実家太い歯科医が、全てうまくいく。——貧乏歯科医が辿り着いた、この業界の残酷なルール
【ペルソナ設定:国公立卒・歯科勤務医・開業準備中】
はじめに——この記事は、誰に向けて書くか
最初に宣言しておく。
この記事は、実家が裕福な歯科医には関係ない話だ。
親が歯科医で、医院を継ぐ予定がある人。
開業資金を親に出してもらえる環境にある人。
私立の歯学部に通わせてもらい、国家試験予備校の費用も出してもらった人。
そういう人には、ここに書くことのほとんどが「ピンとこない話」として映るはずだ。それはあなたのせいではない。ただ、スタートラインが違う。
この記事は、そうではない歯科医——奨学金で学費を賄い、勤務医として働きながらコツコツ貯金して、それでも開業という夢に向かっている歯科医たちに向けて書く。
例えば……
国立の歯学部を卒業した。学費は私立より圧倒的に安かった。でも、援助はゼロだった。奨学金も残っている。国家試験に合格して、法人の歯科医院に就職して、もう何年も働いている。手を動かして、患者と向き合って、勉強して、資格を取って。
それでも、開業のスタートラインで、すでに不利だった。
気づくのに時間がかかった。頑張りが足りないせいだと、ずっと思っていた。でも違う。これは構造の問題だ。
データを持って、正直に書いていきたい。
第1章|「歯科医師は高収入」という神話の解体
「歯科医師って、儲かるんでしょ?」
一般の人からよく言われる。
確かに、数字だけ見ればそう見える。厚生労働省の統計では、歯科医師の平均年収は1,000万円を超える数字が並ぶ。「医師・歯科医師・薬剤師統計」でも、開業医を含めた全体の平均は高く見える。
だが、この平均値には罠がある。
歯科医師の世界は、極端な二極化が起きている。
勤務歯科医師の実態年収は500〜600万円台が相場だ。一方、医療法人を経営する開業院長クラスになると1,400万円を超えてくる。「平均」という数字は、この二つの全く異なる集団を一緒くたにして計算した結果に過ぎない。
さらに言えば、開業医の中でさえ、実態は甘くない。
歯科医院の収益実態を見ると、
- 全国の歯科診療所の廃業数は新規開設数をすでに上回っている(2022年、開設1,352件に対し廃業1,478件)
- 損益がプラスでも、下位20%の開業医の月収平均は十数万円という水準
- 赤字経営に終わる医院が調査対象の約1割存在し、かつ「平均」を下から引き下げているのがこの層
つまりこういうことだ。
歯科医師全体の「平均年収」は、一握りの高収益医院が引き上げた見かけ上の数字に過ぎない。
それなのに、「歯科医師は稼げる職業」という外側のイメージだけが一人歩きしている。
その結果、何が起きるか。
奨学金で学費を賄い、借金を抱えてスタートした歯科医が、「歯科医師なんだから稼げるでしょ」という目線にさらされながら、現実には経営の重さに押しつぶされそうになる。
私が言いたいのは、この業界の経済的な実態は、外側のイメージとは全く別物だということだ。
第2章|実家太い歯科医が、全てうまくいく理由
では、なぜ「実家が裕福な歯科医」だけが楽に見えるのか。
感情論ではなく、構造として説明する。
①学費という、最初の格差
歯科医師になるための入り口から、すでに差がついている。
国立歯学部の6年間の学費は、おおよそ350万〜380万円。
私立歯学部の6年間の学費は、1,800万〜3,200万円以上。
この差は約10倍だ。
私立歯学部に通わせてもらえる家庭とは、端的に言えば「2,000万円以上を子どもの教育費に使える家庭」だ。そういう家庭の子どもが歯科医になる。それは本人の努力の話では、もはやない。
国立に合格した俺は「学費が安かった」という点では有利だった。でも援助はなかった。奨学金を借りた。生活費も自分で何とかした。
一方で、私立歯学部に通った同期の多くは、学費の話をしなかった。話さなくていい環境にいたから。彼らが借金を抱えて卒業したケースは、ほとんど聞かない。
スタートラインで、すでに数千万円の差がついている。
②開業資金という、第二の格差
歯科医院を開業するためには、物件、内装工事、医療機器、什器備品など、総額で5,000万円以上かかるのが一般的な相場だ。
立地や規模にもよるが、都市部や商業施設内への出店となれば、さらに膨らむ。
この資金をどう調達するか——ここで、決定的な格差が生まれる。
勤務医として働きながら自己資金を貯めてきた歯科医は、銀行融資を使う。つまり借金からスタートする。毎月の返済が始まり、その重さを背負いながら診療をしなければならない。
一方、親が歯科医院を経営していれば?
