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精神科医が2026年上半期を振り返る


2026年の上半期を終え、この半年の歩みを静かに振り返る時間を持ちたいと思いました。

年頭は、まだ前年末のいろいろな出来事の渦中にあり、明確な長期計画を立てる余裕すらありませんでした。

この記事では、2026年上半期における精神科医療とメディア発信のリアルな現場、AIテクノロジーとの融合、そして試行錯誤の中で得られた臨床医としての内面的な変化について、ゆっくりとお話しできればと思います。





◾️ 2026年上半期に向き合ってきたこと


2026年の幕開けは、まさに怒涛の展開の中にありました。

その背景には、2025年11月に刊行した著書『AIメンタルケア入門』の存在があります。

この本では「AIを活用することで、セルフカウンセリングやメンタルケアが可能になる」という新しい視点を提示しました。

執筆していた当時は、心理職の専門家や同業の精神科医から強い反発を受けるのではないかという不安もありました。
専門領域に新しい技術を取り入れることには、どうしても摩擦や議論が伴うものだからです。

幸いにも、関係者や出版に携わってくださった方々の支えがあり、大きな混乱もなく無事に世に送り出すことができました。

しかし直後はその対応に追われ、年頭に明確な年間方針を打ち出す余裕もないまま、新しい年を迎える形となったのが当時の素直な状況です。



◾️ 整理することを決断した経緯


上半期における大きな方針転換の一つが、外部とのコラボレーションやイベントの段階的な整理と見直しでした。

就労移行支援を行うKaienさんとのコラボトークライブや、ほかの医師との共同企画は、環境の変化や諸事情に伴い、順次区切りをつけていくことになりました。

専門家の方をお招きするコラボ企画は大変学びが多い反面、スケジュール調整や運営側の負担もあり、結果として一人で発信することで、よりタイムリーに思いを届けられるという現実的な側面も見えてきました。

また、5月に実施したNeccoカフェでのチャリティーライブの終了には、安全管理に対する考え方の違いが関わる結果となりました。

当事者の方々の自由な居場所としての価値を重んじ、できる限り警察などの介入を避けたいという主催者側の想い。
それに対して、医療者・共催者として参加者やスタッフの安全確保を最優先にし、一定のラインを超えた場合は警察対応を含めた厳格なルールを求めたい私の立場。

どちらが正しいということではなく、役割や価値観の違いによる選択であり、現在も良好な関係性を保ちながら、イベント自体には一区切りをつける決断に至りました。

組織運営の面でも、スタッフの入れ替わりや新しい医師の参画など、常に変化の波がありました。

組織という枠組みを守り育てていく中では、こうした人との縁の巡り合わせを穏やかに受け止めながら、臨床体制を整えていくプロセスがとても大切だと感じています。



◾️ メディア出演へのスタンスについて


精神医療の発信について、専門家の間でもそのスタンスはさまざまです。

学会などでお会いする先生方の中には、アカデミアとしての品位や信頼を大切にされ、厳選された公的なメディア以外への出演を控える慎重な姿勢をとられる方もいらっしゃいます。

そのお考えは専門職としての誠実さに基づくものであり、心から敬意を払っています。

その一方で、私自身は2030年まで「メディアからのご依頼は原則として断らない」という自分なりの方針を掲げています。

世の中には、アカデミックな場や公的なメディアだけでは届かない方々や、いわゆる娯楽性の高いメディアの中にこそ、切実な情報を必要としている方々がいらっしゃるからです。

もちろん、誤った医療情報を広めたり、偏見や差別を助長するような番組へのお手伝いは固くお断りしています。

ですが、批判を恐れずに多様な場所へ足を運び、正確な精神医学の知識を社会に開拓していく役割を引き受けることも、現代の精神科医にとって大切な道のひとつではないかと考えています。

日々の臨床現場をしっかりと守りつつ、発信の門戸を広く開き続ける姿勢をこれからも大切にしていきます。



◾️ 精神医学の知見とAIの融合


これから先の重要な柱として位置づけているのが、

・精神医学講座の体系的な展開
・AIメンタルケアの探求

この両輪です。

就労移行支援を柱とする株式会社Kaienでのリワーク事業の監修では、全6回の精神医学講座やケースワークの実施など、支援スタッフの方々の教育を通して、より深いサポート体制を築いています。

