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エマニエルしてください

暑くなってきた。

それまでお膝にいた姫ちゃんの居場所が、急にわからなくなってしまった。
家の中のどこかにいるのだろうが、その姿をすぐに見つけることはできない。

大きな声で呼ぶと、トコトコと階段を降りる音がする。その顔は「今まで寝てたのですけど」という感じをマックスに出している。


「あっ、エマニエルなのね」


離れの奥の部屋に、大きな椅子がある。そこに女王様のように座る姿を、私たち夫婦は「エマニエルする」と呼んでいる。


若かりし頃、ドキドキしながら親に隠れながら見た映画『エマニエル夫人』。
あの有名な椅子に腰掛ける美しい姿と、姫ちゃんのかわいらしい姿が、どこか重なるからだ。


そんな姫ちゃん、先日、いつものように義母が洗濯物を出し入れする一瞬の隙間をぬって、外に飛び出してしまった。

「あらまぁ、姫ちゃん、どうしましょう。縁の下に入ってしまったわ」と義母。

毎日一度は繰り返される姫ちゃんの逃走劇だが、今回はボロボロになった縁の下へとつながる板の隙間から、中に入り込んでしまったのだ。


我が家の縁の下は、広い。
どこからでも出られるし、どこからでも入れる、隙間だらけの姫ちゃんにとっては、ワンダーランド。


慌てて夫がカリカリの袋を持ってきた。カサカサと音を立てれば、大概のときはつられて出てくるのだ。

ところが今回ばかりは、初めて足を踏み入れた縁の下の面白さに興奮しているのか、ご飯どころではないらしい。

外では「カサカサ、姫ちゃん!」と大慌てしている人間たちをよそに、姫ちゃんは忍び足で縁の下を満喫している。


いつまでたっても出てこない。とうとう痺れを切らし、板を外して奥を覗き込んだ私。


――そこには、暗闇の中でキラリと輝くふたつの目。


「来れるものなら、ここまでおいで」と、私たちを翻弄して楽しんでいるような、そんな強い輝きを放っていた。


縁の下なんて、何がいるかわからない。蛇がいるかもしれない、ネズミがいるかもしれない、あるいはもっとすごい野生の生き物(?)がいるかもしれない。


そんなスリル満点の暗闇で、夜行性のニャンコは一気に野生の喜びを爆発させたのだろう。

待つこと15分。
ようやく板の隙間からひょっこりと出てきた姫ちゃんは、
「何かありました?」
と言わんばかりに、しっぽをピンと垂直に立てて私たちの前を悠々と歩いていく。


まったく、姫ちゃんには振り回されてばかりだ。


夏になると、どこにいるかわからなくなる姫ちゃん。


お願いだから、危ない冒険はナシにして、静かなお部屋で
「エマニエルして」いてください。
それが、家族からの切なる願いです。


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