創作大賞受賞者が意識している「書き出し」以前に大事なこと
創作大賞2026に向けたトークイベント「物語のつかみかた」は、現地レポも、拙記事含めたスペース感想も賑わっているようでした。
本記事は、物語は「書き出し」が大事というのはよく分かったけれど、じゃあ具体的にはどうすれば良いの? について個人的な見解を少し書いてみたものです。 もとい。書いてみたところ、「書き出し」以前に大事なことが結構あるな? と思い直してタイトルを変えたまとめです。
一応私は創作大賞の受賞経験者なので、日ごろどういうことを考えて執筆しているか、には多少の需要があるかもしれません。先週アップした記事も、戸惑うくらい読んでいただけているようですしね。
主に小説家になろう・カクヨム等での活動を通して得た知見なので、note・Talesは事情が異なるかもしれませんが「自作を読者や選考者にどう見せるか」「自分が信じる面白さをどう伝えるか」という意識はどの場所でも通じるものだと思います。
タイトルに関わる「書き出し以前に大事なこと」は後半の有料パートに記述しますが、無料パートも約4,000字とそこそこ長くなったので、試し読みには十分なボリュームかと思います。
無料パート
魅力的な書き出しに必要なこと
私が思う「魅力的な書き出し」に必要な情報をもう少し具体的に箇条書きしてみます。
・背景となる世界観を提示
・魅力的な・応援したくなる主人公を見せる(性格、能力、動機など)
・脇にも良キャラがいて人間関係が窺えるとなお良し。
・物語のジャンル・楽しみ方を提示する。(復讐、溺愛、スローライフ、恐怖体験、謎解きetc…)
・1話のラストで「次が気になる」フックがあるとモアベター。
これを満たすとかなり「強い」書き出しになると思います。そう簡単にできたら苦労しませんね。
さらなる具体例としてはマンガ「ONE PIECE」の1話です。2026年現在でもお手本として真っ先に思いつく、本当にすごい作品ですよ……。
世界観→「大海賊時代」。冒険・乱世の雰囲気に、史実の「大航海時代」のイメージで「競争」「熱狂」のニュアンスもパッと伝わる。分かりやすい。
主人公の動機→大目的「海賊王になる」中目的「シャンクスのような男になる」当面の目的「海に出て仲間を集める」が一直線に結ばれていて分かりやすく感情移入しやすい。
主人公の能力→「泳げない」「ゴム人間」という「どうするの?」な制約からしっかり戦える〆とヒキを見せる→「この主人公は何をやってくれるんだろう」という期待に繋がる
魅力的な脇キャラ→シャンクス一味は言わずもがな、故郷の村人も。
ということで、1話で世界観を突きつけ、主人公周りのキャラを立て、能力や性格で活躍への期待を持たせ、広い海への出発! 冒険の始まり! で次話につなぐ、という非常に魅力的な第1話でした。これくらいの情報量とスピード感とエモさが常に計算で出せると良いですよね……。
ほか、近年(?)のジャンプ作品だと「逃げ上手の若君」の第1話が印象的だったでしょうか。
「鎌倉幕府が滅びて足利尊氏が室町幕府を興す」という皆が知ってる史実をベースに、「でもこのお話の主人公は違う子です」という捻り・意外性で興味を持たせ、「戦いは苦手だけど逃げ隠れは大好きで大得意」という尖った主人公像を打ち出して――からの鎌倉幕府滅亡&一族郎党皆殺しという衝撃の(皆知ってるんですが)展開で「逃げ上手」が戦いと報復の手段として輝く……かも!? という。起伏と意外性と期待に満ちた第1話でした。
ジャンプに学ぼう
余談気味ですが、「書き出し」「スタートダッシュ」の研究にジャンプの新連載の研究は結構有効ではないかと思っています。「読者のアンケートによって連載継続/打ち切りが決まる」という雑誌の性質上、どの作品も第1話の魅せ方には細心の注意を払い、技巧を凝らしているはずですから。
その中でも明暗は分かれてしまうものであって(何度「私は好きなんだけどなあ」と思ったことか)、推し作品の掲載順推移を追いながら、面白いと思った理由、惜しいと思った部分、世間の評判との感想のズレなどを分析するのも創作者にとっては糧になりそうです。
もちろん、マンガ雑誌も、雑誌に限らない連載形式も色々あるのですが、何と言ってもジャンプは圧倒的発行部数を誇ります。その分読者も多く、リアルタイムの感想も豊富に摂取できるのはとても大きい。
自分には刺さった作品の評判がそうでもなかったり、その逆もあったり、思いもよらぬところを突っ込まれていたり――「読者はこんなに細かく見るのか」と思えば襟を正すし、「すべての読者に好かれることは無理!」という開き直りの境地にも至れるかもしれません。
趣味と実益を兼ねてのジャンプ購読、お勧めです。
物語の方向性を示す
ちなみに、ジャンプ読者勢がしばしば言及し、私としても気になることが多いポイントは「で、これはどういう話なの?」ですね。
噂によると、ジャンプの連載会議では3話までのネームを提出するというし、誰しも長期連載を目指してそれなりの構想を練った上で新連載に臨むと思うのですが、それでも「ここからどう話が転がるか分からない」と感じることが多々あるあたり、やはり「書き出し」は難しいのでしょう。冒頭で「物語の楽しみ方の方向性を提示する」を挙げたのもこの辺りが理由です。
どの作品がどう、とは名前を出すのは憚られますし、上述の通り読者によって感想も人それぞれなのですが。例えば
・大目標が提示されない。ゆえに作品の方向性・期待を持つべきジャンル傾向が分かりづらい
