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漱石「彼岸過迄」考察1 構成とあらすじ

なんでも島田に結ってたことがある」(「松本の話」・六)

(※ 著作権切れにより引用自由です。)

夏目漱石の小説「彼岸過迄」(ひがんすぎまで)、明治45年(1912年)連載。

この「彼岸過迄」、複数の章で構成されているが、それぞれ時間軸も、主人公的な存在も異なる。
なので非常にわかりにくい。

私も先日、十数年ぶりに読んでみたのだが途中で、「あれ?この話ってさっきの話よりも数年前のことか?」とわからなくなった。いまもよくわからない。

なので確認用のメモとして、まず構成とあらすじをここで記しておきます。


1、構成

以下、新潮文庫令和六年四月版にそって、各章題とその章数、ページ数を記載。
なお章題前のアラビア数字は私が勝手につけたもの。

・「彼岸過迄に就て」 5~8頁
・1「風呂の後」  計十二章     9~ 44頁
・2「停留所」   計三十六章 44~149頁
・3「報告」    計十四章   149~193頁
・4「雨の降る日」 計八章    193~218頁
・5「須永の話」  計三十五章  218~325頁
・6「松本の話」  計十二章   326~363頁
・「結末」 363~366頁

これらのうち、冒頭の「彼岸過迄に就て」と末尾の「結末」は、作者夏目漱石によるまえがき・あとがきのような文章である。

2、あらすじ

以下、各章のあらすじを私が勝手にまとめます。
なお、あくまで「登場人物の語りによれば」な内容が多く、作中世界における事実か否かは不明なものが多数ある。
そういうふうに、夏目漱石が書いているのだ。

2(1)「風呂の後」

時は明治四十年代。この章の季節は秋頃か。
田川 敬太郎(語り手は「敬太郎」と記載)は、おそらく25歳前後。東京の下宿の3階に居住。体格はよさげで体力もそれなりにある。
(後に、妹は既婚、田舎に母がおり小金持ちらしいことが示される。父や祖父母は死去?)

敬太郎は既に大学を卒業(後で法学部卒とわかる)しているが、就職が決まらず就活にも疲れている。昔から冒険や事件をやたらと夢想したがる傾向にある。

同じ下宿に、30代と思われる謎の男「森本」がいる。官営鉄道勤務らしい。
森本が言うには過去に北海道を野宿しながら測量していた等、突飛な体験をしており敬太郎は森本の話を聞くのが好きである。
しかし森本は失踪。家賃を滞納していたらしい。やがて敬太郎のもとに森本からの手紙が。中国の大連で仕事している、下宿に置いたままのステッキは敬太郎にあげると。
なお敬太郎は森本の下の名を忘れたとしている。

・「わかるんですかは少し恐れ入りましたね。
 (六・森本が田川敬太郎に)

2(2)「停留所」

敬太郎の友人に、「須永 市蔵」(すなが いちぞう)がいる。語り手は「須永」と表記。
大学法学部卒。父は軍の会計官でだいぶ前に死去しているが、家も親族も金持ち。敬太郎とは異なり紹介でいくらでも就職の口があるが本人が動かず、無職でいる。自宅で母や下女らと生活。

須永の血のつながりのない叔父(母の妹の夫)に、「田口 要作」(たぐち ようさく)がいる。語り手は「田口」と表記。
実業界に関りが強いらしい。敬太郎は就職のため須永から田口を紹介してもらう。季節は冬になっている。

田口宅を訪問した敬太郎の「試しに使ってみて下さい」(二十)を受け、田口はある男の「電車を降りてから二時間以内の行動を探偵して報知」(二十一)を、敬太郎に求める。
敬太郎は森本のステッキを手に探偵に出る。対象とおぼしき男は、駅で男をずっと待っていたらしい若い女と会い親し気に会話をし、店で食事をし、別れた。

・「しかし身体の発育が尋常より遥かに好いからことによれば年は存外取っていないのかも知れない。」
 
(二十九・探偵ついでに女を見ている田川敬太郎の内心)

2(3)「報告」

敬太郎は田口に探偵の結果を報告する。対象だった男は「松本 恒三」(つねぞう・語り手は「松本」と表記)。田口の紹介で敬太郎は松本と直接会うことに。

すぐ翌日に敬太郎は松本宅を訪ねるが、を理由に面会を断られてしまう。

そのまたすぐ翌日に敬太郎は、ステッキを手に松本宅を再訪し、面会。
そこで松本から、田口や須永市蔵と松本が親族であることや、敬太郎が探偵した際に一緒に食事した女性は、田口の娘(松本から見て姪=姉夫婦の娘)だと教えられる。
(松本に姉が二人。上の姉が須永市蔵の母にあたる。下の姉が田口要作の妻。つまり敬太郎が探偵したのは血のつながりのある叔父と姪との会合)

