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オーストリア、イタリア、スイス山岳地帯の旅 こぼれ話③ 美と叡智の遺産〜スイス🇨🇭ザングト・ガレン 大聖堂と修道院図書館〜

 昔々、7世紀の初めのこと、アイルランドの修道僧コロムバンが仲間12人と伝道の旅を続けていた。しかし旅は困難を極め、辿り着いたボーデン湖畔の街で、とうとう二人だけになってしまった。

 コロムバンはコンスタンツに向かい、もう一人のガルスは、そこから少し離れた小高い山あいの地に向かい、小さな僧院を建てた。その僧院が、ザングト・ガレンの起源である。


 コロムバンが辿り着いたコンスタンツの街の様子は、こぼれ話②でどうぞ。


 
⚫︎聖ガルスSt.Gallusが由来の街、ザングト・ガレン

 駅前周辺は、古い建物と近代的な建物が混在する。駅を背にして、静かな佇まいの街を進む。
 細い小路をしばらく歩くと、旧市街に出る。木骨造りの家も残り、特徴的な出窓が目を引く。




 旧市街は、南端の大聖堂から丸く広がっている。この旧市街を、すぐ近くにあるケーブルカーで、高台に上がって見るのも楽しい。



大聖堂


 街のシンボルであるこの大聖堂、旧修道院、修道院図書館は隣り合って並んでいる。
 大聖堂の隣のコの字型は旧修道院であり、大聖堂と共に世界遺産登録されている。



 まず大聖堂から。
 後期バロック様式。1755〜1767年に建立された。ベネディクト派の教会である。
    *大聖堂‥‥司教が取り仕切る教会のこと


 これまでに様々な国で、様々な教会、大聖堂を見学してきた。
 王や教会の権威を表す、圧倒されるような豪華絢爛な大聖堂を眺めてきた。またバチカンから、マリア終焉の地と認定された聖地で、全てを削ぎ落としたような簡素な教会も観てきた(トルコ /エフェソス近郊の『聖母マリアの家』)。

 国により、また支配者により、時代により、教会は宗派や政治の影響を受けながら、様々な形態へと変容を遂げてきた。
 
 旅の途中に寄る教会は、夏は冷んやりと涼しく、また冬は寒さを一時忘れさせてくれる。
 神の世界を表す高い空間に圧倒され、キリスト教徒以外の者をも、静寂の中に受け入れてくれる。


 黄金に煌めく彫刻に覆い尽くされた教会、静謐な白で統一された教会、また天井に届くほどの大窓のステンドグラスの教会、全ての壁を埋め尽くす宗教画の数々を有する教会、いずれも荘厳な空気に満ちていた。


 この大聖堂は、そうしたこれまで観てきた教会のイメージとはまた一味違ったもので、足を踏み入れた途端、柔らかな色彩に目を奪われ、幸福感に包まれるようであった。



 このザングト・ガレンの大聖堂は、内部の装飾の豊かな色彩の中でも、特にレースのように繊細な、モスグリーンの優美な色合いの彫刻が目を引く。
 
 天井画や柱の装飾を縁取る、優しいグリーンの美しさ、教会内部では、こうした温かみのあるグリーンは、滅多に目にすることのない色彩だ。



 また、内陣の祭壇の彫刻は、これほど見事なものは観たことがない。これまで観てきた教会の中で最も繊細で、優美な華やかさに溢れている。
 中央の部分の奥行きと、天井画の連なりは、大変珍しい構造で、永遠の世界を想像させる。


内陣の前には柵が設けられている



 しばらく座って、その空間を味わい尽くす。こんなに美しいなんて。この街に住む人々が羨ましい限りだ。


内陣の天井部 非常に珍しい造り


聖堂後部


 最も好きな教会を挙げろと問われれば、荘厳な外観を持つ幾つかの聖堂がまず思い浮かぶ。そして、内部に関しては、明らかにこの大聖堂が間違いなく私の中でトップだ。

 スイス、ザングト・ガレン、忘れられない街となった。
 




⚫︎修道院図書館
 大聖堂に感激して、ぼんやりと外に出てみると、夫は図書館の入り口がわからずにソワソワしていた。
 他でも教会関係の博物館などは、仰々しい入り口が造られていないことも多い。建物入り口に表示されていないこともある。修道院は、尚更その傾向がある。




 図書館の入り口がわからなくて、ぐるりと建物を回り、内部の庭園の辺りをうろついた末、やはり元の位置の辺りではないかと検討をつけて戻ると、やっと発見した。他の観光客が出てきてくれたからだ。



 確かに他の入口よりは豪華なドアであったが、かといって観光客を受け入れる為の入り口とも思えなかった。

 内部に入り、上の階へ。受付で写真撮影可であることを確認し、ガイドの女性から、入館にあたっての注意を聞く。
 蔵書保護の為、埃を持ち込まないように、靴の上から、準備された大きなスリッパを履く。歩き方は摺り足で、静かに歩くように注意を受ける。

 図書館に入ると、目に飛び込んできたのは、優美なロココ様式の天井画と、見事な書棚、曲線を描く2階の手すりである。
 


 観光客は静かに見学しているが、入った瞬間、全員が上を見上げて、感嘆の溜息を漏らす。
 



 外国の映画の世界で何回か観ていた、天井まである書架、古い書物が並ぶセピアの世界、そうした記憶が吹っ飛び、目の前のリアルな内部の様式と、書物の存在感に圧倒されて、上を見上げたまま、しばらく動けずにいた。


 蔵書は10万冊を超えるという。修道院の全盛期時代の威光を感じさせる。
 重厚な造りの本棚に1階、2階部分も天井までびっしりと並べられている。
 本は金網でガードされており、手を触れることはできない。
 何ヶ所かショーケースが置かれ、その中に一部が展示されている。
 



 蔵書の中には、中世の写本やグータンブルク時代に印刷されたものなど、数多くの歴史的文化遺産と言える、貴重な書物が含まれているとのことであった。



 書棚の美しさだけをとっても、時間を忘れるくらいの感動である上に、上を見上げれば、華やかな天井画と装飾に夢見心地である。
 いつまでも、その場を離れる気にはなれなかった。



 ここが、時代の隆盛を極めた人物の所有などではなく、修道院の図書館であること、それは、到底現代人には理解の及ばない、遠い昔のキリスト教全盛期の威光というものの一端を、我々に示してくれていたのだった。

 

                —了—




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