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color variation

色が見えすぎるのがいけないのかもしれない。
あなたにはこの壁が何色に見える?
私には、青や、赤や、黄色に見えていて、
そこに人や子供が立っている。
みんな顔は見えないけれど
それが人間の形をした幻覚だってことも私はとっくに知っている。

蛍光灯の色が、いつからこんなにもカラフルになってしまったのかわからないし
気付いた時には電気の椅子に座らされていたし
それが悪いことだとも思っていないし
自分が自分でない時があることもわかっているの

薬を飲み始めて、
色は失われて来て
それでも、一度見た色っていうのはそう簡単には覆せないの。

今度は本物の世界が偽物みたいに思えてパニックになって、これは違う世界だって
人に話しても、みんな冷たい目をしていたわ。
だから、私は、白と黒の世界が一番綺麗だと思っているの。

特に人の横顔は、
私のことを真正面から見る目とは明らかに違っていて、私のことを見ない、何かその人にしか見えないものを見ているようで、
だから、横顔のデッサンばかりしているのかもしれないね


明かりが灯った個室には、
葵さんが一人でポツンとベッドに腰掛けて
小さなスケッチブックに
ボールペンで淡々と絵を描いている。


床頭台のベッドライトは
橙色の優しい光で、絵を描く婦人を見守るように照らしていた。

深夜0時。
何気なくラウンドの最中に通りかかった
この部屋で
こんな話をしばらく聞いていた。

素敵な絵ですね
そんなことを言った。


あなたは絵を見る人?

えぇ、私は印象派とか、
少し抽象的な物しか見ないですね

そう、あなたは色が見えない人なのね

どういうことですか?

私にはね、色が見えすぎているの
だから、白と、黒の世界が一番美しいの。
色が見えない人は、
色を求めるの。あなたのようにね。

それは、良いことなんでしょうか?

さあね。
良いか、悪いかはわからないわ。
それは、誰にも決められないから。


それでも、色を見ようとするあなたが私には少し羨ましい気もしてる。
私は多くの色に支配されてきてしまったから。


葵さんは、神経難病を患い
つい最近まで精神科の医療保護入院を
されていた女性だ。


幻覚や、幻聴や、情緒が乱れることは
だいぶ減ってきたけれど
それでも、日中の彼女の話は支離滅裂で
意図を汲み取ることが容易ではない。


不思議なことに
深夜になると、こんなふうに穏やかに
自分の病気を冷静に分析して、
人の横顔をひたすらにデッサンしていて
その対象は、
すべて幻覚の中で見た人々だと言う。
実態のない人々は、
顔がなく、目も鼻も、口もないけれど、
それを幻覚として捉えることが可哀想で、
彼女が一番好きな横顔のデッサンに当てはめて
絵は完成していくらしい。

世界の
カラーバリエーションは、
残酷よね。
選びたい人もいるだろうけど
色に支配される私には、とても辛いわ。

隣に座っても良いですか?

私は葵さんの描いた横顔のデッサンを、
一枚一枚眺めた

深夜0時の病院で、
少々孤独を纏った女二人は
互いの見える色について話した。

全てが白だったら良いのに
全てが透明なら良いのに
全てに形がなければ良いのに

そうしたら、そこにいる人間みんな
ボケてしまって
私が見える人達の顔を描くこともなくなるのにね
あら、私ったらずっとなに言っているのかしらね
忙しいでしょ?
忘れてちょうだい

私は葵さんに促されるままに
おやすみなさいと告げて
部屋を出た。


翌朝また、朝食の時間に部屋を訪れると、
葵さんはいつもの葵さんに戻っていて
一人で空を眺めてぼんやりとしていて、
声をかけても、全く気がつかないふりをした。


人が見えている世界は
思ったよりも複雑で
それを理解されないことが多くて
病気の枠組みに入れてしまうことがあるけれど

見えている世界がもっと自由で
息苦しくならない程度の色を求めていけたら良いのにと思う。

葵さんの描く白と黒の横顔は皆、
凛としていて、葵さんが求める理想の
自分なんじゃないかとも思う。

そして、色を求めすぎるわたしには、
彼女の言葉が妙に心を痛めた。

あなたは色が見えない。
その通りなのかもしれない。
だから、綺麗な色を求めるのだろう。
それでも、
満たされないことはわかっているのに。

今夜は桜の木の下で
この葵さんの言葉達を残しておきたくて
つらつらと文章を書き出して
随分と長い花見をしてしまった。

私のとっておきの場所。

桜の花びらが肩に一枚だけとまり
そっと掌に乗せてゆっくりと歩いた。

人の見えているものを
感じる心は育てることはできるけれど
人が抱える孤独は
花びらのように散ってないものにされがちな世の中に、少しだけため息をついた。

モスキート エリの秘密の場所♡


色の話

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