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【連結経理課・和服ちゃん】(PMI編2営業日)出向先へ

 社長からの突然の辞令があった翌週、私は一人でエコペンテック社へ向かった。電車の窓から見える空は相変わらず青く澄んでいて雲を運んでいる。
 エコペンテックは私の家から少し離れている。これから毎日早起きしないと。寝坊したら朝のヨーグルトを食べる時間はなさそう。それにしても「動物園」かぁ。社長の前では仕方ないと思い引き受けたものの、自宅から遠いのは少し気が重い。
 でも、東集グループとしてこれから一緒に仕事をする会社だ。できればしっかり受け入れ、良い関係を作って今後の連結決算作業もスムーズにしたい。

 と考えている間にエコペンテック社の前にやってきた。都心からは少し離れた郊外とはいえ、駅前の商業ビルに入っているってことはやはり儲かっているのだろう。
 もうすぐ梅雨入りになるだろうし、駅前なのは嬉しい。それに同じビル内にはオシャレなカフェやレストランが入っていることもポイントが高い。

 エコペンテック--創業三十三年と結構な社歴のある会社だ。
 辞令の後にM&A時のデューデリジェンス(DD)レポートは読んだので、エコペン社の状況は少しは分かっているつもりだ。勿論、今日も持ってきている。……二百四十ページもあるDDレポートを。
 ただレポートはレポートだ、色眼鏡いろめがねをかけず、等身大の会社を見ていかないと。

 エレベータが、エコペンテックが入居するフロアに到着した。エレベータを出ると目の前には「ECO-PENTECH」とロゴが入った看板が目に入ってきた。
 私はパソコンと重いレポート冊子が入ったカバンを置き、看板のそばにあったインターホンで管理部経理課への呼び出しを押す。
「東集商事から来た三和と申します。今日からお世話になります」
「ハイハイ、あ、サンワさんね。ちょっとまってて」
 年配の女性の声がインターホンの向こうから聞こえた。賃貸ビルだからだろうか。インターホンと部門の問い合わせ番号表、それに会社の看板以外何もない。
 その会社の看板を見ながら、ドキドキしながら待っていると、少ししてインターホンの隣のドアから派手なスーツの男性が出てきた。
 ライトブラウンの地に黄色いストライプの入ったジャケット、胸ポケットには赤いポケットチーフを挟み、ネクタイは無く、柄物のシャツをボタン上二つも開けていた。
 エコペンテックはソフトウェアの開発をする堅実な会社、とDDレポートには書いてあったけども、こんな派手な格好の人が居るとは予想もしなかった。

 私が目を丸くしながら見ていると、派手なスーツの男性はおどけた笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「お、噂の和服ちゃん? 俺は営業の伊原いはら、ヨロシクね」
 伊原と名乗った男性は笑いながら握手をしてきた。
 営業といっても、これで受注が取れるのだろうか。いや、私が分からないだけで、これでも凄腕の営業マンなのかもしれない。

 ドアをくぐると応接室といくつかの会議室へのドアが並んでいた。ワンフロア全部借りているのか、廊下は奥へ続いている。
「さ、経理はこっち。いやーでもホント助かるよ。うちの経理、若い子いなくてさぁ。頭が固い固い」
 私を案内しながら、伊原さんは笑って話す。
 経理が固いのは仕方ないのでは、とも考えたが、営業目線ではもっと柔軟にやってほしいってことなのかもしれない。伊原さんの言葉も冗談めいたような口ぶりだ。
 ただ冗談めいてそんなことが初対面の私にも言えるのだ。社内の関係は良好なのだろう。
 そんなことを考えながら経理課の執務部屋へ向かった。

「あ、俺のいる営業部はこっちね。多分、頻繁に来ると思うから覚えておいて。ま、俺は結構何でも屋みたいな感じだから総務にいたりもするけど。
 和服ちゃん、俺に会いたいときはココ(営業部)か経理課の隣の総務課に来て」
 途中で案内してくれた営業部の部屋。廊下から覗くと段ボール箱が積み上がりデスク上も荒れていた。
 若い男性が電話をしながらメモを取っている。デスクは荒れているが、活気がある。良かった、普通の会社のようで。
 それにしても伊原さんの言葉は、少しナンパな感じもする。見た目も奇抜だし。
 それに総務と兼務と言っていたけど、これは帳簿以外にも課題がありそうだ。
 そうこう考えている間に経理の部屋へ着いたようだ。
「よし着いた。山口さーん、後はよろしくね」
 そう言うと伊原さんは先ほどの営業部の部屋へ消えていった。一抹いちまつの不安を感じつつ私は山口さんと呼ばれた年配の女性へ目をやった。
 山口さんは伊原さんが呼んだにも関わらず、パソコンから目を離さず動こうとしない。
 親会社から来たと言っても、ここでは私が新入りの立場だ。私から積極的に挨拶をしよう。
 私はパソコンに向き合っている山口さんへ近づき、挨拶をした。
「東集商事から来ました、三和と申します。よろしく……」
 挨拶を言い切る前に山口さんがくるりとこちらへ向き、言葉を重ねてきた。
「三和さんね。経理で主任をしている山口です。よろしくね。先日きた神谷って人と違ってとっつきやすそうね。
 私はここの経理、もう10年以上やってるから何でも聞いて頂戴ちょうだい
 何でも聞いて、とは結構な自信だ。私も経理の経験は長いけれど、そんなことは中々言えない。
 ただ、この山口さんがずっと経理を仕切ってきたというのはDDレポートにも書いてあった。この会社の経理を支えてきた、という自信があるのだろう。出向生活で一番お世話になるだろうし、何とかうまく仕事を進められる関係になりたい。
 少し呆気あっけに取られたけれど、私はすぐに返事をした。
「は、はい。よろしくお願いします」

 無事に挨拶はできたものの、営業と総務をかけ持つ伊原さんに少し癖のありそうな山口主任。
 外の青空とは裏腹に、私の頭の中には暗雲が立ち込めていた。

3営業日へ


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