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タツノオトシゴは、お父さんのお腹で育ちます

タツノオトシゴって、なんだか不思議な生き物である。
魚なのに、縦に泳ぐ。
顔は馬っぽい。
しっぽはクルクル巻く。
海の中にいるのに、どこかファンタジー感がある。

子どもの頃に初めて見たとき、
「これ、本当に実在するの?」 と思った人も多いのではないだろうか。
実際、だいぶ変わっている。

でも、タツノオトシゴの本当のすごさは、見た目ではない。
子育てである。
しかも、 お父さんが妊娠する。

いや、急に話がおかしくなった。
もう一度言う。 お父さんが妊娠する。

人間界なら、家族会議どころか、学会も開かれるレベルの話である。
ところがタツノオトシゴ界では、それがごく普通の日常なのだ。

まず、オスとメスは求愛ダンスを踊る。
海藻の間で寄り添いながら、ゆっくり泳ぐ。
Shall we dance? である。

そして仲良くなると、メスはオスのお腹にある育児嚢(いくじのう)に卵を預ける。
ここがすごい。 卵を産むのはメス。
でも、育てるのはオス。
役割分担がかなり独特である。

人間で言えば、 「では、子どもは私のお腹で育てておきますね」 と、お父さんが言い出すようなものだ。
たぶん周囲は二度聞きする。

しかしタツノオトシゴたちは、それをずっと昔からやっている。

オスのお腹には、赤ちゃん専用の育児室のような袋がある。
その中で卵は守られ、栄養や酸素を受け取りながら育っていく。
ほとんど、胎盤である。
つまりオスのお腹は、 保育園であり、 病院であり、 マンションでもある。 なかなか多機能だ。

そして、時が来る。 出産である。
ここでさらに驚く。

 オスはお腹を収縮させながら、赤ちゃんを外へ送り出す。
全身を震わせる。
踏ん張る。
押し出す。
もう完全に出産である。
お父さんなのに。

見ているこちらが、 「お疲れさまでした……」 と言いたくなる。

しかも生まれる赤ちゃんは、一匹や二匹ではない。
種類によっては、数百匹に及ぶこともある。
いや、急に大家族である。

もっとも、生まれた後は基本的に自立生活だ。
海は厳しい。
親がずっと守ってくれるわけではない。
だからたくさん生まれて、その中から成長していく。
それがタツノオトシゴたちの生き方なのである。

海藻につかまりながら、のんびり漂っているタツノオトシゴ。
一見すると、とても穏やかに見える。
でもそのお腹の中では、たくさんの命が育っている。
お父さんのお腹の中で。

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