歩行を見る力を育てる4部作|第3作なぜその歩き方になるのか?歩行分析に必要な神経生理学
「筋力はそこまで悪くないのに、なぜか歩き方が不安定」
「関節可動域だけでは説明しきれない歩行がある」
「一歩目が出にくい」
「すくみ足がある」
「感覚が悪い人の歩行をどう見ればいいかわからない」
臨床で歩行を見ていると、こういう場面に出会うことがあります。
第2作では、新人セラピスト向けに、歩行観察の基本を整理しました。
歩行速度、歩幅、左右差、ふらつき、代償動作。
そして、歩行周期や部位別の見方。
これらは、歩行分析の土台になります。
ただ、実際の臨床では、運動学的に見える動きだけでは説明しきれないことがあります。
たとえば、
足が出にくい
一歩目が不安定
すくみ足がある
方向転換で止まる
二重課題で歩行が崩れる
感覚障害があると荷重が不安定になる
cueで急に歩きやすくなる
こういった歩行を理解するには、筋力や関節の動きだけでなく、神経生理学的な視点が必要になります。
歩行は、単なる筋肉の出力ではありません。
脳、脊髄、感覚入力、姿勢制御、注意機能、環境への適応。
これらが組み合わさることで、私たちは日常生活の中で歩いています。
この記事では、歩行分析に必要な神経生理学を、できるだけ臨床につながる形で整理していきます。

歩行は「筋力だけ」では説明できない
歩行を見るとき、まず筋力や関節可動域に目が向きやすいと思います。
もちろん、それは大切です。
股関節が伸びない。
膝が曲がらない。
足関節背屈が出ない。
下肢筋力が弱い。
これらは歩行に大きく影響します。
ただし、歩行の問題をすべて筋力や可動域だけで説明しようとすると、見落とすものがあります。
たとえば、片麻痺の方で麻痺側に体重を乗せにくい場合。
これは筋力低下だけでなく、
感覚障害
姿勢制御
恐怖心
身体図式
注意の向け方
などが関係していることがあります。
また、パーキンソン病の方ですくみ足が出る場合。
足の筋力だけを見ても、その現象を説明しきれないことがあります。
歩行は、身体を前に進める運動であると同時に、倒れないように姿勢を調整し続ける運動でもあります。
つまり歩行は、
移動する動き
であり、同時に
姿勢を制御する動き
でもあります。
ここを押さえておくと、歩行の見え方が少し変わります。
歩行は“自動運動”に近い
歩行は、毎回頭で細かく考えて行っている動作ではありません。
もし歩くたびに、
「右足を出して」
「左足に体重を乗せて」
「次に左足を出して」
「バランスを取って」
と意識し続ける必要があれば、日常生活の中でスムーズに歩くことは難しくなります。
実際の歩行では、ある程度自動化されたリズムや姿勢調整が働いています。
この自動性があるからこそ、人は会話をしながら歩いたり、周囲を見ながら歩いたり、目的地を考えながら歩いたりできます。
歩行には、
リズムを作る仕組み
感覚情報を使って調整する仕組み
姿勢を安定させる仕組み
環境に合わせて歩き方を変える仕組み
が関わっています。
この中でも、歩行のリズム形成に関わるものとしてよく出てくるのが、CPGです。
CPGとは何か
CPGとは、Central Pattern Generator の略です。
日本語では「中枢パターン発生器」と訳されます。
難しく聞こえますが、臨床的にはまず、
歩行のリズムを作る神経回路のようなもの
と理解するとよいと思います。
CPGは、脊髄レベルで歩行の周期的な運動パターンに関わる仕組みとして説明されます。
人の歩行でも、リズム生成や筋活動パターンの背景を考えるうえで重要な概念です。
Lacquanitiらは、人の歩行における筋活動が、いくつかの基本的な活動パターンの組み合わせとして説明できることを報告しています【文献1】。
ただし、ここで大事なのは、
「CPGがあるから勝手に歩ける」
と単純に考えすぎないことです。
実際の歩行は、CPGだけで成立しているわけではありません。
歩行には、
上位中枢からの制御
感覚入力
姿勢制御
環境への適応
注意機能
が関わります。
つまり、CPGは歩行の土台のひとつですが、臨床ではそれ単独で考えるのではなく、他の要素とセットで捉える必要があります。

