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【第74回】映画の主人公を見て、自分の人生を重ねた日〜人生を再構築するアドラー心理学~

しなやかな心を作る「思考の道具箱」
人生を再構築するアドラー心理学

道具No.74
~映画の主人公を見て、自分の人生を重ねた日~

朝、いつものようにコーヒーを飲みながら、ソファに座っていました。

特に予定のない休日だった。

何かをする気力もあまりなく、スマホを手に取って、
昨夜録画しておいた映画の続きを再生した。

主人公は、60歳を過ぎた男性だった。

定年後に妻を亡くし、子どもたちとも少し距離ができて、
ひとりで古い家に暮らしている。

最初は、他人事のように観ていました。

「こういう人生もあるんやな」

それくらいの気持ちだった。

でも、映画が進むにつれて、だんだん他人事ではなくなってきた。

主人公が、押し入れから古い写真を取り出す場面があった。

若い頃の家族写真。
仕事で表彰されたときの写真。
子どもが小さかった頃の写真。

彼はそれを一枚ずつ見ながら、しばらく黙っていた。

その表情を見たとき、数年前の自分を思い出した。

私も押し入れを片付けようとして、古いアルバムの前で
手が止まったことがある。

捨てるつもりだったのに、写真を見るたびに動けなくなった。

若かった頃の自分。
仕事ばかりしていた頃の自分。
家族との時間を、つい後回しにしていた頃の自分。

「この人生で、自分は何を残せたんやろう」

そんなことを考えて、片付けどころではなくなった。

昼を過ぎても、映画の主人公は過去の写真を見続けていた。

誰かに会いに行くわけでもない。
新しいことを始めるわけでもない。
ただ、古い写真を見て、ため息をついている。

その姿を見ていると、「自分にもこういうところがあるな」と思って、
少し見ていられない気持ちになった。

なぜなら、自分にも似たところがあったからだ。

50代になると、「もう遅いんじゃないか」と思うことがある。

若い頃に戻れるわけではない。
仕事に使ってきた時間も戻らない。
言えなかった言葉もある。
やり直せなかった場面もある。

そう考えると、前を向くより、過去を眺めている方が楽なときがある。

でも、楽なようでいて、本当はしんどい。

何も変わらないからだ。

私がつまずいていたのは、ここだった。

過去を振り返ることが、人生を整理することだと思っていた。

でも実際は、同じ後悔を何度も思い出して、
前に進む気持ちをなくしていただけだった。

夕方、映画の中で主人公が、小さな映画館へ行く場面になった。

昔、妻と一緒に観た映画を、もう一度ひとりで観に行く。

スクリーンを見つめる主人公の横顔が、少しずつ変わっていく。

寂しそうだった顔が、少しだけやわらかくなる。

その姿を見ていて、私はアドラー心理学の「目的論」という考え方を
思い出した。

過去が今の自分をすべて決めるのではない。

若い頃には戻れない。
でも、「これからはどう過ごしたいか」と考えると、
今日やってみようと思えることが一つ出てきた。

難しい理論としてではなく、その日はとても簡単な問いとして受け取れた。

「10年後の自分は、今日の自分に何と言うだろう」
そう考えると、映画を観終わったあとも、その言葉が何度も頭に浮かんだ。

夜、映画を観終わったあと、私はノートを開いた。

大きな目標を書く気にはならなかった。

人生計画を書くほど、気持ちも整っていなかった。

ただ、一行だけ書いた。

10年後も、今日みたいに映画を観て、音楽を聴いて、静かに笑っていられる自分でいたい。

たったそれだけだった。

でも、書き終えたとき、少しだけ気持ちが楽になった。

過去を全部やり直すことはできない。

家族との時間を後回しにした日もある。
仕事ばかりを優先した時期もある。
素直に言えなかった言葉もある。

それは、消えない。

でも、これからの一日を少し変えることはできる。

誰かに短い連絡をする。
古い写真を一枚だけ整理する。
好きな映画を一本観る。
夜に一行だけ、今の気持ちを書く。

そのくらいなら、今日からでもできる。

昔の自分に、今ならこう言いたい。

「もう遅いと決める前に、今日できることを一つだけやってみたらええ」

人生は、ある日突然、大きく変わるわけではないと思う。

でも、何気ない一日が、少しずつ考え方を変えていくことはある。

映画の主人公は、私ではなかった。

それでも、スクリーン越しに自分の姿を重ねたことで、
「まだ書き足せることがある」と思えた。

今日、あなたにできることは一つだけでいい。

ノートでも、スマホのメモでもいい。

10年後の自分へ、一行だけ書いてみる。

「今日もなんとかやれたよ」
「今日は少し笑えたよ」
「まだ遅くないと思えたよ」

そんな一文でいい。

人生を全部書き直そうとしなくてもいい。

まずは、今日のページに一行だけ書き足す。

そこから、これからの人生は少しずつ変わっていくのだと思う。

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