こぶとり爺さんになった話
土曜日
朝、目覚めたら私はこぶとり爺さんになっていた。
小太りではなく、こぶとりじいさんである。
あるはずもないが、今どこかで『実写版こぶとり爺さん』のオーディションがあるなら私は合格する自信がある。特殊メイクの必要がないからだ。
私のこぶは右頬にある。鬼の前で踊りを披露して踊りが気にいられ、明日も来てほしいと言ってこぶを取られる善良な爺さんと同じ右頬である。
改めて読み返すといろいろと突っ込みたくなる話だ。こぶは取るのではなく取られるのだから本来なら『こぶとられ爺さん』と受け身形にすべきだろうとか、こぶを取られる…なんて想像するだに恐ろしいことではないか、どんだけ痛いんだ、とか。
話が逸れた。
こぶに戻そう。
(ここからは無駄に長いから太字だけ読むのもありです!)
一日戻って金曜日
嫌な予感は、前日の昼食をとったときにあった。
ロールパンのサンドイッチを食べた。中には、チキンやゆで卵がたっぷり入っていて、お腹がすいていた私はガブリとガブリと食べ進めた。が、なぜかうまく咀嚼できない。
もっとたくさん噛んでから胃へと送り込みたいのに、それができないのである。うっすらと痛みが口の中に走る。右奥だ。仕方がないので、ホットコーヒーで流し込むようにして食べ終えた。なんだか野蛮な食べ方のような気がしたが、仕方がない。うまく咀嚼できないのだ。
食べ終えるころには、またやってしまったかなと思った。
食いしばりである。
歯ぎしりと食いしばりがひどい私は毎晩マウスピースを装着して寝ているのだが、朝気が付くとマウスピースが外れて装着しないまま寝ていたのだ。
朝の時点では、口の中にさほど異常は感じられなかった。が、時間が経つにつれ痛みの程度は増しているように感じた。危険を感じた私はすぐに歯医者の予約を入れた。翌日のお昼過ぎには診てもらえることになった。
夜、私の頬はまだ腫れてはいなかった。が、痛みはとんでもないレベルに達していた。これは絶対に寝られないやつだと確信した私は渋々バファリンを飲んだ。なぜ渋々かというと、恥ずかしながら私は錠剤やカプセルの薬が飲めないからだ。粉薬とシロップ剤(大人なのに!)のみ受け付ける。
バファリンは「飲めなーい」と言ったり、「1,2、の3」で飲むんだ!と自分を鼓舞したりしているうちに口の中でほろっと溶け出すのでそれを飲みこむ。非常に苦い。普段全く薬を飲まない私が規定量の2錠も飲んだのだから、すぐに効いて楽になるだろうと思っていた。
駄菓子菓子
頭のてっぺんを突き抜けるかのごとく痛みが襲ってくる。全然薬が効かない。居ても立っても居られない。部屋の中をうろうろ歩き回り頬に保冷剤を当てて、痛みを紛らわす。が、全然紛れない。
夜10時。あぁ。そういえばまだ、お風呂に入っていない。もちろん湯船になんか浸かれない。でもシャワーは浴びたい。でも痛い。でも浴びたい。どうする?どうする、どうする、どうする…。
えーーーい、浴びてしまえ!!
すごく体力を消耗した気がした。眠れないかもしれないけど、とにかく横になろう。気合で髪をドライヤーで乾かしベッドに入った。
ズッキン
ズッキン
ズッキン
ズッキン
ちっとも寝られない。飲み会から帰ってきた夫に「明日は朝ごはんも昼ご飯も作れません」宣言をしてまたベッドに戻った。
深夜2時30分、前に歯医者でもらった痛み止めを飲む。飲めないからガリガリ噛んで飲む。もちろんとんでもなく苦いがそんなことはどうでもいい。早く楽にしてくれとすがるような気持ちで飲み込んだ。
結局、寝たような寝られなかったような一夜を過ごした。
冒頭の土曜日の朝に戻る
そうして、土曜日の朝に私は右頬にこぶのある善良な爺さんになっていたのだった。
不思議とこぶができてからは痛みがかなり軽減されていた。熱を帯びたこぶがまるで痛みを吸収してくれているかのようだった。
ヨーグルトとすりおろしりんごを食して昼過ぎにマスクをして歯医者に向かった。
歯茎が炎症を起こしていて、前に治療した歯の被せ物をとってみないとなんとも言えないが、何度か通ってもらうことになりますとのことだった。
その場ですぐに抗生剤が出され、診察台で飲むように言われた。スタッフの方が水をとっても小さい紙コップにペットボトルのキャップに2杯ほどの水を入れて持って来てくださった。
(こんな少ない水で飲めるはずがない!)
「すみませーーん。お水もっといただけますか。」
結局かみ砕いて飲んだ。
(中略)
一日飛ばして月曜日の朝
たまたま今日は有給休暇を取っている。私はまだ右頬にこぶのある善良な爺さんのままだ。
今日の午後また治療に行く。こんなことのために有休を取ったわけじゃないのに…。
はぁ。明日の私もこぶとり爺さんのままなら、マスクをして授業をすることになる。避けたい。この暑さの中、マスクで授業は酸欠になりそうだ。だが、その可能性は高そうだ。
今日、歯医者に行くときはお守り代わりにこれを持って行こう。

#ティッシュ字検定公認ティッシュ
なんの歯無しにならないことを祈るばかり
はやく私に戻りたい。

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