離婚するって言ったの、十三回目だよ。で、今日が家族旅行?
第1章:「離婚する」って言いながら、ベッドでは私を抱いた。
ラブホテルの、あの安っぽい柔軟剤の香り。
私の体に覆いかぶさりながら、彼が言った。
「もう、お前のこと女としてしか見れないわ」
軽く投げられたセリフだったけど、不思議と重さだけが残った。
本気じゃないって、すぐわかった。
でもその“嘘くさい本音”は、なぜか私の中でずっと鳴り止まなかった。
あれから、1年。
私は十三回も聞いた。「離婚するって決めた」って言葉。
最初の頃は、期待するふりすらしなかった。
でも、何度も繰り返されるうちに、私は自分でも気づかないうちに信じ始めていた。
カレンダーアプリを遡って、彼がそう言った日をひとつずつメモした。
指でなぞると、ピンの数が笑えるくらい増えていて、
通算十三回目には、“喜んだふり”すら自然にできるようになってた。
「今月で2回目、ってことは平均して3ヶ月に一度」
頭の中で無意識に電卓を叩いていた。
もう“本当に離婚するつもりなのか”なんてどうでもよかった。
私が気にしてたのは、
**「次の離婚宣言は、いつ来るか」**って未来のスケジュールの方だった。
本気の言葉を信じたんじゃない。
ただ、自分に都合のいい“物語”をなぞっていただけだった。
そうでもしないと、続けられなかった。
第2章:私が「帰りたくなる場所」になりたくて
「コンビニ飯より、手料理の方がいいな」
彼がそう言った日から、私は仕事帰りにスーパーへ寄るのが習慣になった。
豚バラを炒めて、胡麻ドレのサラダを添えて、冷えた缶ビールを2本。
ありふれたメニューを、毎回“自分らしさ”で差し替えながら作った。
「こんなの妻は作ってくれないんだよ」
彼はそう言って笑ったけど、その一言があとになってずっと胸に残った。
私は家でも妻でもない女なのに、妻がしないことを必死でやっていた。
エプロンの腰紐を結ぶたびに、見えない“誰かの代役”みたいな気がしていた。
献立アプリでレシピを調べながら、買い忘れがないようにメモをとる。
彼が来る前には、シャワーを浴びて髪をまとめ、リップの色を塗り直す。
テーブルを拭き、クッションを整え、玄関のスリッパをきちんと揃えた。
まるで“誰かの帰宅を迎える主婦”みたいに。
名前のない関係なのに、私はどこまでも彼の生活のサポート役になっていた。
彼が笑うと、報われた気がした。
台所の熱気も、油の跳ねる音も、恋の延長線にあると思い込んでいた。
彼にとって心地よい空間を用意することで、自分の存在を確かめていた。
“ここが落ち着くんだよね”と、いつか言ってくれることを信じていた。
それが、選ばれる理由になる気がしていた。
でも、ある夜、洗い物の途中でふと顔を上げたら、
くもった換気扇のガラス越しに映った自分がいた。
ぼさついた髪、汗で張りついた服、赤くなった手。
「私って、何になりたかったんだろう」
気づけば、その言葉が口をついていた。
彼に帰ってきてもらう場所を演じ続けた私は、
自分が帰りたかった場所を、どこかに置き忘れていた。
第3章:「今日は仕事」って言ったよね。ディズニーランドは職場じゃないよね?
誕生日の朝、LINEが届いた。
「今日は仕事でどうしても抜けられないんだ、ごめん」
既読にして、スタンプすら押せなかった。
言い訳を信じようとした自分が、いちばん惨めだった。
夜、なんとなく開いたSNSで、視界が一瞬でにじんだ。
「#パパありがとう #家族旅行 #久々のディズニー 」
笑顔の他、ピースをする子ども、奥さんの横顔。
そこには**私が踏み入れられない“本物の家族”**が写っていた。
朝に作った味噌汁の鍋は、そのまま冷えていた。
「外寒いでしょ?あったかいの用意してるからね」って送るつもりだったLINEも、もう打てなかった。
スマホを握りしめたまま、私はただ呆然と画面を見つめていた。
そして静かに気づいた。
**「あ、これが“十四回目”だ」**って。
もう、笑えもしなかった。怒る元気すら、残ってなかった。
第4章:「本気の相手ができた」と言った男の、都合のいい過去にされる前に
「次の人は、本気で結婚考えてるんだ」
その一言を、彼はまるで天気の話でもするように言った。
不自然に明るい口調と、爽やかすぎる口元。
私の存在を終わらせるには、あまりにもあっさりしすぎていた。
返す言葉が見つからなかった。
言いたいことは山ほどあったはずなのに、喉の奥が詰まったみたいに、何も出てこなかった。
「何もないんだよ、本当に」
何度も聞かされた、使い古された言い訳のテンプレート。
その再生ボタンが押された瞬間、私の中の何かが静かに音を立てた。
もう頷けなかった。
私は、彼の人生の“つなぎ”だったんだと、ようやく理解した。
便利で、バレずに済む場所。心の逃げ場。
でも、次の“本命”が現れた途端に切り捨てられる程度の存在。
最初から、そういうポジションだったんだ。
怒る資格なんて、自分にはないと思っていた。
でも今思えば、怒るべきだったのは、彼じゃない。
信じた自分の弱さ、見て見ぬふりをした臆病さに対してだった。
彼の言葉ひとつで揺れて、
彼の予定に合わせて感情を整えて、
“いつか選ばれるかもしれない”なんて物語を、自分で脚本して演じていた。
悔しさよりも、空しさが先にきた。
熱を帯びた感情は、怒号にも涙にもなれず、
ただじわじわと胸の奥で広がるだけだった。
沸騰しない湯のような温度で、私の内側をずっと責めていた。
私は、ただ「私じゃない誰かの未来」に便乗させてもらっていただけだった。
その電車に、自分の駅なんて最初から存在していなかった。
LINEをブロックした夜、スマホは不気味なほど静かだった。
通知も震えもない画面を見つめながら、私はようやく思えた。
もう終わりでいい、と。
それは寂しさじゃなかった。
ようやく、自分の時間が戻ってきたような気がした。

最終章:「あの人が離婚しても、もう私には一ミリも関係ない。」
他が本当に離婚したのか。
あるいはまた別の誰かに、同じセリフを繰り返してるのか。
「今度こそ本気」「お前とは違う」――あの人が何を誰に言ってるかなんて、もうどうでもいい。
私が決めたのは、たった一つ。
「その未来に、私はいない」ってことだけ。
かつて“女として見てる”って言われて嬉しかった自分を、今では少しだけ哀れに思う。
選ばれたくて、愛されたくて、我慢して、笑って、尽くして。
その全部が、“愛される価値”を他人に委ねていた証だった。
でも、もう終わりにした。
媚びずに、耐えずに、自分を好きでいられる日々のほうが、よっぽど穏やかで、ちゃんと呼吸ができる。
「好きになってもらう」より、「自分を裏切らない自分でいる」ことの方が大事だった。
あの人が離婚しようが、してなかろうが、もう私には一ミリも関係ない。
だって私、やっと自分の物語を「他人軸」から取り戻したから。
そして今、心のどこかで問いかけてる。
私の物語は、あの人の“未来予告”の中にはなかった。
でも今は、自分の声で、物語を書き直している。
あなたの人生は、あなた自身の言葉で綴られていますか?
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監修アクアグローバルサポート
