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スイッチが入ってしまったカメラマンの背中

プロフィール撮影を、後ろから見ていると、

利き顔の確認から始まるいつもの流れ。
右だ、左だ、前髪を少し直して、
まずは左、次は右。

ここまでは普通だ。
とてもちゃんとしている。

続いて正面に移り、少し笑わせてみる。
その瞬間だった。

会話のテンポが、急に変わると同時に、
カメラマンの「動き」が変わった。

あ、入った。

説明できるほど大げさじゃない。
でも、見ているとわかる。
背中が急にうるさくなる。

腰が落ちた。
一歩、半歩、また半歩。
意味があるのか、ないのかわからない小刻みな移動が始まる。

息ががシャッターと同期し始める。
顔はカメラから離れない。
というより、カメラが顔になっている。

姿勢は低い。
低すぎる!
「そこまでしゃがむ?」という位置から撮っている。

動きは、ちょっと面白い。
いや、かなり面白い。

でも、笑えない。
なぜならその背中が、やけに何かを語り始める。

「今いい」
「もう一枚」
「逃すな」

言葉にしない感情を、
背中が発している。

さっきまで無言だった背中が、
急に語り始める。

楽しい。
見つけた。
撮れてるぞ!

モデル本人より、
先に盛り上がっているのは、
間違いなくこの背中。

本人は、絶対に無自覚だ。
どう見ても間違いなく無自覚だ。
自分の動きが、ちょっとおかしいことにも。

でも、そのおかしさがいい。

写真が「正解」に近づくほど、
背中はどんどんうるさくなる。

前のめりで、
低くて、
少し滑稽で、
でも、ものすごく誠実だ。

ああ、今この人、
完全に楽しくなってるな。と思う。

カメラマンの背中が語り出すとき、
現場はだいたい、うまくいっている。

シャッター音よりも先に、
背中でわかる感じ。

「今、いい写真が生まれてる」

スイッチが入ってしまったカメラマンの背中は、
今日いちばんの被写体で、
これ撮りたいと思わざるをえない。

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