【ぶんぶくちゃいな】AIブームに湧く中国の現実を読む:DeepSeekが放った冷水と「合肥モデル」ブーム

2026年7月下旬、一つの「漏洩」が中国のAI業界を揺るがした。

AIモデル「DeepSeek」の創設者、梁文鋒氏が投資家との非公開交流会で約4時間にわたって語ったとされる発言記録が、中国語圏のインターネット上に一気に広がったのである。分量は中国語の文字数にすると約3万4000字。参考までに、一般的に中国語を日本語に翻訳すると原文の約1.5倍になる。つまり、日本語で言えば、5万字を超える規模の発言集だと考えていいだろう。

ITや経済話題に注目する複数のメディアがそれぞれの編集版を公開し、話題は瞬く間に業界の外にも波及した。経済紙「毎日経済新聞」は出資参加機関への確認を経て、この会合が2026年5月に開かれ、流出した内容自体は信頼できるものだと報じている。一方で、現時点では梁氏本人およびDeepSeek側による公式確認は取れておらず、あくまで音声認識と編集を経た文字起こしという前提である。

それでも、この文字起こしが持つ意味は小さくなかった。

この会合は、DeepSeekが2023年の創業以来初めて外部資本を受け入れる過程で開いた説明会だった。そこで約500億元(約1兆1750億円)規模と報じられた調達を前に、梁氏が投資家に何を約束し、何を譲らないと明言したかが記録されているからだ。

そこで梁氏が繰り返し触れたのが、「克制」(自制)という言葉だった。AIが将来、世界のGDPの1割程度を占める巨大産業になり得ると説明しつつ、梁氏は「その利益を独占しようとする者は、誰であれ歴史に淘汰される」と言い切った。

DeepSeekによるソースコードのオープンソース公開についても、API(サービス利用)価格を設備投資費の回収に10カ月程度で足りる水準に抑えていることも、消費者向けサービスで広告やスーパーアプリ(複数の目的の機能を一体化したアプリ)に手を伸ばさないことも、すべては梁氏が目指す一点のビジョンのためだと説明した。

そのビジョンとはすなわち、「短期的な利益の最大化よりもAGI(汎用人工知能)を実現できる確率を高めることを優先する」と彼はそこで述べている。

このビジョンと手法についての発言は、大手IT企業の「阿里巴巴 Alibaba」(以下、アリババ)や「字節跳動 Bytedance」(バイトダンス)もまたAI開発で注目されるようになり、また自社の既存業務上で全面的なAIサービスに乗り出す中で、「DeepSeekは今後、生き残れるのだろうか」という懸念も生んでいる。

実際、この漏洩騒動は一過性の話題では終わらなかった。ブルームバーグは7月25日、DeepSeekが投前評価額710億ドル(約4800億元)規模とされる第2弾の増資について、数日中に予定していた一部投資家との正式契約締結を見送ったと報じた。梁氏がこの4時間の発言記録の流出に不満を抱いたことが、増資を一時停止した一因とされ、同社は情報開示の手順や投資家との連絡体制を見直すよう社内に指示したという。

DeepSeekはイノベーションボードでの上場(IPO)に向けた準備も進めており、年内の申請、2027年の上場を目指していたと伝えられるが、今回の騒動でこの計画にも足踏みが生じた形だ。株式市場の熱狂とは対照的に、AIの本丸であるDeepSeek自身は、資金調達のスピードを落としてでも「漏洩」の火消しを優先したことになる。


ここから先は

7,166字
この記事のみ ¥ 500
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

中華圏の現地でどのような注目の話題があるのか。必ずしも日本とは関係のない、また日本では話題にならない「現地ならでは」の視点の話題をお届けします。そこから読み取れるのは現地の機微、そして人々の思考方法。一辺倒ではない中華圏を知るために。

メルマガ「「§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな」(祭日を除く第1、2,4土曜日配信、なお第2,4土曜日が祝日の月は第3土曜日…

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。