重大事故は「突然」起きない「ヒヤリ・ハット」から未来を守る #28
企業活動において、とりわけ製造業や建設業では「安全先優先」、「安全第一」が絶対原則です。
事故や災害は、決して「あってはならないもの」。すべての業務は、安全に優先されるべきです。
しかし現実には、重大事故はゼロにはなっていません。
なぜでしょうか。

■ 見えている事故は、ほんの一部にすぎない
そのヒントが、「氷山の一角」という考え方にあります。
海に浮かぶ氷山は、水面上に見えている部分はほんのわずかで、
実際の大部分は水面下に隠れています。
事故も同じです。
私たちがニュースなどで目にする「重大事故」は、実は氷山の頂点にすぎません。

■ ハインリッヒの法則とは何か
この氷山の一角の考えを体系的に示したのが、有名なハインリッヒの法則(1:29:300)です。
1930年代、アメリカのハインリッヒが労働災害を分析して導いた経験則です。
• 重大事故:1件
• 軽微な事故:29件
• ヒヤリ・ハット:300件
つまり──
1件の重大事故の裏には、300件の「ヒヤリ」とした瞬間が潜んでいるということです。

■ ヒヤリ・ハットを軽視していないか…
ヒヤリ・ハットとは、事故には至らなかったものの
• 「ヒヤッとした」
• 「ハッとした」
そんな瞬間のことです。
多くの場合、「何も起きなかったから大丈夫」と見過ごされがちです。
しかしそれこそが、最大のリスクです。
例えば、こんな経験はないでしょうか。
• 工具を床に置いたままにしてしまい、つまずきかけた
• 確認を省略しそうになり、直前で気づいた
• 「いつも通りだから」と手順を飛ばしかけた
どれも事故には至っていません。
ですが、これらはすべて“事故の芽”です。
■ 事故後の対策では遅い理由
従来の安全対策は、事故が起きてからの再発防止が中心でした。
しかし──
重大事故は一度起きれば、人命や社会的信用に取り返しのつかない影響を与えます。
「起きてから対応する」では遅いのです。
一方で、重大事故は発生頻度が低く、予測も難しい。
だからこそ注目すべきは、日常に潜む「小さな異常」です。

■ 安全最優先の本質は「300」に向き合うこと
ハインリッヒの法則が示す本質はシンプルです。
重大事故を防ぐには、ヒヤリ・ハットを潰すしかない
極端に言えば、
• 300件のヒヤリ・ハットを減らせば
• 29件の軽微な事故も減り
• 1件の重大事故も防げる可能性が高まる
ということです。
■ ヒューマンエラーは「なくならない」
ヒヤリ・ハットの多くは、ヒューマンエラーに起因します。
ヒューマンエラーとは
「意図しない結果を生じる人間の行為」(JIS定義)
つまり、どんなに優秀な人でも、ミスは避けられません。
実際に、大規模事故の多くも「人の思い違い」や「確認不足」が引き金になっています。

だからこそ前提はこれ
“人は必ず間違える”
この前提に立たない限り、本当の安全対策は成立しません。
■ 現場でできる具体的な対策
ヒューマンエラーを前提にした対策には、次のようなものがあります。
• マニュアル・ルールの整備と徹底
• 指差呼称による確認
• ダブルチェック
• チェックリストの活用
• 危険予知トレーニング(KYT)
• 感受性教育(危険への意識付け)
• 疲労管理・十分な休息
• 作業環境の見直し
一つひとつは地味ですが、
積み重ねが事故を防ぎます。
■ 「報告できる環境」が事故を防ぐ
ここで見落とされがちなのが、もう一つの重要な視点です。
ヒヤリ・ハットは、報告されて初めて価値を持つ
もし現場に
• ミスを責める空気
• 報告しづらい雰囲気
があると、ヒヤリ・ハットは表に出てきません。
その結果、問題は水面下に溜まり続け、
ある日突然、重大事故として表面化します。
だからこそ、安全最優先とは
「ミスを責めない文化」をつくることでもあるのです。
■ 安全は「コスト」ではなく「投資」
安全対策は、手間も時間もかかります。
ですが、それを「コスト」と捉えるかどうかで、結果は大きく変わります。
安全は、事故による損失を防ぐための最大の投資です
一度の重大事故で失うものは、
• 人命
• 信頼
• 企業価値
どれも、取り戻すことは簡単ではありません。
■ 最大の敵は「慣れ」と「油断」
ヒューマンエラーの根本原因の一つは、油断です。
• 「これくらい大丈夫」
• 「いつもやっているから問題ない」
この小さな気の緩みが、重大事故につながります。

■ 安全最優先とは「日常の姿勢」
安全は、特別な取り組みではありません。
• 小さな違和感を見逃さない
• 面倒でも確認を省略しない
• 些細なミスを共有する
こうした日々の行動の積み重ねこそが、未来の事故を防ぎます。
重大事故は、ある日突然起きるわけではありません。
その前には必ず、無数の「見逃されたサイン」が存在します。
だからこそ、
ヒヤリとした瞬間を、見逃さないこと
そして、もう一つ。
そのヒヤリ・ハット、共有できていますか?
完璧でなくて構いません。
まずは今日ひとつ、気づいたことを言葉にしてみてください。
小さな行動の積み重ねが、未来の命を守ります。