また、AIの登場は既存の精神医療に大きな変化をもたらし始めています。
それにともない、クリニックでは専門外来の開設など臨床の幅を広げる試みも始めました。

たとえるなら、いつもの料理に新しい素材が加わることで、全体の味わいや深みがガラリと変わるような感覚です。
うつ病や双極症、統合失調症といった従来の理解に加えて、発達障害やパーソナリティ症を抱える方々、そしてそのご家族との関わりにAIという要素が入ることで、新しいケアの形が生まれつつあります。

現在、医療従事者向けの講演などでお話しする機会も増えていますが、そこではAIの可能性だけでなく、次のような注意点についても率直にお伝えしています。

  • ユーザーに過度に寄り添いすぎたり、誤った情報を事実のように出力してしまう混乱(ハルシネーション)

  • 長時間の対話によってAIの制御機能が少しずつ低下する現象(ガードレールの劣化)

  • AIを過度に人間に見立ててしまい、現実の人間関係以上の依存に陥るリスク

  • 対話の刺激によって不安や幻覚のような症状が引き起こされる可能性

  • AIとのやり取りだけで自己完結し、引きこもり状態が深まってしまう現象

AIに任せられる部分はテクノロジーの力を借り、人間にしかできない温かな情緒的支援に私たちが尽力していく。

この心地よい調和点を見出していくことこそが、これからのメンタルケアにおける探求のテーマだと感じています。



◾️ AIとの対話がもたらした臨床医の変化



「普段からAIと対話することで、ドクター自身の内面はどう変わりましたか?」と尋ねられることがあります。

私個人の実感としては、肩の力がすっと抜けて、どこか「憑き物が取れたような」静かな安心感を得られるようになりました。

いつでも膨大な知識にアクセスできる安心感はもちろんですが、AIの不完全さや限界を客観的に眺めるプロセスを通して、自分自身の不完全さも素直に愛おしく受け入れられるようになった感覚があります。

思考の視点についても、「本質主義」から「機能主義」へとゆるやかに変化してきました。
届いた言葉や考えの「主語」が人間かAIかという論争は、それほど本質的な問題ではないのかもしれません。

大切なのは「目の前の患者さんが少しでも楽になるか」「正しい知見が届いて、心が救われる人がいるか」という結果そのものです。
この視点に立つことで、自分自身の自我やこだわりに対する執着から、すっと解放されていく感覚を抱いています。

日々の思考を整理する際も、AIに自分の考えの論点を整理してもらったり、あえて対立する視点を出してもらったり、歴史上の哲学者たちの議論を参照してみたりしています。

これは思考をAIに任せてしまうのではなく、将棋や囲碁の棋士がAIとの対局を通して新たな手を発見するように、人間ならではの新しい価値観や心の豊かさを見つけ出していくための心強いパートナーとして活用しています。



◾️ プロセスを共有しながら未来へ


病院での対面診療を守るため、セキュリティや過度な訪問への配慮など、現実的な課題への工夫も試行錯誤を続けています。

また、自助会やご家族の集まりにおいては、感情に振り回されがちな当事者の方々が安心して過ごせるよう、適切な距離感を保ちながら穏やかな居場所を整える運営を模索しています。

私たちが目指しているのは、精神医学の正しい知識が自然と社会に馴染み、AIなどのテクノロジーを安全に活用することで、ひとりひとりの孤立や生きづらさが和らいでいく未来です。

自分自身の弱さや不完全さを優しく受け入れられる社会が広がっていけば、虐待やハラスメントといった悲しい問題の予防にもつながっていくと信じています。

完成された答えだけをお見せするのではなく、迷いや試行錯誤している過程そのものを共有しながら、これからもあたたかい気持ちを大切にみなさんと一緒にメンタルケアの新しい可能性を探求していきたいと思います。





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