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【その英単語、ワインでは別の顔 #1】ワイン英語、知っている単語ほど要注意 ーービジネス・金融編

ワインを英語を学び始めて、最初につまずいた単語は must でした。

WSETの教科書を開くと、manage the must という一文が出てきます。「マストを管理する」。学校英語の頭で読むと、「管理しなければならない?」と一瞬ひっかかりますが、ここでの must は助動詞ではなく名詞。ワインの世界では、ぶどうを搾った後の果汁を意味します。助動詞の must とは語源からして別物で、ラテン語の vinum mustum(新しいワイン)に由来する古い言葉です。

しかも厄介なことに、文中には助動詞の must も当然ながら登場します。つまり must manage the must(マストを管理しなければならない)という一文にも対応できないといけないわけです。

こういう単語が、ワインの世界には意外と多いのです。しかも面白いことに、その多くは「日常語と違う」だけではありません。金融、法務、医療、IT、製菓。それぞれの業界で使われている専門用語とまったく同じ顔をしてワイン用語の中に紛れ込んでいます。

私は帰国子女ではなく、日本で英語を学んできました。本業ではアメリカに2年ほど滞在し、現在も英語を日常的に使っています。法律やビジネス関係の英語には慣れているつもりですが、ワインの教科書を読むと、見慣れた英単語がまったく違う意味で現れ、頭が一瞬フリーズすることがあります。

ワイン英語の難しさは、おそらく次のような理由によるものです。

  • 栽培や醸造の用語は、そもそも日本語で読んでも難しい

  • 単語自体は知っていても、ワインの文脈だと特有の意味を持つものがある

  • 大学受験までは英語を勉強していても、酒の製造は入試素材になりにくく、接する機会自体が少ない

日本で手に入るワインの情報は、そもそも海外発のものが大半です。英語で元の情報に当たれるかどうかで、触れられる情報の鮮度・質・量は大きく変わってきます。ワインエキスパートを取得し、ある程度知識がある状態でWSET Level 2を英語で学び始めた私でも、最初は正直かなり苦労しました。だからこそ、これは知っておくと役に立つかもしれない、と思うワインの英単語・英語表現を、業界別に紹介してみたいと思います。

① ビジネスの顔をした単語たち

reduction ── 削減ではなく、還元臭

ビジネスシーンにおける reduction は、コスト削減や人員削減の「削減」です。化学では酸化(oxidation)の対義語としての「還元」を指します。ワインのテイスティング用語としての reduction は後者の系譜で、酸素不足の環境で生じる硫黄化合物由来の好ましくない香り、いわゆる還元臭を意味します。ゆで卵や玉ねぎ、マッチを擦ったような匂いと形容されることが多いです。

試飲コメントに signs of reduction(還元臭の兆候)とあれば、それは経費節減の気配ではなく、グラスを回して空気に触れさせれば飛ぶかもしれない、硫黄由来の香りの話です。

training ── 研修ではなく、ブドウ樹の仕立て

ビジネスシーンにおける training は、新人研修や人材育成など「研修」の意味で使われます。一方ブドウ栽培における training は、樹の枝をワイヤーや支柱に沿わせて樹形を作る「仕立て」を意味します。training system(仕立て方式)には、ギヨ、コルドンといった伝統的な型が各種あり、気候や機械化の都合に合わせて選ばれます。新入社員も新梢も、伸びる方向を導くという点は共通しているのかもしれません。

② 金融の顔をした単語たち

yield ── 利回りではなく、収量

金融の世界で yield といえば利回りのことです。 債券利回り、配当利回り。製造業なら歩留まりを指します。ところがワインの世界では、単位面積あたりのブドウの収穫量を意味します。ヘクタールあたりのヘクトリットル数(hL/ha)で表され、たとえばボルドーの上級AOCでは「最大収量」が法律で定められています。

面白いのは、金融の世界ではyieldは高いほど歓迎されるのに、ワインの世界では必ずしもそうではないという点です。収量を絞るほど、ブドウ一粒あたりの養分が凝縮され、味わいの濃さや品質が高まるとされています。高利回りを求める投資家と、低収量で高品質を誇る醸造家。同じ単語の目指す方向が正反対なのが興味深いです。

hedging ── リスクヘッジではなく、夏の刈り込み

金融の hedge はリスクの回避策ですが、ワイン畑の hedging は、夏に伸びすぎたブドウの新梢の先端を刈り揃える作業を指します。垣根仕立ての畑がまるで生け垣(hedge)のように整然と刈り込まれることからきています。金融のヘッジも元をたどれば「生け垣で囲う」が原義ですから、両者は同じ祖先を持つ兄弟が別の業界に就職したようなものです。

次回は、法律・医療・ITの顔をした単語たちをご紹介します。



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