営業の役割とはなにか 「営業のあり方」 #125
人は一人でできることには限界があります。
だからこそ、同じ目的を持つ人たちと組織をつくり、活動します。企業もその一つです。
それでは、その企業の存在意義は何かです。
経営学者ピーター・F・ドラッカー氏は、著書『マネジメント 基本と原理』の中でこう述べています。
「マネジメントは、組織に特有の使命、すなわち、それぞれの目的を果たすために存在する。
企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造することである。」
つまり、企業におけるマネジメントとは、「顧客の創造」を実現するためにある、ということになります。

■ 営業こそ、顧客創造の最前線
企業において、顧客創造の最前線に立ってきたのは営業です。
ところがドラッカーは、マネジメントの重要な機能としてマーケティングを挙げ、こうも言い切っています。
「マーケティングの目的は、販売(営業)を不要にすることだ。」
一見すると営業不要論のように聞こえます。
実際、ネット通販が躍進している現代においては、その言葉が現実味を帯びています。
特にBtoCでは、実店舗は厳しい競争にさらされています。
さらに近年では、従来は対面営業が不可欠とされたBtoBの分野でも、オンライン完結型で成功する企業が現れています。
営業の存在意義、そのあり方が問われる時代になりました。
■ 営業だけはやりたくなかった
実は私は、学生時代「営業だけは絶対にやりたくない」と思っていました。
人見知りで、初対面の人と話すのが苦手だったからです。
最初に就いた仕事は家業の鳶職でした。
しかし廃業に伴い転職することになり、もちろん、営業以外の職種を探しました。
結果、小さな商社の倉庫で出荷業務に従事することになります。
ところが、半年もすると営業に欠員が出ます。
そして補充要員として、なぜか私が指名されました。
こうして、望まぬ形で、私の営業人生が始まりました。

■ ドブ板営業の中で見えたもの
昔の日本型営業は、ロジックよりも「人と人との関係」を重視する仕事でした。
一件一件、お客様のもとへ足を運ぶ「ドブ板営業」は、その典型であり、私も例外ではありませんでした。
しかし、通い続ける中で変化が起きます。
信頼関係が深まると、少しずつお客様の本当の「困りごと」が見えてくる。
そこから、自分なりの企画を考え、提案するようになりました。
もちろん、最初は断られることばかり。
それでも挑戦を重ねるうちに、少しずつ形になり、やがて自分の企画でイベントを成功させることもできました。
その経験を通じて、私は営業という仕事が好きになりました。
蓮は、泥水の中から養分を吸い、大輪の花を咲かせると言われます。
泥臭い経験や苦労を美化するつもりはありません。
しかし、そこで流した汗や積み重ねた経験は、決して無駄にはならない。
「ドブ板営業」が現代で推奨される営業の姿ではないのだと思います。
しかし、私にとっては、その後の大きな仕事を成し遂げるための、かけがえのない土台となりました。

■ プロダクトアウトの限界
企業の社会的存在意義は、他社と差別化された独自の価値にあります。
しかし、その価値もニーズがなければ意味を持ちません。
製品やサービスの機能やスペックを前面に出し、メリットを強調する。
いわゆるプロダクトアウト型の提案には限界があります。
事実、新商品や新サービスの約80%が、見込んだ利益を得られないまま6カ月以内に市場から姿を消すという研究もあります。
その多くは、顧客理解が不十分なまま生み出されたものだと言われています。
顕在的な課題だけでなく、顧客自身も気づいていない潜在的な課題を理解すること。
そのために仮説を立て、リサーチし、分析する。
ここまでのプロセスは、まさにマーケティングの領域です。
これからの時代は、デジタルの活用も不可欠だと思います。
■ それでも、最後は「人対人」
しかし、それでも最後はやはり人対人です。
仮説をもとに発見した課題に対して、自社の独自価値を「顧客にとって魅力ある解決策」として提案する。
その提案を受け入れていただいたとき、はじめて「顧客の創造」が実現します。
ドラッカー氏の言う「販売を不要にするマーケティング」とは、営業を否定する言葉ではありません。
売り込まなくても自然に選んでいただける状態をつくることです。
その土台をマーケティングが整え、個別具体の関係の中で価値を形にするのが営業です。
営業はなくならない。
ただし、形は進化し続ける。
関係性だけでも成立しない。
スペック訴求だけでも成立しない。
顧客を深く理解し、
独自の価値を、対話を通じて届ける存在。
それが、これからの営業の姿であると考えます。
そして私は、かつて「絶対にやりたくない」と思っていたこの仕事を、今では誇りに思っています。
営業とは、顧客を創造する仕事なのです。
