【掌編私小説】緑茶と蒸留酒と味噌汁
祖母が亡くなった。父から知らされた。
長女はもっとこうしてくれたのに、長男は、
次男は、次女は、三男は…とふれ回って俺の
父のきょうだいの仲をよくかき回した人だった。
だが、訃報に接した時は俺の母やふたりの姉は
悲しがった。俺も、それなりに。
遠路、大阪から長崎へ。
通夜を小さく済ませ、父母は既に離婚していたので
俺達は母の実家に泊めてもらう運びになった。
通夜が終わり、四人で夜のファミレスでコーヒーで
一息つく。父から、母へ着信。
母がかなり怒りを露わにしている。
何だ?離婚についてはもう片がついてるだろ?
「アンタら、明日のお葬式に行かんでええ。
お父さんがな、火葬場に行く私らの分の車を用意
してへんから適当にタクシーでもつかまえろって
言うんや。私が代表で行くからアンタらはええわ」
父から折り返しの電話が入った。
やっぱり手配出来たらしい。
…やっぱりって何やねん。
母は行かないことにした。
俺と姉ふたり、三人で参列した。
火葬場に向かう父と相乗りした車中で、
来てくれてありがとうの言葉もなく、
昨日の不手際の謝罪もなく、ただただ、
突然の訃報に驚きながらもギリギリ間に合った、
という長崎一どうでもいい報告を聞かされた。
火葬。
その間に遺族で集まって食事をとる。
何かお膳だとか寿司だとかを想像していたけれど、
叔母がスーパーだかコンビニで大量に買ってきた
おにぎりやパンだった。それは別に構わないが、
自分の手柄だと言わんばかりにいい顔をして
明るくテンポのよい気配りをしているつもりか、
食べ物をほら、ほら、と投げ渡す。
この人は生来の性悪女だと母から聞いていた。
小さい頃に遊んだ記憶と写真が残るいとこの
ふたつ下くらいの女の子に話しかけてみるが、
長年の我々の親同士の仲の悪さからか、
慣れない環境下からか、人見知りからか、
ほぼシカトされた。
投げ渡されたたまごサンドを無理矢理押し込んで
緑茶で流し、こんな空間に再び戻るくらいなら、
3月のクソ寒い野外でひたすらに煙草を
吸い続ける方がマシだと思って、凍えながら
遠い目をしていた。
父のきょうだいの中で唯一の良心の長女にも、
寡黙な反抗期みたいな態度を取ってしまった。
今はいつものバーの仕事ほど饒舌になれないよ。
ごめんな。
あぁ、帰りたい。早く。
終わって、母の友人に誘われて寿司を食いに
行った。流石は長崎の寿司屋。美味い。
夜は母の友人が経営するスナック。
ブラックニッカのロックを矢継ぎ早に注ぐ
チーママ。
姉ふたりで大阪LOVERを歌っていた。
ふん、置きに行った選曲だな。
昭和歌謡なら守備範囲だ。
嵐を呼ぶ男、勝手にしやがれ、ルビーの指環…
あー、いいね。初のスナック。
このウィスキーのロックも何杯目だ?
あーもう分かってるよ姉ちゃん、水もう要らん。
タクシーに押し込まれ、分厚い毛布を何枚も
かけられて寝たところは覚えてる。
起床、味噌汁がやたら美味い。
2個目の玉子焼きをつまんだ箸が一拍止まる。
俺は目の前のチーママをめちゃくちゃ
ナンパしてたらしい。
カウンターから出て隣に座ってよ、だとか。
中学時代に一人でアレしてたのがバレた次の次の
次くらいに恥ずかしかった。
合掌。色んな意味で。
終
