「歩ける」で終わらない|生活期リハで考える「できる・している・したい」の評価
「500m歩けるようになりました」
リハビリでは、大きな変化です。
歩く速度が上がった。
ふらつきが減った。
TUGの時間が短くなった。
身体機能や動作能力が改善したことは、とても大切です。
でも、その人に普段の生活を聞いてみると、
「最近は、ほとんど外に出ていません」
ということがある。
歩けるようになった。
それで、その人の生活は変わったでしょうか?
生活期のリハビリでは、「できるようになった」で評価を終わらせず、その能力が実際の暮らしでどう使われているのかまで見ていく必要があります。
そして、もう一つ。
本人は、これから何をしたいのか。
今回は、
「できる・している・したい」
という3つの視点から、生活期リハの評価について考えてみます。
「できる」と「している」は同じとは限らない
たとえば、リハビリの評価場面で100m歩けたとします。
「100m歩くことができる」
これは大切な評価です。
でも、その人が普段の生活でも100m歩いているとは限りません。
スーパーまで一人で歩ける。
けれど、実際の買い物は家族がしていて、本人はほとんど外出していない。
そんなこともあります。
ADLでも同じです。
評価場面では一人でできる。
でも、家では家族に手伝ってもらっている。
反対に、評価場面では難しくても、自宅では手すりや家具の配置を工夫して、自分なりの方法で行っていることもあるでしょう。
つまり、
「できるADL」と「しているADL」が一致しているとは限りません。
ICFでも、活動・参加を見る際には、その人が課題を遂行できる能力と、現在の環境の中で実際に何をしているかを分けて捉えます。
大切なのは、用語を覚えることではありません。
「できるのに、なぜしていないんだろう?」
この疑問を持つことです。
身体機能だけでなく、暮らし全体を見る
理学療法士として、筋力や関節可動域、痛み、バランスなどを評価することは欠かせません。
でも、それらは生活から切り離されたものではありません。
脚の力は、立つことや歩くことに関係します。
歩けることは、買い物や外出につながります。
外出できることは、趣味や役割、人とのつながりにも影響します。
そして逆に、外へ出ることや役割を持つことが、身体を動かす機会につながることもあります。
身体、動作、生活、参加。
それぞれを別々に見るのではなく、その人の暮らしの中でどうつながっているのかを見る。
生活期リハでは、この視点を持っていたいと思います。

たとえば、
「大腿四頭筋が弱い」
と評価したとします。
そこで、
「じゃあ筋力トレーニングをしよう」
だけで終わらせない。
もう一つ先に、
その筋力低下が、その人のどんな生活を妨げているのか?
まで考えてみる。
立ち上がりが難しいのか。
階段が上れないのか。
外へ出ることが減っているのか。
そして、その人は本当は何をしたいのか。
筋力を上げることも、歩行を安定させることも大切です。
でも、それらは多くの場合、
本人が望む生活を実現するための手段
だと思います。
生活期リハでは「できる・している・したい」を見る
生活を評価するときは、
①できる
②している
③したい
の3つを分けて考えると、その人の暮らしが整理しやすくなります。