歩行は、さまざまな要素が統合されている
画像にもあるように、歩行は筋力だけでなく、複数の神経系の働きによって調整されています。
大きく分けると、次のような要素があります。
筋力・関節可動域
身体を動かすための土台です。
筋力が低下すれば支持性が落ちます。
関節可動域が不足すれば、足を前に出す動きや蹴り出しが制限されます。
ただし、これはあくまで土台です。
筋力や関節可動域だけを見ていても、歩行のすべてを説明できるわけではありません。
CPG
CPGは、歩行のリズムや周期的な運動パターンに関わります。
歩行が毎回バラバラではなく、一定のリズムで繰り返される背景には、このようなリズム生成の仕組みがあります。
感覚入力
足底、関節、筋、視覚、前庭感覚などからの情報です。
歩行中、身体は常に地面や自分の身体の位置を確認しながら動いています。
感覚入力がうまく入らないと、足をどこに置いているのか、どれくらい体重が乗っているのかがわかりにくくなります。
姿勢制御
歩行は、片脚支持の連続です。
片脚で身体を支えながら、反対側の足を前に出す必要があります。
そのためには、重心をコントロールし、倒れないように姿勢を調整する力が必要です。
上位中枢
大脳皮質や基底核、小脳、脳幹などが、目的や環境に合わせて歩行を調整します。
Takakusakiは、歩行が脊髄から脳幹、基底核、大脳皮質までを含む広い神経ネットワークで調整されることを整理しています【文献2】。
環境への適応
日常生活では、常に同じ環境を歩くわけではありません。
床の状態、段差、人混み、方向転換、障害物、狭い場所。
こうした環境に合わせて歩き方を変える必要があります。
つまり、歩行は単純な反復運動ではなく、
神経系が状況に合わせて調整し続ける動作
だと考える必要があります。
感覚入力が歩行を調整する
歩行では、身体が常に情報を拾っています。
特に重要なのが、感覚入力です。
歩行中、身体は次のような情報を使っています。
足裏にどれくらい体重が乗っているか
関節がどの角度にあるか
筋肉がどれくらい伸ばされているか
身体が傾いていないか
地面が硬いか柔らかいか
段差や障害物があるか
周囲の環境がどう変化しているか
これらの情報をもとに、歩行は細かく調整されています。
たとえば、足底感覚が低下している人では、足がどこに接地しているのか、どれくらい体重が乗っているのかがわかりにくくなります。
その結果、
足元をよく見る
歩幅が狭くなる
立脚期が短くなる
接地が不安定になる
ふらつきやすくなる
といった歩行につながることがあります。
このような場合、単に「足が弱い」と見るだけでは不十分です。
「足裏からの情報が入りにくいから、荷重が不安定になっているのではないか」
「感覚が入りにくいから、視覚に頼って歩いているのではないか」
という視点が必要になります。
姿勢制御と歩行
歩行は、片脚支持の連続です。
つまり、歩いている間、人は常に小さくバランスを崩しながら前に進んでいます。
一見安定しているように見える歩行でも、実際には身体の重心を前後左右に細かく調整しています。
臨床で見るときは、歩行をこう捉えるとわかりやすいです。
歩行=前に進む動き+倒れないための調整
この「倒れないための調整」が姿勢制御です。
姿勢制御がうまく働かないと、
一歩目が不安定
片脚支持でふらつく
方向転換でバランスを崩す
立ち止まると不安定
疲れると歩行が崩れる
といった問題が出やすくなります。
歩行分析では、足の動きだけでなく、
重心移動と姿勢制御がどう働いているか
を見ることが大切です。
予測的姿勢制御とは何か
歩行では、足を出す前から身体は準備をしています。
たとえば、右足を出すためには、左足に体重を乗せる必要があります。
つまり、足を出す前に、
支持脚へ体重を移す
体幹を安定させる
骨盤を制御する
重心を調整する
という準備が必要です。
このような「動く前の準備」に関わるのが、予測的姿勢制御です。
臨床的には、
足を出す前に、身体が歩く準備をできているか
と考えるとわかりやすいです。
予測的姿勢制御がうまく働かないと、
一歩目が出にくい
歩き始めにふらつく
すくむような歩き方になる
支持脚にうまく乗れない
方向転換で止まりやすい
といった状態につながることがあります。
歩き始めの一歩目は、歩行分析でかなり重要です。
なぜなら、そこには筋力だけでなく、姿勢制御、重心移動、感覚入力、注意、恐怖心などが反映されやすいからです。

一歩目は「足を出す前」が大事
一歩目をスムーズに出すためには、足を前に出す力だけでは不十分です。
画像にあるように、一歩目の前には、いくつかの準備が必要です。
支持脚への荷重
重心移動
体幹・骨盤の安定
感覚入力
注意や恐怖心の調整
予測的姿勢制御
特に臨床で大事なのは、
足を出す前に、支持脚へ乗れているか
です。
右足を出すには、左足で身体を支える必要があります。
この準備が不十分なまま足を出そうとすると、一歩目が不安定になります。
だから、歩き始めが不安定な人を見るときは、
「足が出ない」
だけで終わらせず、
「足を出す前の準備ができているか?」
「支持脚へ荷重できているか?」
「重心移動はできているか?」
「恐怖心で動きが止まっていないか?」
を見る必要があります。
無料部分のまとめ
ここまでを整理します。
歩行は、筋力や関節可動域だけで成り立っているわけではありません。
歩行には、
CPGによるリズム形成
感覚入力による調整
姿勢制御
予測的姿勢制御
上位中枢による調整
環境への適応
が関わっています。
だからこそ、歩行分析では、見えている動きだけでなく、
なぜその歩き方になっているのか
を考える必要があります。
第2作では、歩行を運動学的に観察する方法を整理しました。
第3作では、その運動学的な観察に、神経生理学的な理由づけを加えていきます。
ここから有料部分
ここからは、神経生理学を臨床の歩行分析にどう使うかを整理していきます。
ポイントは、知識を知識のまま終わらせないことです。
神経生理学的な知識は、臨床では次のようにつなげて使います。
神経生理学的な知識
↓
歩行でどう見えるか
↓
何を評価するか
↓
どう介入につなげるか
この流れで整理していきます。
感覚入力・姿勢制御が低下すると、歩行はどう崩れるか
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
