なんのはなしですか #ショートショート
「だからあの時の話だよ。聞いてる?」
放課後、教室の一番前の自席に座ってぼんやりしていると、通路を隔てて隣の席に座っていた南野が唐突に話し始めた。唐突と感じたのは、良からぬ妄想をしていた自分のせいなのかもしれない。教室には僕と南野しかいなかった。
「ん? あぁ、あの時のね?」
南野の話は、何の話かわからなかったけれど、適当に返事をした。
「そうそう。あの時さ、海に行ったろ?」
あぁ、ウミにいった時の話か。
「うん、いったね」
「あの日はとても暑かったよな?」
「確かに熱かったね」
「水着に替えて、俺は一目散に海へ飛び込んだ! あれは最高だったなぁ」
武勇伝に思いを馳せているのか、恍惚とした表情で南野は遠くを見つめている。何だか気に入らない。君はどうしてそんなにモテるんだ? 陰で泣いている人間もいるというのに。
「うん。でもミズキ、可哀想だったよね」
「ん? そうか? 可哀想って表現はどうなのかわからないけれど、暑かったし気持ち良かったんじゃないか? 水着も」
この男は何を言っているんだ? 普段は冷静な僕の瞳の奥でチリチリと何かが音を立てた。
「君はミズキの気持ちを考えたことはないのかい? 気持ち良いわけがないだろう? ミズキにとったら、君の熱い気持ちなんか、知ったこっちゃないんだから。……君の勝手な心変わりなんだからさ」
「え? あぁ……悪かったよ。あの日、山に行く予定だったのに急遽、海に変えたんだったな。……小西、本当は山に行きたかったんだよな?」
『なっ……!』僕は南野の想定外の言葉に怒りを覚えた。
「君……本当ならヤマにいくつもりだったのかい? 最低だな! 僕の気持ちにも気付いていただなんて……。え? まさかそれを知って、ウミにいったってことか? そんな……。親友の僕を馬鹿にしているのか? そんなのウミ対しても失礼じゃないか」
「気持ちは知ってたよ。でも俺はもともと海に行きたかった! 小西だって、最初は山が良いって言ってたけど、途中からは山より海が良いかもね? って言ったじゃないか! 忘れたのか? 山は天気が変わりやすいし、暑苦しいし、海の方が良いって」
「それは――」
それは、『ヤマが南野を好きかもしれない』という噂を聞いたから、何としても二人が付き合うのを阻止しなければならないと、南野にヤマの悪口を言って聞かせたのだ。駄菓子菓子、面と向かって南野にヤマの短所を言われるのは腹が立つ。
「そ・そりゃぁ、ヤマはお天気屋だし、暑苦しい時もあるけれど、人を包み込む優しさもあるし、確かにウミもいいけど……、僕はヤマの方が好きだ!」
険悪な空気になったところに、橋田がトイレから帰ってきた。寒そうにしながら、僕の後ろの席に着いた。
「さぶぅー。学校のトイレって何であんなに寒いんだろうね?」
僕達の不穏な空気に気付いたのか、橋田はそのまま話を続けた。
「あ、そうそうもうすぐ冬休みじゃん? そろそろ山に行く計画立てようぜ? 小西は山に行きたいんだろ?」
心なしかニヤついているように見えた。橋田にもバレていたとは!
橋田は続けた。
「俺、雪好きなんだよね。冷たいけどさ、白くて静かであの厳かな雰囲気がたまんねぇっつーかさ」
すると南野はこう言い放った。
「わかる! 雪の結晶とか尊いよな! 俺も雪好きだな!」
な・なんだと?!
僕は耳を疑った。 南野はユキも好きなのか? 誠実な男だと思っていたのに。僕の胸の内は沸々と煮えたぎる。
「君はウミが好き。そうじゃないのかい? 確かにユキの決勝の姿は気高くて美しかったよ。でも、君のウミへの情熱はそんなものだったのかい? がっかりだよ!」
僕は先の弓道の試合で、勝ち抜いたユキの姿を思い浮かべていた。背筋のピンと張ったユキは、凛としていて、弓を引く腕は新雪のように白く、袴姿がとても気高く、美しかった。
「いやぁ……、海もいいけどさ、冬の海はつまらないじゃん? 夏は海! 冬はやっぱり雪山だよ!」
ここにきて、さらっとヤマの名前まで出すとは! 君は季節によって、相手の女性を変えるのか? モテる男は何を言っても許されるのか? とんでもない男だ!
僕は怒りのあまり南野を殴った。
「小西! 何やってるんだよ!
南野!鼻血だ!」
そこにタイミング悪く、英語のナンシー先生が教室に入ってきた。真っ赤な7センチヒールのパンプスが今日も似合っている。
「アナタタチ、ナニシテルデスカ!
ナンノ、ハナヂ?」
南野は鼻血を拭いながら、僕をにらみつけて言った。
「小西君が突然殴ってきたんです。俺は何も悪い事はしていないのに!」
僕は、南野の鼻血を見て、少し冷静さを取り戻したものの、まだ怒りは収まらなかった。
「何も悪い事はしていない? 僕はヤマ一筋なんだ。なのに君は夏はウミ、冬はユキとヤマって。しかも、僕がヤマを、橋田はユキを好きだと知っていて、君はそれでもなおだ。そんなの誠実じゃないじゃないか!」
「ナンノハナシ、デスカ?」
ナンシーは僕たちに尋ねた。
僕と南野は同時に答える。
「好きな女性の話です」
「冬休みの予定の話です」
「「え?」」
しばしの沈黙が流れた。
「ユキ・ヤマ・ウミ…………雪山、海?」
怒りで真っ赤になっていた僕の顔は、途端に青ざめていく。
「じゃぁ……、南野は、ヤマのこともユキのことも好きじゃないのかい?」
南野は『なんのはなしですか?』
という顔で「うん」と頷いた。
「すまない! 本当にすまなかった」
僕は誠心誠意、手を突いて謝った。
「もういいよ。勘違いだったんなら仕方がないし。ちなみに俺、ウミとも最近上手くいってないんだ」
そう言うと、南野は悲しそうに笑った。
南野には悪い事をしてしまった。自責の念に駆られていると、場の空気を和ませるように橋田が割って入った。
「小西は本当にすごい勘違いをするな! 女の子のことばっかり考えてるからそんなことになるんだぞ! まぁ、俺もそうだけどな!」
「う・うるさいっ!」
僕は橋田の存在に感謝した。
「まぁ、誤解も解けたことだし、三人の友情とそれぞれの素敵な恋のために、題して『クリスマス雪山スキーでいちゃラブ体験』の計画でも立てようぜ! もちろん、ウミちゃん、ヤマちゃん、ユキちゃんを誘ってな!」
「「いいねー!」」
三人で笑った。高らかに笑った。僕達の友情と恋は誰にも邪魔させない。僕達三人の絆は今回のことでより深まったのだ。何と清々しいんだ! 何と気高いんだ! やはり僕の親友は最高だ!
「カイケツシタヨウネ?
コニシ、ナンノ、ハーシダ?」
ナンシー先生はニッコリと微笑むと、白魚のような指でそっと、葉のようなものを教卓の上に置いた。
「それ、何の葉?ナンシー?」
「コレ? ヤドリギノハ デスヨ。アナタタチヘノエールヲ コメテ」
「あ、僕それ知ってます! クリスマスの!」
「俺も知ってる! 確か『キスして』って意味があるんですよね?」
「俺達の恋愛成就のための葉というわけか!」
『ナンシー先生……とキス……』僕の妄想が再び始まる。駄菓子菓子、ナンシー先生はクスッとセクシーに笑うと、優しく諭した。
「ソウデスネ。デモ、ベツノイミモアリマス。ヤドリギノ ハナコトバ 『コンナンニ、ウチカツ』 デス」
「困難に打ち勝つ?」
三人揃って、
『ナンシー、ナンノハナシ?』
という顔で見つめていると、ナンシー先生は続けた。
「サンニン、キマツテスト20テンイカ。
フユヤスミマイニチホシュウキテネ!」
・・・・・・。
「「「ナンノハナシデスカ?」」」
僕たちは気付くべきだったんだ。ナンシー先生に「話があるから放課後、教室に残ってね♡」と、この三人にだけ告げられた時点で。
今方していた、僕のナンシーとの良からぬ妄想は、無残にも砕け散った。
数日後、冬休みを迎えた僕たちは、ナンシー先生に言われた通り、毎日登校して英語の補習を受けた。僕達の友情がますます深まったことは言うまでもない。
そして冬休み明け、僕たち三人が目の当たりにしたのは、ウミちゃん、ヤマちゃん、ユキちゃんが、それぞれ冬休み中に素敵な彼氏を見つけ、幸せそうにしている姿だった。
・・・・・・。
#なんのはなしですか ?
了
(約3300文字)
※この話はフィクションであり、登場する人物はすべて架空のものです。(とある人物に寄せて書いてますけどね🤫)

