。原因お前だろ。何やらかしたの、メッチャ怒ってたけど」
「別れたところ」
「マジパネエ。やるな、陰キャ。短かったなあ、最短記録だなおい」
「笑いたければ笑うがいい。最短記録も何も俺にとっては初カノだ」
「初カノかぁ、おめでとう。そしてお疲れ様」
ゴキゲンの田中から親しげに肩を組まれた。
「最終的にイチカちゃん、まんまと先輩に取られたってこと?」
「先輩?」
「鈴木先輩だよ」
「知らね。なんでその先輩? 先輩だらけじゃん。あのサークル」
「交流する気もないのに何で入ったの」
「イチカちゃんがいたからだよ。もう辞めるよ」
「お前がいなくなったら俺が寂しいよ、山田」
「田中……! お前って超いい奴だな……!」
「だろ! だから後で情報処理のノート貸してな……!」
「いいけど、松永の後でね」
「松永?」
イチカちゃんも田中も松永もみんな同じ英語サークル。世界は狭い。
「貸す約束してんの。ここで待ち合わせてんの。イチカちゃんはお前と同じで通りすがったの。約束してたんじゃない」
「イチカちゃんとどんな関係だったのよ、お前。松永って何よ。そんなに仲良かったっけ」
「全然。こんなときばっかりだよ」
②に続きます。
