「命令文, or」の or は「さもないと」?
「命令文 + or」という英文,例えば,
1.Don't move, or I'll shoot you. 「動くな.さもないと撃つぞ」
2.Hurry up, or you will miss the last train. 「急ぎなさい.さもないと終列車を逃すでしょう」
この2つの文の「or」は,通常,上のように「さもないと」と訳されるが,「P さもないと Q」というのは,「Pが起こらない場合にQ」だから P と Q の選択を迫っているように見える.
しかし,「P or Q」つまり「P または Q」というのは,数学では
「P だけ」「 Q だけ」「P,Q の両方」
の3つをまとめたもの.
これにしたがえば,1.の英文は or によって,
「動かない」「撃つ」「動かなくて撃つ」
の3つを,2.の英文は,or によって,
「急ぐ」「終列車を逃す」「急いだけど終列車を逃す」
の3つをまとめている.
「動かないのに撃たれる」はたまったものじゃないけど,「急いだけど終列車を逃す」ことは十分あり得る.
で,ここからちょっと数学.
命題「P ならば Q」の否定は「P かつ ¬Q」(「¬Q」は Q の否定で「Q でない」の意味)で,「P ならば Q」と同値な命題は「P かつ ¬Q」の否定だから,「¬P または Q」。
Don't move, or I'll shoot you. 「動くな.さもないと撃つぞ」はこの「¬P or Q」という形で,これと同値な命題は「P ならば Q」だから,「If you move, I'll shoot you.」「動いたら撃つ」.
だから,「動いたら撃つ」の言い換えは「動かない,撃つ,動かなくても撃つ,のどれか」.ちょっと変な気もするけど,「動いたら撃つ」は「動かなければ撃たない」とまでは言っていない.なので「動かなくても撃つ」のは論理的には成立する.
もちろん,普通は「動かなければ撃たれない」と理解してしまうけど.
同様に,Hurry up, or you will miss the last train. は,「P or Q」と同値が「¬P ならば Q」だから「If you don't hurry, you will miss the last train. 」と同じ.急がなければ逃すだろうけど,急いでも逃さないとは限らない.「急がないと逃すだろう」の言い換えは「急ぐ,逃す,急いだけど逃す,のどれか」.
となると,「or を『さもないと』のように二者択一で訳してよいのだろうか」などと妙なことを考えたのだけど,日常語の「または」はファミレスの「パンまたはライス」のように二者択一が常識だから,両方を要求する人はいない.
「数学で「または」は両方を含む」と習ったから「パンとライス,両方お願い」といっても通じない.
論理的には両方もアリなのだけど,それでも我々が二者択一のように感じるのは,論理そのものではなく会話の含意による.
会話の含意によるなら,英語も日本語と同様,二者択一になるのだろう.
【注1】数学の本で,「P ならば Q」が「¬P or Q」と同値であることが,英語の
If you move, I'll shoot you. (P ならば Q)
⇔ Don't move, or I'll shoot you. (¬P or Q)
と対応している,と書いてあったのを思い出したので,ちょっとまとめてみた.数学の時間に「または」とあったら,それは日常語と違うことを意識したい,という話かな.
【注2】「P ならば Q」の否定命題は,「P ならば Q」という命題を背理法で証明するときに必要.しかし,「P または Q」「P かつ Q」の否定は「ド・モルガンの法則」として習うのに,「P ならば Q」の否定が「P かつ ¬Q」であることは,高校数学ではあまり詳しく説明されない.論理学の教科書では,真理値表と一緒に,初めの方に出て来る話なのだけど.
