どこのどなたか存じませんが、心よりの感謝を込めて〜ドイツの街で落し物〜🇩🇪
「スマホがない!💦」
人生で初めての経験をした。春の穏やかな陽射しの中で。
マロニエの花の時期が終わった頃の話だ。青々と繁る大きな葉に房状の白い花、まるで絵のモチーフのようで、見かける度に写真を撮っていた。
その白い花が見られなくなって淋しいと思っていたところに、今度は栃の木の花が咲きはじめた。これもこれで美しい。
今日もレストランの庭のところで見かけて、その木の下のテーブルで人々が食事を楽しんでいる光景が何とも美しく、早速スマホを取り出そうとバックに手を入れた。
‥‥スマホがない(・_・;)
車では使っていたので、傍に置いて忘れてしまったらしい。夫に伝えたけれども、「車に戻る?」とは訊いてこなかった。というのは長い長い坂道を下り切った場所であったので。歩くのが嫌いな私が、あの坂をまた上る筈がない。
会場には駐車場がないので、周辺の駐車場や道の両側の駐車スペースに置く。近くの高台にある道は車を停めやすい穴場で、そこから気持ちの良い林の中の坂道を下ると、道の向かいはすぐ会場の教会広場だ。
『まあ、栃の木の撮影は他でもできるし、マーケットの雰囲気はもうよくわかっているし。』
何時間かスマホが手元になくても問題ない、とその時は思ったのだった。
この日は家から15分ほどの教会の広場で、毎年春に行われるアンティークマーケットに出かけた。ここはアンティークだけではなく、日用品、アクセサリー、玩具、紅茶、石鹸、民族衣装など様々なお店や食べ物の店も並ぶ、楽しいマーケットだ。
長い冬が終わり、ドイツはやっと4月の下旬に春が来る。
桜や春の花々は4月の初めから咲いてはいたけれど、まだまだ寒くてダウンを着ていた。ダウンが必要なくなってこそ春でしょ?と毎年思う。
そしてとうとう4月下旬、いきなり春はやって来て、この季節を待ち侘びた人々はこぞって外へ出る。
ついこの間まで10日ほど長雨が続き、ある日いきなり晴れたかと思うと、20度を超えて暑くなり、半袖の人が現れる。しかしその翌日はまた12〜13度程度に下がり、再び皆ダウンを羽織る。
4月はこんな繰り返しで、まだドイツの気候に慣れない人はこの寒暖差で大風邪を引く。赴任したばかりの知り合いは揃って寝込んでいた。
今日は5月1日。雲ひとつない青空で気温も25度を超えた。ジリジリと焦げるような暑さだ。毎年いきなり初夏の陽気となる。
マーケットの会場は、日陰にいないと耐えられない暑さだ。積極的に日向の道を歩く人は、日焼けで顔が真っ赤になっている。
春の陽射しを待ち侘びた人たちも、さすがに店の屋根の下や木陰を選んで歩いている。水分をしっかり摂り、休まないと危険な暑さだ。
買い物を済ませ、このマーケット独特の窯焼きピザ(生地が雑穀入りでドイツ風)やポテトなどを楽しみ、会場を出る。
暑いし疲れたので、会場入り口のレストランで一休みしてから帰ることにする。会場内にはあまり座る場所がない為、いつもこのレストランの外のテーブル席は大賑わいとなっている。
パラソルの下のベンチ席は相席が当たり前となっていて、向かい合わせで8人ずつくらいは座れるが、ぎゅうぎゅうの満席。店の前のテーブルだけで100人は軽く超えている。
しかし、通路を挟んでレストランの壁の前に置かれたベンチの席だけ空いていた。夫と並んで座る。犬も連れているし、そこは我が家にとっては座りやすく一番ありがたい。
ホッとして冷たい飲み物で乾杯する🍻(車なのでノンアルコール)
風が通って心地よく、しばらく通路を挟んだテーブルの人々を眺めながら一休み。
この店の冷たい飲み物を求めて、人が次々やって来るが、眺めていると、一旦座った人は長い時間のんびりするので、席の回転率が悪い(^◇^;)。お喋りが弾み、皆楽しそうだ。
我々がいる間に帰った人は、僅か2組。その2組目の人は、私から数メートル離れた位置に座っていた、民族衣装を着たお爺さん二人。『とてもお洒落』と思って眺めていたら、お爺さんは立ち上がる時、連れていたチワワを抱き上げた為に、手元が見えなかったようだった。テーブルから何か落ちた。
夫と私だけが通路を挟んだ側に座って、そちらを向いていたので、たまたま見えたのだった。夫はチキンを切り分けている最中だったので、それを見ていたのは私だけ。
犬を抱っこしたまま、小走りでお爺さんのテーブルまで行って、「ちょっと待っててください」と声を掛けた。
お爺さんが落とした物は銀色のタバコケースだった。両開きで、落ちた拍子に蓋が開いてしまい、何本かタバコが下に落ちている。
拾ってテーブルに置いて、どうぞ、と。
お爺さんは、何度も何度もお礼を言って帰って行った。
お爺さんは、民族衣装が小慣れた着こなしでしっくり似合って、タバコケースも薄くてとてもお洒落だった。
初めて見たのだけれど、蓋を開けて両側にタバコを並べて、黒いゴムで固定するようになっていた。
ああしてタバコをケースに詰め替えて持ち歩く人もいるのだと知り、それもまたお洒落ね、と夫に話す。
