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#592_男同士の絶妙な距離感とサムライマック:家族って、べたべたしなくたっていい

家族全員が揃っている賑やかな食卓もいいけれど、ふと男同士で無言のまま過ごす夜に、奇妙な居心地の良さを感じてはいないだろうか。

朝のうちにヨメと娘が大阪から、東京ディズニーランドへと旅立った。
そして土曜のお昼過ぎ、学校の部活から帰ってきた息子と、我が家のリビングで2人きりの時間が始まった。

平日の残務を終え、パソコンをパタンと閉じたリビングのソファ。
いつもならテレビの音や、女性陣の賑やかな声で溢れている空間が、やけに広い。

聞こえるのは冷蔵庫の低い駆動音だけ。

『ふう。静かやな。今頃あいつらはシンデレラ城の前でチュロスでも頬張っている頃か。こっちは、息子と2人きりだ。さて、今日の夕飯はどうしよ?』

普段の仕事では、クライアントの複雑な要求を整理し、スケジュールを引いてスマートに立ち回っているつもり。

しかし、目の前の「13歳の息子」というパーソナルなパートナーの機嫌や腹具合は、いまいち正確な見積もりが立たない。

これが家庭というものか・・・

テニス帰りの悔しさと、スマホゲームの切り替え

昼過ぎに、テニスから帰ってきた息子は、どこか不機嫌そう。
今日の試合、思うようにいかなかったらしい。

靴を乱暴に脱ぎ捨て、リビングのソファにドスンと腰を下ろす。
「……負けた。マジで悔しい」

HSP気質の私は、こういうときの他人の負のオーラを、まるで自分の皮膚を直接削られるかのように敏感に察知してしまう。

胸のあたりがキュッと締め付けられるような、あの独特の居心地の悪さだ。 『おっ、機嫌が悪いぞ。変に声をかけて機嫌を損ねたら面倒だな……なんて声をかけるのが正解なんだ……?』

しかし、息子はスマホを取り出すと、ものの数秒でゲームの画面に没入し、先ほどまでの悔しさを発散し始めた。
画面の向こうの敵を次々と倒しながら、時折「くそっ!」と呟く。
そして一通り暴れ終わると、何事もなかったかのようにすっきとした顔を上げる。

……なるほど。無理に言葉でなだめる必要なんて、最初からなかった。
ぐずぐず引きずらず、ゲームという安全な仮想空間に一度エネルギーを全振りして、きれいにリセットする。

大人のように綺麗事の理屈で納得させるのではなく、本能的に自分のメンタルを守る見事な生存戦略だなと、横目で見ながら密かに感心する。

スーパー銭湯からの、あえての「サムライマック」

「なあ、腹減ったやろ。飯どうする?」

「……肉が食いたい。がっつりと」

それじゃあと、私たちは車に乗り込み、近所のスーパー銭湯へと向かった。 大きな湯船に肩まで浸かり、一日の汚れと、お互いの心のざわめきをゆっくりとお湯に溶かしていく。言葉は交わさない。ただ並んで温かいお湯に浸かっているだけで、さっきまでの気まずさはどこかへ消えていく。

そして、風呂上がりの帰り道。

「おい、夜だけどさ、今日はあれにするか」
「マジで? サムライマックええの?」

向かったのは、マクドのドライブスルーだ。

昔は「ビッグマックこそが大人の証だ」なんて背伸びしてかじりついていたけれど、この歳になって選ぶのは、あのジューシーな肉厚ビーフがガツンとくる「サムライマック」。

息子と一緒に、二人そろってサムライマックを頼む。

家に帰り、リビングのローテーブルにそれをガサッと広げる。

『……体に悪い? カロリー? そんなものは知ったことか。このジャンキーな匂いと、肉汁あふれる茶色い炭水化物の塊こそが、男同士の秘密の共有儀式だ』

肉にかぶりつきながら、今日のテニスの試合のこと、学校の友達のこと、他愛のない話をぽつりぽつりと零す。

ベタベタした馴れ合いではない。かといって冷めているわけでもない。

適度に距離を取りながら、同じ空間で同じものを食べる。

家族って、べたべたしなくたっていい

夕食の後は、息子は慌てて塾の宿題を片付け、バタバタと夜の授業へと出かけていった。
静かになったリビングで、自分は読書に向き合う。

日々の仕事では、多くの人の期待に応え、気疲れして帰ってくることが多い。

だからこそ思う。

家族だからといって、四六時中ベタベタしていなくてもいい。

お互いに適度な距離感を保ち、干渉しすぎず、かといって冷たくもない。
そんな「心地よい無言の空間」を共有できることこそが、何よりも代えがたい贅沢なのだと。

完璧な父親でなくてもいい。

気の利いたアドバイスができなくても、一緒にスーパー銭湯に行って、罪悪感をトッピングしたサムライマックをジャンキーに頬張るだけで、
今日の夜は十分すぎるほど丸なのだ。

東京の空の下でディズニーを満喫しているヨメと娘には申し訳ないが、
大阪の片隅で繰り広げられた、この男2人の夜も、なかなかに悪くないペースで回っている。

冷たいアイスをお供に、明日からまた戦うための英気を、静かにチャージするか。


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