方向転換でふらつくのは、脚力だけが原因とは限りません|理学療法士が見る3つのポイント
「まっすぐ歩くのは大丈夫なのに、曲がるとふらつく」
そんなことはありませんか?
廊下の角を曲がるとき。
トイレで便座の方へ向きを変えるとき。
台所で振り返るとき。
歩いている途中で、人を避けるとき。
まっすぐ歩いているときは安定しているのに、方向を変えると急にバランスが崩れる。
すると、
「脚の力が弱くなったのかな?」
と思うかもしれません。
もちろん、脚の筋力は大切です。
でも方向転換では、筋力だけでなく、
見る
準備する
足を運ぶ
という3つの要素も関わっています。
地域で生活する高齢者を対象にした研究でも、転倒経験のある人では、そうでない人と比べて180°の方向転換に時間がかかり、使う歩数も多いことが報告されています。
つまり、転倒を考えるときには、
「まっすぐ歩けるか」だけではなく、「どう曲がっているか」
を見ることも大切です。
今回は、方向転換をこの3つの視点から考えてみます。
1.方向転換は「曲がる瞬間」だけではありません
たとえば、廊下を歩いていて右へ曲がるとします。
角までまっすぐ歩き、そこへ来た瞬間に突然身体を右へ回しているわけではありません。
曲がる前から、
「この先は右だな」
「人はいないかな」
「どのくらいのスペースがあるかな」
と周囲の情報を得ながら、次の動きへ備えています。
そして身体を準備し、足を運びながら向きを変えていきます。
分かりやすく整理すると、
見る → 準備する → 足を運ぶ
という3つです。
ただし、身体の中で必ずこの順番に一つずつ処理しているわけではありません。
見ること、姿勢を調整すること、足を運ぶことは、互いに影響し合いながら進んでいます。
だから方向転換は、曲がった瞬間だけを見ても分からない動作なのです。
2.ポイント①「見る」|どこへ行くのかを捉える
方向転換でまず見たいのが、どこから情報を得ているかです。
曲がった先に何があるのか。
通れるスペースはあるのか。
人や物を避ける必要があるのか。
私たちは周囲の状況を見ながら、その場に合った動きを選んでいます。
ここで関係するのが、アフォーダンスという考え方です。
少し難しい言葉ですが、考え方はシンプルです。
同じ場所でも、
身体の大きさ。
動きやすさ。
杖や歩行器を使っているか。
こうした違いによって、選べる動きは変わります。
つまり、
自分の身体と環境との関係から、「どう動けそうか」を捉える。
これがアフォーダンスを考える一つの視点です。

画像のように、曲がる先や周囲のスペースを見ることは、次の動きを決めるための情報になります。
一方で、不安があると足元ばかり見たくなることがあります。
でも、
足元を見ること自体が悪いわけではありません。
段差や障害物、床の状態を確認するときには必要です。
大切なのは、
必要な場所から、必要なタイミングで情報を得ること。
方向転換は、足を動かす前から始まっています。
3.ポイント②「準備する」|足を出す前から身体は動いている
次に見たいのが、
足を出す前の身体の準備
です。
一歩を出すとき、見た目には「足を動かしたところ」から動作が始まったように見えます。
でも身体の中では、その前から次の動きへの準備が始まっています。
これを、
APA(Anticipatory Postural Adjustments:予測的姿勢調整)
といいます。
簡単に言えば、
動作に先立って起こる姿勢の調整
です。
次の動きによって身体のバランスが変化することに備えて、筋活動や足圧などが動作前から変化します。

ここで大切なのは、
APAを自分で意識して「やる」ことではありません。
方向転換を見るときに、
「足がどこへ出たか」
だけを見るのではなく、
その前から身体がどう変化していたか
にも目を向ける、ということです。
たとえば、
曲がる直前で急に止まる。
身体が最後まで正面を向いたまま。
そこから慌てて足を出す。
そんな場合は、筋力だけでなく、
次の動きへ移るための準備がどうなっているのか
という視点も必要になります。
4.ポイント③「足を運ぶ」|身体だけをひねっていませんか?
3つ目は、
実際にどう足を運んでいるか
です。
方向転換でよく見られるのが、
足はその場に残ったまま、
上半身だけ先にグッと回る。
という動きです。
方向転換では、
視線・頭・体幹・骨盤・下肢
などが協調しながら、身体全体の向きを変えていきます。
そして重要なのが、
次の足をどこへ置くか。

身体だけが先に回っても、足が次の方向へついてこなければ、安定して向きを変えにくくなります。
だから私は方向転換を見るとき、
「何歩で回れたか」
だけではなく、
「次に進みたい場所へ足を運べているか」
を見ます。
もちろん、
「3歩なら良い」
「5歩なら悪い」
という決まりがあるわけではありません。
身体能力も、曲がる角度も、歩く速度も、周囲の環境も違います。
大切なのは、
一歩で無理に回ろうとせず、必要な歩数を使いながら安全に向きを変えること
です。
5.家で見てみたい「5つのサイン」
方向転換が気になるときは、日常生活の中で変化を見てみてください。

画像の5つに加えて、私が見てほしいのが、
左右差といつから変わったかです。
たとえば、
「右には曲がれるけれど、左は難しい」
という左右差はないでしょうか。
そして、
以前から同じなのか。
最近少しずつ変わってきたのか。
突然変わったのか。
これも大切な情報です。
ただし、画像のサインが一つあるからといって、すぐに異常という意味ではありません。
あくまで、
「方向転換のどこで難しくなっているのか」
を考えるためのヒントです。
6.方向転換でふらつく原因は「脚力」だけ?
もちろん、筋力は大切です。
立つ。
歩く。
身体を支える。
どれにも筋力は必要です。
でも方向転換では、それに加えて、
周囲から情報を得る。
自分と環境との関係から、どう動けそうかを捉える。
足を出す前から身体の準備が始まる。
重心を移しながら足を置く。
身体全体で向きを変える。
こうした要素が組み合わさっています。
だから、
方向転換でふらつく
↓
脚が弱い
↓
筋トレをする
だけで終わらず、
「方向転換のどこで難しくなっているのか」
を見ることが大切です。
7.覚えてほしいのは3つ
今回の内容を全部覚える必要はありません。
覚えてほしいのは、
① 見る
どこへ進むのか。
周囲に何があるのか。
次の動きに必要な情報を得る。
② 準備する
足を出す前から、
身体では次の動きへの準備が始まっている。
③ 足を運ぶ
身体だけをひねらず、
必要な歩数を使って次の方向へ足を運ぶ。
この3つです。
見る。
準備する。
足を運ぶ。
方向転換が不安定なとき、この3つに分けてみると、
「どこで難しくなっているのか」
が少し見えやすくなります。
8.方向転換は「脚だけ」で行う動作ではない
方向転換は、脚だけで行う動作ではありません。
周囲から情報を得て、身体を準備し、足を運びながら向きを変えています。
だから、ふらつきがあるときは、
「脚が弱いか」だけではなく、「どこで動きにくくなっているのか」
を見ることが大切です。
その理由を考えることが、
その人に必要な練習を考える第一歩
だと私は考えています。
※ふらつきが強い方や転倒歴がある方は、方向転換を繰り返す練習を一人で行わないでください。段差や障害物がある場所では必要な足元確認も行い、安全を確保してください。
※突然ふらつきが強くなった、片側の手足に力が入りにくい、強いめまいなど、これまでになかった症状がある場合は、単なる筋力低下と自己判断せず、医療機関へ相談してください。