「買い物」を例に考えてみます。
① できる
一人でスーパーまで歩いて、買い物に行くことができる。
これは、その人が持っている能力です。
筋力やバランスだけではなく、立つ、歩く、家事をするなど、動作や生活行為も含めて「何ができるか」を見ます。
② している
では、実際の生活はどうでしょうか。
現在は本人は買い物に行っておらず、家族が行っている。
つまり、
買い物に行くことはできる。
でも、実際には行っていない。
③ したい
さらに本人に聞いてみます。
「本当は、自分で買い物に行きたいですか?」
すると、
「週に1回くらい、自分でスーパーに行きたい」
という言葉が出てくるかもしれません。
ほかにも、
「友人とまた話したい」
「旅行に行きたい」
「畑仕事を続けたい」
など、その人によって「したい」は違います。
ここまで見ると、
できる。
でも、していない。
そして、したい。
という3つが見えてきます。
「3つの差」に、その人の生活が見える
大切なのは、3つを並べるだけではありません。
その間にある「差」を見ることです。
たとえば、
スーパーまで歩く能力はある。
本人も、自分で買い物に行きたいと思っている。
でも、実際には行っていない。
では、
なぜ「できる」のに「していない」のか。
転ぶのが怖いのかもしれません。
途中に坂道があるのかもしれない。
帰りに荷物を持って歩くのが不安なのかもしれません。
往復すると疲れるのかもしれない。
家族が買い物を担うようになり、自分で行く機会が減っていることもあります。
ここで、
「していない=やる気がない」
と決めつけないことが大切です。
していない背景には、
身体機能
転倒への不安
家や道路の環境
交通手段
家族との役割
これまでの生活習慣
など、さまざまな要因があります。
そして、もう一つ見るのが、
今している生活と、本人がしたい生活の差。
専門職は「自分で買い物に行けるようになること」が大切だと思っていても、本人は買い物にはあまり関心がなく、
「友人に会いたい」
と思っているかもしれません。
だから、
できることだけでも、
していることだけでも、
したいことだけでも足りない。
3つを照らし合わせて、その差がなぜ生まれているのかを考える。
本人との対話や家族・介護スタッフからの情報、実際の生活場面を通して確かめていく。
差を見つける。
↓
理由を考える。
↓
生活の中で確かめる。
ここまでが、生活期リハで大切にしたい評価です。
数値が良くなった。それで生活はどう変わった?
客観的な評価も、もちろん大切です。
歩行速度やTUG、SPPBなどを使うことで、身体機能や動作能力の変化を確認できます。
でも、
数値が良くなった=生活が変わった
とは限りません。
TUGは改善した。
歩行も安定した。
それでも外出頻度は変わっていない。
そんなとき、
「評価結果が良くなった」
で終わるのではなく、
「それで、実際の生活はどう変わった?」
ともう一度見てみる。
数値だけでは、
なぜ外出していないのか。
本人は何をしたいのか。
までは分からないことがあります。
だから生活期では、
客観的な評価+観察+対話+実際の生活場面
を組み合わせる。
本人だけではなく、必要に応じて家族や介護スタッフなど、普段の生活を知る人から情報を得ることも大切です。
訓練場面での「できた」と、日常生活での「している」を照らし合わせる。
そこから次の評価が始まります。
「したい」を、安全に実現する
本人に、
「週に1回、自分でスーパーへ行きたい」
という希望があることが分かった。
そして、一人でスーパーまで歩く能力もある。
だから、
「じゃあ明日から行きましょう」
となるわけではありません。
ここから、
どうすれば実現できるのか
を考えます。
荷物を持って帰れるか。
途中で疲れたら休める場所はあるか。
道路を安全に渡れるか。
転倒への不安はどうか。
体力的に往復できるか。
継続できる方法なのか。
本人の「したい」を大切にしながら、安全性や環境も一緒に考える必要があります。
ただ、
リスクを避けること自体が目的ではありません。
リスクがあるから「やめておきましょう」で終わるのではなく、
どうすれば安全に、その人のしたいことへ近づけるのか。
を考える。

生活期リハでは、
できることを増やすこと
だけではなく、
できることを、その人が望む生活につなげること
まで考えていきたいと思います。
本人だけを変えても、生活が変わらないことがある
そして、もう一つ忘れたくないことがあります。
本人に能力があれば、生活が変わるとは限りません。
歩ける。
外出する体力もある。
本人も外へ出たいと思っている。
それでも、
交通手段がない。
道が危ない。
行きたい場所がない。
参加できる場所がない。
地域とのつながりが途切れている。
そんなこともあります。
ICFでは、人の生活機能や障害を本人だけの問題として捉えるのではなく、環境との関係も含めて捉えます。
だから、
本人に能力があるか
だけではなく、
その能力を使える環境があるか
まで見ていく。
必要なのは筋力トレーニングかもしれません。
福祉用具かもしれません。
家族との役割調整かもしれません。
地域の移動手段や通いの場につなぐことかもしれない。
できるようにするだけでなく、
できることを生活の中で使い続けられる環境を考える。
ここまで見ると、リハビリは身体だけではなく、生活や地域にもつながっていきます。
評価の目的は「生活を変えること」
最初の話に戻ります。
TUGが改善した。
歩行が安定した。
500m歩けるようになった。
これは、とても大切な変化です。
でも、その先に、
週に1回、自分でスーパーへ行けるようになった。
という変化が生まれたとしたら。
「歩けるようになった」という能力の変化が、本人の生活につながったことになります。
もちろん、すべての人が外出したり、社会参加を増やしたりすればいいわけではありません。
何をしたいか。
どんな生活を送りたいか。
それは、その人によって違います。
だからこそ、
「できないこと」を探すだけではなく、
「何をしたいのか」を聞く。
そして、
できる。
している。
したい。
この3つを照らし合わせながら、その間にある差を見ていく。
「歩けるようになった」で終わらない。
その歩行で、何をしたいのか。
そして、実際の生活で何ができるようになったのか。
筋力を上げることも、歩行を安定させることも大切です。
でも、それ自体が最終目的とは限りません。
評価するために生活を見るのではなく、
生活を変えるために評価する。
生活期のリハビリでは、そんな視点を大切にしたいと思います。
