七福神日誌69
十二月三十日。
九時起床。
今日は串かつ七福神、年内最後の営業。
各店、社員もフルメンバーでのぞむ。
七福神第四ビル本店は揚場がシロさんとミツさんの二交代に、キヨさんが仕込み、フユさんが中番で仕込みとホールのフォロー。
七福神第ニビル店の揚場はサワさん、ヨコちゃんの二交代で、母が仕込み、妻がラストまでホールのフォローに入る。
七福神バルチカ店は、朝番にカズさん、中番にグチさん、夜番に俺とニシさんで、仕込みはユウさんとムラさんに任せる。他、ホールに学生スタッフが昼夜三名ずつ。
そして社長が終日全店をパトロールして回る予定だ。
昼飯を食って、バルチカ店に出勤。
先に駐車場とゴミ捨て場、JRの事務所に顔を出し、年末の挨拶をすませる。
店にあがると満席。注文が宙を飛び交い、グチさんとカズさんが入れ替わり立ち替わり揚場を回している。
キッチンではユウさんが残った串の仕込みを鬼気迫る面持ちで仕上げていき、その横でムラさんがバナナチップをつまみ食いしていた。
絶え間なくベルが鳴り、ホールのナミちゃん、アイちゃん、ツツハちゃんが走り回る。ニシさんもやってくる。
揚場を俺とニシさんで引き継ぎ、グチさんとカズさんには年越しの複雑な発注をお願いする。
オーダーがどんどん通る。ニシさんがぱっぱとネタをセットしてくれて、俺は夢中で揚げていく。雨矢で押し勝つ、というのが年末の我々串かつ屋の心構えで、そのために朝から何千本と仕込んでもらった串が、一瞬にして何十、何百と出ていって、根元まで食われ怒濤のように帰ってくる。
酒もよく出る。テーブルのお客がグラスを割る。ビール樽がきれる。サーバーのガスもきれる。予約の電話が鳴り止まない。ニシさんを仕込みのフォローにおくり、ユウさんと二人で一気に仕上げてもらう。その後ろでムラさんがバナナチップを食べている。洗い物が溜まっていく。
せわしい中にも静を見出し、心は空であること。ちょっと目を細めて、ちょっと腹を出して構えろ。一刀入れる時に必ず二足歩め。勿体ないから左手も使え。
五輪書の二天一流の教えにそうあるので、俺は今日も抜かりなく実践で、焦らず、じっと細目で油を見据え、一つネタを投げては二歩足踏みし、絶えず腹を突っ張り、簡単なネタは左手で揚げてみるなど、この調子で楽しくやっていたが、様子がおかしいと思ったのか、グチさんが発注表を手に飛んできて店長大丈夫ですか、具合が悪いですかという。
みんなが心配して店長なにか食べてこいというので、ニシさんに揚場を託して休憩をもらう。
バックヤードの従業員室で自販機のメロンパンを買って食べる。店に戻ると、発注が片付いてグチさんとカズさんもさらしを巻き直している。
そこからは代わる代わる四人で揚場を回し、たまに社長が現れてまかないの差し入れに寿司を持って来てくれたり、また現れて第四ビル本店や第二ビル店の営業状況を教えてくれたりしている間に気がつくと夜になり、お客さんもどんどん酔って歌う組も現れ、つられてその隣の卓も歌いだす、入店待ちの列は廊下を横切ってエスカレーターの方にまで伸びている。
遅がけに常連もたくさんやって来て、最後までにぎやかな営業だった。
閉店後、ニシさんと店の掃除をしていると妻が現れる。第二ビル店もずいぶん忙しかったらしい。
一緒にわが町に帰る。
二人ともくたくたで、風呂だけ入ってすぐに寝てしまった。
十二月三十一日。
十時起床。今日は七福神は全店お休み。
朝飯に妻がポップコーンを炒めてくれる。
十二時に梅田へ。
今日は大掃除で、すでに社長とミツ部長は朝から本店と第二ビル店に出ている。
俺と妻は昼からバルチカ店の掃除。つまみ食い用にモスでハンバーガーを買って向かう。
ビルに着くとまっくらで誰もいない。
どうやら午後に作業に入っているのはうちだけらしいので、気兼ねなく落語のCDをかけて掃除を始める。
古今亭志ん朝の芝浜を聞く。大晦日に酒を飲まねえという話。
まずはキッチン、食器や調理道具を洗い、冷蔵庫の中をアルコール清掃。ついで店内の照明や空調のフィルターを点検、水拭きして回る。フライヤーのこげもテコで削りとる。
その間に妻は床をモップで磨き、年明けに使う串の整理や、メニュー、ポップ類の整頓、壁の貼り紙を全て剥がしてテープ跡をシンナーできれいにするなど。
一度ハンバーガー休憩をはさみ、夕方まで作業。外がどんどん暗くなる。ふいに、カウンターでエプロンのシワを伸ばしていた妻が、夢になるといけねえ、夢になるといけねえといいだす。何かと思うと、CDが回ってまた芝浜がかかっている。
酒に飲まれると、せっかく良い事があっても全部夢だったことになってしまう気がする、だから酒はよそう、というような話で、大掃除を終えての帰り道、電車の中で妻に、今夜はお酒を飲みますかと聞かれて少し考えこんでしまう。
まあ飲むが、今年は良いことがたくさんあった。大事な思い出がひとつでも減るなら酒は金輪際やめとくかとそんな、やわな気が起きないこともない。
でも俺は、普段酒を飲むといっても下戸の酒好きで、ビール一口で真っ赤になって寝てしまうレベル。そんなやつが酒のバチをあてられてはたまらない。それは弱いものいじめじゃないか。好きに飲んでよし。
と、結論がでたところで、西宮につく。
家では義母が夕食の準備をしてくれていた。
義母の頂き物のおせちと妻の買ってきたおせち、おせち二個が今日の夕飯で、テーブルいっぱいにひろげられたおせちを見ながら、たしか去年もおせちは二個だった、ここでは毎年二個食べるのかなと思っていると、先に帰っていた社長がソファーで紅白を見ていて一緒に見ようという。
ビールや日本酒が出てきて、みんなで乾杯する。
俺も結局ビールを一本だけ飲んだが、やっぱりすぐに酔っ払って、一時間後には寝ていた。