親族内承継という形で、医院をほぼタダ同然で引き継ぐことができる。
立地も、患者基盤も、スタッフも、設備も、全部ある状態でのスタート。場合によっては億単位の価値がある医院を、贈与税の範囲内で、あるいは名目的な金額で受け取ることができる。
承継ではなく新規開業でも、親から開業資金の援助を受けることは珍しくない。1,000万、2,000万——日本の裕福な家庭では、これが「子どもへの支援」として動く。
借金7,000万円で開業した歯科医と、援助1,000万円プラスで開業した歯科医。
経営の余裕、診療の余裕、精神的な余裕——全てが違う。
③余裕が生む、さらなる差
ここが最も見えにくいが、最も重要な部分だ。
借金ゼロで開業した歯科医は、失敗するリスクを恐れずに先行投資できる。
高性能な機器を入れる。
優秀なスタッフを高い給与で採用する。
時間をかけて患者に説明する。
マーケティングに投資する。
勉強会に参加して技術を磨く。
これが全部、「余裕があるからできること」だ。
一方、返済を抱えた歯科医は、常に数字を気にしながら診療しなければならない。患者1人あたりの時間を削る判断をせざるを得ない局面がある。スタッフへの還元も制約される。
結果として、余裕のある歯科医院がさらに良くなり、余裕のない歯科医院が苦しくなる。
格差は開業後も広がり続ける。
④業界自体が、援助をスタート条件にしている
これは個人的な感想ではなく、業界の共通認識として存在する。
歯科開業コンサルタントや支援会社のサイトを見ると、露骨に書いてあるケースがある。
「実家の援助が期待できない先生は、まず勤務医キャリアを選ぶべき」
「自己資金〇〇万円以上が、開業の最低ライン」
つまり、この業界は「援助がある人」を前提として設計されている。
援助がない人間は、その設計の外に置かれている。
第3章|医科と比較すると、さらに絶望する
歯科医師と医師(医科)を比較すると、この問題の輪郭がさらにはっきりする。
国家試験の合格率を見てほしい。
医師国家試験の合格率は例年90%超。
歯科医師国家試験の合格率は、ここ数年で60%台まで落ちている。
なぜこんなに差があるのか。2006年以降、国が歯科医師数の削減方針を打ち出し、国家試験の基準を意図的に引き上げたからだ。なのに、試験の難易度が上がったからといって、歯科医師の社会的地位や収入が医師に近づいたわけではない。
年収格差もデータが示している。
賃金構造基本統計調査によれば、医師の平均年収が1,400万円超であるのに対し、歯科医師全体では810万円程度という調査がある。同じ「先生」でも600万円以上の差がある。
しかも医師の場合、大学病院や大病院の勤務医として就職すれば1,000万円超は現実的な水準だ。
歯科医師の場合は、歯科診療所勤務だと700万円台が多く、病院勤務でようやく1,200万円前後に届く。しかし歯科医師が大病院に就職できるポストは、医師に比べて圧倒的に少ない。
構造的な問題はもう一つある。
医師は、たとえ実家が医院を経営していなくても、勤務医として病院に就職するだけで一定の収入と地位が保証される。病院という受け皿が広くある。
歯科医師は違う。独立開業を目指さなければ、年収の天井が低いまま固定されやすい。でも開業には前述の通り、巨額の初期投資がいる。
医師は「働く場所」を選ぶ自由があり、歯科医師は「経営する覚悟」か「収入の上限を諦めるか」の二択に追い込まれやすい。
さらに、医科の診療報酬は歯科よりも改定の恩恵を受けやすい構造にある。保険点数の改定があるたびに、歯科はほとんどの場合、医科に比べて上昇幅が小さい。現場の努力が報酬に反映されにくい設計が、歯科医療には埋め込まれている。
