打ち上げ芸は突然に:誰も得意技なんて持っていない
多くの人が集まる場所、つまりパーティ―などの場で何かやってくださいと言われたらあなたは何をしますか。
今の私ならもしかしたら指笛かもしれません。

学生時代の話
「今夜打ち上げをするから何か出し物をやってね」と、とおる先輩から私たち女子5名にお達しがでたのは、夏の合宿もいよいよ明日が最終日という朝のことだった。
私たちはおおいに慌てた。
「どうする」「なにする」
「何かやれって言われてもねぇ」「聞いてないよね。そんなこと」
「なにかできる?」
「なんにもできないよ」
「どうする」「どうする」
「どうしよ」「とにかく、決めなきゃ」
「歌でも歌う?」
「歌ねぇ。つまらないって言われそう」
「踊る?」
「何踊るの?」「今から練習しても間に合わないでしょ」
「どうする」
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こういうとき、いつもは大人しいまみちゃんがなぜかいつもボソッとアイデアを出してくれる。
「ねぇ。二人羽織なんて、どう?」
「えーーーつ!!」
「二人羽織ぃーー?」
「売店でカップ麺買ってさ、二人一組でやるの。どう?」
「残り一人はどうするの?」
「司会でいいんじゃない?」
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斯くして、私たちは誰も経験したことのない人生初の二人羽織を先輩たちの前でお披露目することになった。誰も二人羽織に納得なんてしていなかった。だけど、仕方ない。他にやることが思い浮かばなかったのだから。
妙な緊張感のもと、女子二人が前後に密着しておそろいのスタジャンを羽織って、長机の前に座った。カップ麺は、お湯を注いでから5分以上の時間が経っていたから蓋を開けた時には驚くほどふやけていて、これからこの麺が口元に運ばれるのかと思うと、嫌な予感しかしなかった。
私は、二人羽織の前、つまり食べる担当だった。かよちゃんとペアだった。かよちゃんは何かと思いっきりのいい子で、大胆な言動をする子だった。
即席二人羽織の恰好をして、皆の前で座っているだけでも恥ずかしいのに、これからあのふやけた麺を食べなくちゃならないなんて…とブルーな気持ちでいっぱいだった。だが、打ち上げ会場は笑いに満ちていた。まだ、何にもしていないのに。
開始早々、かよちゃんは割りばしをうまいこと割り、最初はなかなか麺を箸でつかむことができないでいたが、何度目かの挑戦で結構な量の麺をつかむことに成功した。そして、その結構な量の麺はそのボリュームを保ったまま私の口のほうへ向かってきた。
が、そこは二人羽織。
伸びきったボリュームのある麺は、私の鼻の下に運ばれた。
「熱っ!」
顔をしかめて熱がる私を見て爆笑する先輩や同学年男子たち。
うまく口に運ばれない悲しい運命のふやけた麺。なかなか命中しない麺。まずは方向をかよちゃんに聞こえるように指示してみた。
「もっと右、いや行きすぎ!」
「もう少し下」
その度に笑いが起きる。
向こうから来ないのであれば、そこは迎えに行くしかないとばかりに口をつきだし、間抜けな顔で麺を迎えようとすればするほど、顔はカップラーメンのスープでびちょびちょになり、長机の上も飛び散った麺やらスープやらですごいことになっていた。
会場の笑いもそうとうなものだった。恥ずかしかったけど、ウケているならまぁいいかと思えた。
となりで苦戦していた、花子とまみちゃんのペアも似たような状況だった。
最後は、スープでびちょびちょになった顔を、かよちゃんが力強くごしごしタオルで拭きあげてくれた。ちょっぴり痛くて、恥ずかしかった。
司会をしたみよちゃんがうまいこと実況して盛り上げてくれた。おかげでどうにか私たちは出番を終えることができた。
なんとか、出し物で笑いを取れた私たちは、ほっとしてその夜は興奮に包まれながら眠りについた。私たちは成功したと思っていた。

翌朝、わたしたちはとおる先輩から耳を疑うような評価をいただいた。
「俺たちはさぁ、もっときれいなものを期待していたんだけどなぁ。あれは、きれいじゃないよね…。」
「え?」「???」
「俺たち、きれいだっただろ?」
わたしたちは、顔を見合わせた。
そして、次の瞬間爆笑した。
なぜかというと、先輩たちがやったのは、オネエ芸だったからだ。
とおる先輩は、美脚の膝をぴったりとつけ斜めにそろえて、しなを作ってパイプ椅子に座っていた。もう一人の先輩も同様に座っていて、そろえた脚はとおる先輩とは反対方向に斜めになっていた。二人とも誰に借りたのかまっ白なテニスのスコートまで履いていた。
二人とも話すときは口元に手を当てたりウインクしたり、ノリノリだった。いつもよりもかなり高い声で何か発話する度笑いが起き、私たちも涙を流して笑ったのだった。
「先輩たちの考える『きれい』な芸って、なんだったんだろうね。」
いったい、何をすれば先輩たちは喜んだのだろうか。
あの夜、私たちは「きれい」じゃなかったらしい。

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