マジックアワーのとき、わたしは恋に落ちた。
あなたとは、秋に出会った
風が吹くと、落ち葉がかさかさ
鳴った
あなたとは駅のホームで
すれちがってたり、
17時10分の電車に
乗り合わせていたりするだけ…
あなたは眼鏡をかけていて、やさしい
顔立ちの男の人だった
わたしは、お昼すぎから大体
毎日、工場で働いていた
ベルトコンベアで流れてくる
小さな和菓子をひたすら箱につめ続ける
ただ、それだけの仕事だった
その仕事から解き放たれて、
帰るときにこの17時10分の
電車を利用していた
田舎の駅で、わたしとあなたが…
あとたまにお年寄りがホームに
いればいいほうだった
夕刻でオレンジが駅の
ホームにかかる
あなたは、オレンジが駅の
ホームにかかるとともに、
ゆっくりやってくることが多かった
電車はクリーム色、
たったの1両編成だった
風を乗せて電車が来ると、
オレンジ掛かった色になっていた
夕刻は、別名マジックアワーと
呼ばれるらしい…
ある日、電車に乗りながら
何年か前のことを思い出していた
夜中に、
お父さんといっしょに近くの
河川敷へ行って、流星群を見たこと
河川敷まで歩いている間、
どんなお願い事をしようか
考えていて、恋人が出来ますように
とお願いしようと空想していた
現実は、たくさんの星々が
流れていくのを見て、わたしは
ただ…飲みこまれそうになっていた
お願い事なんかしてる余裕なんか
なくって、ただ生まれては消えていく…
その星たちの美しさに圧倒された、
あの日。
そのときのことで、わたしは
星が大好きになった
プラネタリウムもたくさん行った
プラネタリウムを見たあとは、
いつも瞼を閉じて星の物語の
空想をしていた
ただ、この仕事に就いてからはもうプラネタリウムへ行かなくなっていた…
たった数年前のことなのに…
いまが、単調な毎日を
過ごしているから…、
あの日がずっと遠くに感じた…
ある日帰るとき、電車を降りて
傘を忘れてしまったことに気づく
その日は朝から雨が降っていた
けれど、わたしが帰る
17時前には止んでいた
使わない傘は、忘れがちな荷物になる
手すりに傘をかけたまま、
それを忘れて、電車を降りてしまった
「あ、傘!」
あなたが気づいて
ちょっと大きく言った
でも、電車の発車メロディが鳴っていた
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