第4章|だから、一部の歯科医は「闇医者」になる
ここは正直に書く。
「闇医者」という言葉を使うが、それが意味するのは犯罪ではない。
真面目に診療するほど経営が苦しくなる構造の中で、生き残るために「抜け道」を使わざるを得なくなった歯科医のことだ。
具体的には、こういうことが起きる。
- 保険診療の点数が低いので、必要以上に自費誘導する動機が生まれる
- 患者への説明時間を削って、回転率を上げざるを得なくなる
- 材料費を抑えるために、品質の低い材料を選ぶ
- スタッフの待遇を改善できず、消耗させてしまう
- 数をこなすために、一人一人への丁寧さが失われていく
これは悪意ではなく、構造的な圧力が生み出す必然だ。
借金を抱えて開業した歯科医は、毎月の返済日がある。スタッフの給与支払日がある。家賃の支払日がある。材料の仕入れ代がある。
その重さの中で、「患者のために時間をかけて丁寧に診る」という理想を維持し続けることは、経営的には不合理な選択になりうる。
理想を持って歯科医になった人間が、経営の論理に侵食されていく過程——これが「真面目な歯科医が闇医者化していく」メカニズムだ。
誰かを責めているのではない。システムの話をしている。
実家に援助してもらい、余裕を持って開業した歯科医は、このプレッシャーを受けにくい。理想の診療を維持しながら、経営もうまく回せる。患者からも評価され、口コミで広がり、さらに良いサイクルに入っていく。
一方、借金スタートの歯科医は、最初から余裕がない状態でこのプレッシャーと戦わなければならない。
同じ志を持って歯科医になったはずなのに、スタートラインの差が「どんな歯科医になるか」を大きく左右する。
これがこの業界の、最も人に見せたくない部分だ。
第4章|歯科医師会は、なぜ動かないのか
ここまで読んで、こう思う人もいるかもしれない。
「じゃあ歯科医師会が動いて、制度を変えればいいじゃないか」
ごもっともだ。ではなぜ、変わらないのか。
歯科医師会の構造を考えてほしい。
会員の中で大きな発言力を持つのは、経営が安定している開業医だ。多くの場合、資産背景があり、親からの承継や援助で開業したベテラン院長たちが中枢にいる。
彼らにとって、現行の保険制度はそれほど深刻な問題ではないかもしれない。すでに患者基盤があり、返済の重さもなく、自費診療の比率も高い。現状でも「うまくいっている」側にいる。
制度を変えようとする動機が、そもそも薄い。
一方、制度改革を切実に必要としているのは、借金を抱えた若い開業医や勤務医たちだ。しかし彼らは組織内での発言力が弱く、声が届きにくい。
歯科医師会の意思決定構造自体が、すでに格差の上に成り立っている。
得をしている側が制度を設計し、損をしている側が黙って従う——これが現実だ。
付け加えるなら、保険点数の改定交渉においても、医師会と比べて歯科医師会の政治的な影響力は小さい。歯科医療は「命に直結しにくい」と見なされやすく、改定の優先順位で後回しにされやすい構造がある。
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*「絶望を知った上で、それでもどう設計するか」——援助なし・借金スタートでも勝算を作るための具体的な思考フレームを5つ書いています。*
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第5章|それでも、我々が生き残る方法——構造を呪うより、設計を変えよ
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