虹色創作部 「テラスの魔女」
小高い丘の上にある図書館。そのテラス席は、私だけの断罪場だった。今日も手に馴染んだ本を一冊携えて、いつもの場所に腰を下ろす。
眼下に広がる街は、憎らしいほど穏やかに晴れ渡っていた。ミニチュアみたいな車が走り、人々が米粒のように行き交う。学校のチャイム、時間を知らせる町内放送、誰かの笑い声。私がここでなにをしようと関係なく、世界はいつもどおり平和だ。その事実が私を苛んだ。
見なければいい。分かっている。それでも、わざわざこの場所から見下ろすことをやめることはできなかった。この街の全てを俯瞰してみる。そして、溜め込んだ毒を想像力で解き放つ。それが私の唯一の抵抗だったからだ。
手に持ったファンタジー小説の、嵐を呼ぶ呪文を静かに口の中でつぶやく。とたんに、私の頭の中の風景は一変した。辺りは闇に包まれ、分厚い暗雲が渦を巻き、風が憎悪のように唸りを上げる。荒れ狂う風に煽られた図書館の電灯がチカチカとゆれる。
まずは忌々しい学校に、雷を一つ。落とす。校舎に直撃したそれは火を上げてあそこにいる嫌な奴らを震え上がらせた。その光景に満足した私は次の狙いを定める。住宅街の中に埋もれように佇む、小さな屋根。あれだ。じっと睨みつけたまま、ぴたりと動きを止める。一瞬、息が詰まる。そこは、私の家だった。
全部…全部、燃えてしまえばいい。
ためらいを振り払うように、誰にも聞こえないように小さくつぶやく。
「雷を、一つ」 声が震えた。 「もう一つ」 憎しみと悲しみがごちゃ混ぜになった感情がこみ上げる。いっそ、塵になるまで。跡形もなくなるまで。私は祈るように、数えきれないほどの雷をそこに落とし続けた。あの牢獄を自分の手で壊している間だけ、私は無敵だった。
ふわりと『蛍の光』のメロディが流れ始めた。陳腐な音楽が、私を現実へと引きずり戻す。雷鳴は消え、頭の中の暗雲が晴れていく。夕暮れに染まる穏やかな光景の中に、あの屋根が、きちんとそこにあった。傷一つなく。
パタン、と本を閉じる。魔法は解け、私がただの無力な子供であることを実感する。帰りたくもない家に向かって、私はとぼとぼと丘を下り始めた。
こちらの企画に参加させていただきました。
夢中で書いてる途中で気が付きました。
あれ…これ…夜じゃないやん……ええいままよ!
素敵なイラストをありがとうございました。
夜じゃないのは目をつぶって頂けたらうれしいです…。
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ここに投じられたお金は、カフェインに変換され私の体内を駆け巡ります。結果として創作物のテンションが少し上がってしまうことをご了承ください。