空にまっすぐ伸びた手|#一言で表せない感動
五月の強い日差しは、早くも夏の匂いを連れてきていた。運動公園の隅、日傘が作るわずかな影の中、私は息子の姿をじっと見つめていた。楽しげな子どもたちの輪から外れ、一人でぽつんと佇んでいる息子。その背中を見つめる私の胸の奥で、ちりちりと小さな後悔が燻っていた
すべては、私の浅はかな期待から始まったのだ。小学校から配られた『走り方教室』というイベントのチラシ。私に似て、走るのが苦手な息子。その姿を見るたび、心のどこかで負い目を感じていた。だから、「良いきっかけになるかもしれない」と、つい都合の良い物語を信じてしまったのだ。
当日、公園の広場に近づくにつれて、私の足は重くなっていった。そこにいる二十人ほどの小学生は、すでに数人のグループに分かれていた。同じジャージを着ている子もいる。何か別のクラブ活動で、揃って参加しているのかもしれない。ざっと見渡しても、ひとりで参加しようとしている子はいないようだった。私の隣で、息子がわずかに身を固くしたのがわかった。
「…帰ろうか」という言葉が喉まで出かかった。しかし、事前に参加希望を伝えてある。今さら断るわけにもいかない。私は一瞬迷った末、「いっておいで」と息子の背中を優しく押した。
教室が始まっても、息子はひとりだった。誰とも言葉を交わすことなく、コーチの指示を黙々とこなす。その姿をただ見守る時間は、まるで罰のように長く感じられた。
「最後に、何か質問はありますか?」
コーチの明るい声が響く、やっと終わる。安堵とともに、この後のフォローを考えていた。一緒にお菓子でも買いに行こう。たくさん褒めてあげよう。と。
その時、静まり返る子どもたちの列の端で、一本の腕が、まっすぐに空に向かって上がった。息子の、手だった。
指名され、ゆっくりと立ち上がった息子が、緊張で少し震えた声で、それでもハッキリと言った。
「どうすれば、もっと速く走れるようになりますか。家でできる練習は、ありますか」
その瞬間、記憶と感情が奔流となって押し寄せた。私の服の裾を固く握りしめ、恥ずかしがって挨拶もできなかった幼い息子。あの子が、今、自分の足で立ち、自分の意志を堂々と伝えている。
込み上げる熱いものを、私は奥歯を噛みしめて必死にこらえた。
嬉しくて、誇らしくて、そしてほんの少しだけ、私の知らない場所へ彼が行ってしまうようで寂しい。様々な感情が混ざり合って、私の胸を満たしていった。
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#一言で表せない感動
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