・大目標は提示されるが、漠然としていて直近の「次の一手」「主人公の活躍」が期待・想像しづらい
・大目標が奇抜(過ぎ)で感情移入しづらい。楽しみ方が分からない
……といった作品は「来週が楽しみ!」(Web投稿作品なら「次話もクリック!」)とはなりづらい点かもしれません。
もちろん、「何だか分からないけど面白い」ということはあり得るし(最近のジャンプ作品だと、「ピングポング」のトンチキさが好きだったのですが)、小説なら文章の巧みさで押し切ることも可能なのですが。読者に予想と期待をさせられるかどうか、という観点で自作のプロットや書き出しを見てみることは有用だと思います。
「自分ではすごく面白いと思ったものが読者にはそうでもないかもしれない」というとても怖い事態はままあって、だからこそまた怖いのですが。意識してみるだけでも変わるのではないかと。
ポエムプロローグがリスキーな理由
ここまで書くと、Web投稿作品においていわゆる「ポエム調のプロローグ」が禁忌とされることが多い理由も分かってくるのではないでしょうか。
実のところ、書き方次第(面白ければ何でもあり)だし、自分の作品の書き出しは自分の好きなようにして良いと思うのですが、読者に物語の魅力が伝わるかどうかについては冷静に考えたほうが良いのではないか……と思います。
主人公が誰で、どこにいて何をしているか。どのような世界観か。何が起きて、どのようなカタルシスを楽しみにすべき物語か――ポエムプロローグでは、そのような情報は読者に提示しづらいことが多いのは、留意しておくべきかと思います。
(例えば伝承風・サーガ調の詩歌を作ることで世界観の演出とする、といった試みは、物語の方向性を提示することでそのジャンルを好む読者をひきつけるかもしれません。なので絶対の禁忌ではないとは思いますが)(いっぽうで、「主人公のモノローグで感情だけを並べたようなポエム」は、「どなたですか?」という感想になりがち……かもしれません)
なお、「ポエムプロローグ」が難しいという、より切実な理由は後半の有料パートに書いたので、良かったら課金してください。
それだけが正義ではないけれど
以上に挙げたことも、下記に続ける「避けたほうが良いこと」も、反証となる古典・有名作品・人気作品はたくさんあるのは承知しています。
が、
・娯楽が溢れ、読者の限られた時間的・経済的・興味関心的リソースを取り合わなければならない現代において
・装丁やレーベル・出版社の力を借りることもできないWeb投稿作品をクリックしてくれた奇特な読者が
・よく知らない素人(であることが多い)作者の、何も知らない作品に付き合ってくれる時間、割いてくれる忍耐
……は非常に限られていると思うので、読者の興味を瞬時に引きつけて離さない情報の出し方や物語の展開のし方・ヒキ方を考えることも重要であろうと思います。
基本的にはラストのカタルシスのために読むミステリ、じわじわ怖くなることが多いホラーなど、ジャンルによって読者の許容度も大きく異なるでしょうが(Web投稿サイトでのミステリの厳しさを言うなら、未完結作品は読まれづらい、が最大かも)、それでも読者が読み続けたくなる工夫を意識することは必要であろうと思います。目を引く事件や謎、魅力的なキャラクターなど……メインの事件以外に、人間関係等を物語の伏流水にすることもあろうかと思います。
冒頭記事でレポしたトークイベント「物語のつかみかた」でも指摘されていた通り「後から面白くなるのは当たり前」であって、「最初から面白くないと読みたくならない」のですから。
あと、公募でよくある12万字程度の規定文字数に収めようとすると、かなりタイトなプロットと文字数のコントロールをする必要があるので、展開のスピーディーさは意識せざるを得ない、という事情もあります。12万字くらいの小説の書き方については、以前書いた記事がなぜか結構読んでいただけているので、ご参考になるかもしれません。
基本的には次々事件が起きて頻繁にヒキやフックがあるほうが面白いと感じてもらいやすいので、また、展開に起伏の少ない作品は読者をひきつけるハードルが上がるので、思っている以上のスピード感で物語を進める必要があるのではないかと思います。
なお、私はこの精神で「冒頭からアクセル全開」を意識した結果、書籍化にあたって「ちょっと唐突なのでプロローグを入れましょうか(要約)」になったことが複数あります。なので、Web連載と一冊の書籍では求められるスピード感、読者の忍耐力も違ってくるのでしょう。ともあれ、書籍化にはこぎつけているので、後で編集さんと相談すれば良いと思います。
有料パート
無料パートの記述は、概念寄りのお話になりました。何となく分かったような気にはなるかと思いますが、「自分の作品はできているのか?」「具体的にはどうすれば良いのか?」が気になってくるところではないでしょうか。
そこで、以下はさらに具体的に、私が実際にやった失敗、色々読んでいて「もったいない……」と思う事例などを挙げてみます。
自分でもやったことだけに、やりたくなる気持ちも、意図があるのも分かるのですが! だからこそやってしまいがちでもあるのでしょうし、投稿前のチェックリストとしても機能するかと思います。
ちなみに、以下の内容は商業作品の執筆でも心がけていることです。4月15日発売予定の新刊「蠱毒の恋姫」の構想に際しても意識したことなので、書籍と併せてお読みいただくとより腑に落ちるかもしれません!(ダイマ)
ここから先は
¥ 480
よろしければ応援お願いいたします。