また来年♪
コニシ木の子様、いつき様、いつもありがとうございます。お陰様で、楽しいnote生活を送れております♪


※この作品は、はれるや( ´ ▽ ` )ノ。さんの記事から情報を頂いた、11月末〆切のショートショートの公募。
「笑い」の短編小説コンテスト
「笑い」をテーマとした内容の3500字以内の短編小説
の応募のために書いたのですが、〆切に間に合わず、出せませんでした。
一日足らなかった。くっそぅ。
出してたら、入賞してたに違いないのに!くっそぅ。(出さなかったので何とでも言えます)
この作品で入賞したら、なんのはなしの広報活動にちょっぴり貢献できたのに!くっそぅ。 (ホンマか?)
賞金の一部を🍄献金できたのに!くっそぅ。(ホンマか?)
もう何を言っても「絵に描いた餅」です❢
というわけで(どういうわけかわかりませんが)、
コニシ木の子さんに笑ってもらえたらいいか!
(このくだらな……シュールな笑いは、彼にしかわからない気もするし笑)
ということで、
今年最後の「なんのはなしですか」の回収にて、供養をお願い致します。
いしもともりの
「2024年総決算」でございます🥺

とっておきの「KUDARANAI」を
あなたに……🎁
Christmas present for you…🎁

🍄課長2024年も「なんはな回収」
お疲れ様でしたm(_ _)m
来年もよろしくお願い致します🙇

さて、今年もあと半月ほどで終わりますね。
みなさまはどんな一年だったでしょうか?
今年は年明けから、悲惨な幕開けとなり、辛い思いをされた方も多くいらっしゃると思います。
どんな一年を過ごされた方も、来年は、今よりほんの少しでも幸せな年となりますように😌

みなさんも素敵な
年末をお過ごしくださいね♪