・「肉体上の関係はあるかもしれませんが、無いかもわかりません。」
 
(五・田川敬太郎が探偵した男女について田口要作に)

2(4)「雨の降る日」

敬太郎は田口のおかげで就職できた模様。
探偵した際に見た女は、「田口 千代子」(語り手は「千代子」と表記)。妹に「田口 百代子」(ももよこ・語り手は「百代子」と表記)がいる。

年が明けて梅の季節、敬太郎が須永の家に行くと千代子もいた(須永からみて母方の従妹にあたる)。千代子は敬太郎を「田川さん」と呼ぶ。
三人で会話しているさなか、敬太郎は千代子から、松本が何故の日の来客を断るのかを教えてもらう。

(以下は千代子→田川敬太郎への語り)
・数年前?(明記なし)の11月、千代子が松本宅を訪れていた。松本夫婦には子が五人おり、一番下は当時二歳の「宵子」(よいこ)。やがてが降り出した。
・しかし千代子がお粥を宵子に食べさせた直後、宵子は亡くなってしまう(死因の明記なし)。以来松本は雨の日の来客が嫌になったと。
・ちなみに松本家だが、妻は「御仙」(おせん)、当時十三歳の長女「咲子」、当時九歳の女児「重子」(しげこ)、当時七歳の男児「嘉吉」かきち)、宵子の子守りをしていた下女「」。

・「まだ子供を持った事がないから、親子の情愛がよく解らないんだよ」
 
(七・火葬場で須永市蔵が田口千代子に)

2(5)「須永の話」

敬太郎は前章:「雨の降る日」で千代子から宵子の話を聞くよりも2、3日前に、田口家で千代子が結婚するらしい話を聞いていた(須永以外の男と)。それについてステッキを持って須永宅に聞きに行くと、須永市蔵は長い長い話を、敬太郎に向けて語り出した。

(以下は須永市蔵→田川敬太郎への語り)
・須永には「妙ちゃん」(たえちゃん)という妹がいたが、小さい頃にジフテリアで亡くなった。妹からは「兄さん」ではなく「市蔵ちゃん」と呼ばれていた。
・生前の須永の父が、まだ成功していなかった田口要作を将来の見込みがあるとして、妻の妹との縁談を成立させた。
・田口家に千代子が生まれた際、須永の母は「この子を市蔵の嫁にくれまいか」と妹夫妻(田口夫妻)に頼んだ。ちなみに千代子・百代子の下に「田口吾一」(ごいち)という男児がいる。

・須永が大学三年から四年にあがる夏休み、千代子・百代子から、鎌倉に避暑に来ているから須永母と一緒に来いとの手紙がくる。須永母子が鎌倉に着くととそこには田口家にまざって「高木」という若いモテそうな男がおり、千代子を「千代ちゃん」と呼び親し気にしていた。
・2日後に須永は母を残し一人早めに鎌倉から帰る。自宅で須永は元からいた「」(さく)という十九歳の小間使いの女を急に気に入り出す。
・やがて千代子が須永母を連れて二人だけで帰京。須永宅に泊まり、髪結いに島田に結ってもらう。千代子は須永に言う
なぜ愛してもいず、細君にもしようと思っていないあたしに対して……(略)なぜ嫉妬なさるんです」(三十五)

「あなたそれほど高木さんの事が気になるの」
 彼女はこう云って、僕が両手で耳を抑えたいくらいな高笑いをした

 (三十四・田口千代子が須永市蔵に)

2(6)「松本の話」

(松本恒三が、田川敬太郎に向けて?話をしているらしきていで書かれている。後に「結末」で、敬太郎が松本に須永市蔵の話を聞きに行ったとわかる。)

(以下は松本恒三→田川敬太郎への語り)
・須永市蔵の大学卒業試験直前、松本宅で須永と松本はシリアスな話になり、松本は須永に話す。
・須永市蔵は母(=松本姉)の実の子ではなく、須永父と御弓(おゆみ)という小間使いとの間に出来た子。生まれた市蔵を須永母がすぐ引き取って我が子として育てて来た。その後御弓はすぐ死去。病死?
・松本の御弓に対する記憶は、「何でも島田に結ってた事がある」(六)ぐらい。
・やがて卒業試験を終えた須永は一人で関西方面に旅行する。松本宛に数通手紙を書いて出していた。
・松本はそれらの手紙をいくつか保管しており、田川敬太郎へ見せる。

・「御母さんが是非千代ちゃんを貰えというのも、やっぱり血統上の考えから、身縁(みより)のものを僕の嫁にしたいという意味なんでしょうね
 (六・須永市蔵が松本恒三に)


これで「彼岸過迄」は終わる。特に結末らしき展開や登場人物の関係性についての結論はない。

3、時系列は後で

以上、構成とあらすじを記しておきましたが、最初に書いたように時系列がややこしい。

またそれについても、あと登場人物についても、じっくりまとめていきたいと思います。


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