【毎週ショートショートnote】お題「ときめきトゥーシューズ」
世界は『正解』に染まっていた。
見渡す限りどこを切り取っても『正解』だらけ。朝食、服装、通勤。全て掲示された正解をなぞるだけ。
バレエの世界も、そうだ。
AIがリアルタイムで表示する正解の通りに踊るのが今の私の仕事。
バレエで何かを表現しようと思わなくなったのは、いつからだろう。意識して吐いた息が、朝の通勤路に白く広がって消える。
ふと、何かを熱心に見つめる少女の背中が目にとまった。少女の視線の先には、ショーウィンドウの中に飾られたトゥーシューズがあった。
幼い頃の記憶が、フラッシュバックする。
動画で見たバレリーナに心を奪われたこと。おこづかいを握りしめてトゥーシューズを買いに走ったこと。値段をみて愕然としながらも、その輝きに胸のときめきが止まらなかったこと。
頬を伝う感触に我に返る。
目元をぬぐい。もういちど少女のほうを見た。
少女はホログラム特有の揺らぎとともに、満面の笑みでトゥーシューズを抱きしめる姿に変わった。
「あの時のトキメキをあなたのもとへ!ときめきトゥーシューズ本日発売!」
少女の頭上に、『正解』のキャッチコピーが浮かんでいた。
(468文字)
こちらの企画に参加させていただきました。
ときめくお題。ありがとうございました。
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