夫はチキンを切り分けている最中、急に立ち上がって走り出した私に驚いたようだったが、
「良いことをしたね♪」と話していた。
我々も大ジョッキを飲み干し(私のりんごジュースも大ジョッキで出される)、帰途につく。長い林の中の坂道を途中で二度休み、なんとか上り、車に到着。
ドアを開けて、来る時にスマホを置いていた位置を見ると、おや?ない。下にも隙間にも落ちていない!!!😱
忘れたと思ったのは勘違いで、バックには入れたのだ! 車から坂道の下のレストランの前、栃の木を眺めた場所までの間で落としたとしか考えられない。なぜ落としたのか、何も思いつかない‥‥
ガラケー、スマホを使い、長い年月が経ったけれど、その間一度も紛失したことはない。しばらく呆然としてしまった。
ふと見ると、まだ車内の隙間に落ちていると考えていた夫が、私のスマホに電話している。
「私、呼び出し音消しているから、鳴らしても駄目〜😭」
と言ったその時、夫が電話で挨拶していた。英語で話している。少し話してから、
「書くものちょうだい!」と言ってきた。ペンとメモを渡すと電話の相手の住所を確認している。
まさか? そのまさかだった✨✨✨✨✨✨
電話に出た相手は警察の人。私が落としたスマホは誰かに拾われ、近くの警察のオフィスに届けてもらえたのだった🥹✨
こんなことって‥。先程まで車に置いてきたと思っていたので、大慌てしたのは車に戻ってからの2分くらい。
あっという間の解決だった!
念の為に私のスマホに夫が電話してくれなかったら、もっと時間はかかったはずなので、夫にも感謝🙇♀️
音を消しているのだから、鳴らしても無駄だと言っていることをスルーしてくれた馬耳東風ぶりにも感謝。
落としたことに気づいていなかったのだから、もし栃の木のところから車に取りに戻っていたら、車内にないことに気づいて、マーケットどころではなかっただろう。
既に拾われた後だったかもしれないので、道の途中のどこにもなくて、パニックになっていた筈だ😱
スマホがしばらくの間手元になくても、まあいいや、と思ったからこそ、買い物をしたり食べたり、呑気に過ごせていた私💦
指示された警察のオフィスは、ナビによるとすぐ近くで4分ほど。車で少し進んで、後は歩くよう案内された。また坂の下(^◇^;)
丁度車が停められたので、夫が取りに行ってくれることになった。
数分でスマホを手にした夫が戻って来た。教会に行く途中の道に落ちていたそうだ。
拾ってくれた人は、我々と同じマーケットに行く途中の人だったらしい。その交番は近いとはいえ、行く途中の道からは少し先だ。地元の人でなければ、少しわかりにくい場所だと夫は言う。
届けてくれた人は、マーケットに行く前に、拾ってすぐに届けに行ってくれたのだ。感謝しかないm(_ _)m
夫は、拾ってくれた人にお礼を、と日本の発想で警察の人に話したが、「それは必要なし」と言われただけだそうだ。
夫が警察のオフィスまで坂道の往復をしたにも関わらず、ほんの数分で帰って来れたのは、私のIDカードを確認の為に提示して、既に作成されていた書類にサインと住所を書いただけだったからだそうだ。
拾ってくれた人が明かされないので、お礼のしようもない。空に向かってどこかの誰かに感謝する🙏
せめてこのご恩は、このドイツで、違う誰かに返さねば、と思う。
「落とし物をしたのに、日本みたいに戻って来るなんて! 」とまだ起こったことを信じられず、茫然としながら話す私。
「まあ、やっぱりドイツだからなんだろうね。ちゃんとしてるんだよ」と夫。
来る途中で、両側に車が停まっている為に狭くなっている道で交互通行をしなければいけないのに、停車すべき広い位置で待たずに入って来て、そして勿論謝りもしない車がいたことなど、もう夫は既に忘れている。
たまたま良い人に拾ってもらえた、改めてこの幸運を噛み締める(T ^ T)✨✨
「ママがお爺さんに親切にしたから、神様が助けてくれたんだよ」と夫。
いえいえ👋 順序が逆。
お爺さんのタバコケースを拾う2〜3時間前に、既に私は知らない人から親切にされていたのだから。
その大きな親切を知らないまま、小さな小さな親切をお返していた私、だったのだ。
—完—
【あとがきとお知らせ】
先日、次回予告は《ウィーンの旅二日目》と書きましたが、本日こんなことがあった為、どうしてもこちらを先に書きたくなりました。あしからず🙇♀️
戻って来たスマホは、気づいたらロックが解除されていました。呼び出し音やタップする時の音も鳴る、初期設定に近い状態。
ロック解除したのは、落とし主が探す為に電話をして来た時、呼び出し音がちゃんと鳴るようにしておく為? 落とし主の情報を確認する為?
その点は、夫が警察で聞いてこなかったので謎のままです。
[警察は ロック解除の 知識あり]と五七五で呟く私でした。
#これ誰にお礼言ったらいいですか
#エッセイ部門
#消したくない大切な思い出
#オールカテゴリ部門
#ドイツ
