見出し画像

ティラノサウルスはアロサウルスより人間に近い~恐竜の時間はズレている~

本稿のタイトルを見て、「何が? なぜ?」と思われた方もいるかもしれません。
実はティラノサウルスは、アロサウルスよりも人間の方に時間的に「近い」存在です。
一見すると不思議なこの事実から、恐竜の「時間感覚のズレ」を少し覗いてみたいと思います。

アロサウルスの生息年代は約1億5500万年前~1億4500万年前、ティラノサウルスは約7270万年前~6600万年前なので両者は最短でも7000万年生きていた時代が離れています。

一方、ティラノサウルスは現代より約6600万年前に絶滅したので、「ティラノサウルスから見れば、人間(現代)の方がアロサウルスより約400万年も時間的に近い存在」ということになります。
ほんの小ネタですが、感覚としては少し意外に感じられる話ではないでしょうか。

以前、プリオサウルスとモササウルスについて書いた際にも触れましたが、
「恐竜」と一口に言っても、その生息期間は約2億3000万年前〜6600万年前と、実に1億6000万年以上にも及びます。
あまりに悠大な時間のため、私たちの感覚はつい麻痺しがちで、「大昔の生き物はみんな同じ時代」と無意識に捉えてしまうことも少なくありません。

もちろん、アロサウルスがジュラ紀、ティラノサウルスが白亜紀の代表的な肉食恐竜であることはよく知られています。
かつては「アロサウルスが進化してティラノサウルスになった」と考えられていた時代もありましたが、現在では完全に別系統であることが分かっています。
そのため、この二種を同時代と誤解する人はさすがに多くはないでしょう。

しかし「ジュラ紀の恐竜」「白亜紀の恐竜」といったラベルだけで理解すると、イメージと実際の時間的距離の間にズレが生じてしまうことがあります。

例えば、かつての恐竜図鑑では、ティラノサウルスの上空をプテラノドンが飛んでいるイラストがよく見られました。
しかしプテラノドンの生息時期は約8300万年前〜7400万年前であり、ティラノサウルスとは完全に重なりません。
短く見積もっても100万年以上のズレがあるため、現実には同時に存在した可能性はない組み合わせです。

さて、分類上、アロサウルスはアロサウルス類、ティラノサウルスはコエルロサウルス類に属し、系統的には大きく異なります。

ジュラ紀から白亜紀にかけて、この両系統は長期間にわたり共存していました。
その間、基本的にはアロサウルス類が大型の頂点捕食者のニッチを占め、コエルロサウルス類は比較的小型の存在に留まっていました。

ところが、ここでひとつ興味深い問題が現れます。
広義のアロサウルス類(カルカロドントサウルスやギガノトサウルスなどを含む)は、遅くとも約9000万年前頃には姿を消します。
しかし、コエルロサウルス類が巨大化し、ティラノサウルスのような頂点捕食者として台頭するのは、それから1000万年以上後と考えられています。
この「空白の1000万年間」に、なぜ即座の置き換えが起こらなかったのか。実は、はっきりとした決定的説明は現時点でも存在していません。

海の世界でも、プリオサウルスからモササウルスへの交代には同様に時間がかかっています。
こちらは、後者の祖先がまだ海に適応しきっていなかったと考えられるため、進化に時間を要したことは理解しやすいでしょう。

しかしコエルロサウルス類の場合は事情が異なります。
彼らはすでに数千万年にわたり陸上で繁栄しており、一定の適応も果たしていました。
それにもかかわらず、空いた頂点捕食者のニッチへ「すぐには」進出しなかった――
この点は、進化の過程を考える上で非常に興味深い謎といえます。

いずれにせよ、古生物について調べていると、数千万年という単位が当たり前のように登場します。
そのスケールの大きさに触れていると、日常の時間感覚がどこか緩んでいくような不思議な感覚があります。

忙しい日々の中で、こうした悠久の時間に思いを馳せることは、少し気持ちを大らかにしてくれる――そんな効用もあるのかもしれません。
たまにはこういう視点で世界を眺めてみるのも、悪くないですね。

いいなと思ったら応援しよう!