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【AIサプライチェーン編⑥】Intel──分業に逆らう会社。

ここまで見てきた企業は、
全員が分業していた。

JX金属は素材。

ASMLは装置。

TSMCは製造。

NVIDIAは設計。

それぞれが、自分の役割だけを極めた。

だから強かった。

だが、
その流れに逆らう企業がある。

Intelだ。



1|現象:王者はなぜ転落したのか

かつてIntelは半導体の王だった。

PCのCPU。
サーバーのCPU。
半導体の設計。
半導体の製造。

すべてを1社で握っていた。

2020年代に入ると、状況は一変する。

AppleはIntelを捨て、自社チップに切り替えた。

AMDはサーバー市場でシェアを奪った。

NVIDIAはAIブームに乗り、時価総額で世界1位に。

そしてIntelは、
2024年のダウ工業株30種平均から外された。
代わりに入ったのは、NVIDIAだ。

数字を見てほしい。

2024年、Intelの株価は59%下落した。

時価総額はどうか。

NVIDIAは約4.4兆ドル(約680兆円)。
Intelは約4,500億ドル(約70兆円)。

かつて半導体最大手だった企業は、
NVIDIAの約10分の1になった。

なぜか。


2|構造①:Intelだけが「全部やっていた」

ここで、半導体の作り方を整理しよう。

半導体には大きく2つの工程がある。

「設計」と「製造」だ。

スマートフォンのアプリに例えるとわかりやすい。
アプリを「考えて設計する」人と、
アプリを「実際に動かすサーバーを運用する」人は違う。

半導体も同じだ。

NVIDIAはチップを設計するが、自社では作らない。
製造はTSMCに任せる。

このように設計だけに特化する企業を「ファブレス」と呼ぶ。
「ファブ(工場)」を「レス(持たない)」。

逆に、TSMCは他社が設計したチップを製造するだけだ。
自社でチップを設計しない。
このような受託製造企業を「ファウンドリ」と呼ぶ。

AI時代の勝者は、
NVIDIAのような「設計に特化した企業」と、
TSMCのような「製造に特化した企業」だった。

では、Intelはどうか。

Intelは違う。

設計する。
製造する。
販売する。

全部やる。

これをIDM(Integrated Device Manufacturer=垂直統合型メーカー)という。

かつては強みだった。
設計と製造を自社で一体運用できれば、
最適化のスピードが速く、利益率も高い。

だが半導体が複雑になるほど、
「設計」と「製造」の両方に世界最先端の投資を続けることは
一社では難しくなった。


3|構造②:なぜTSMCに負けたのか

TSMCには、Intelにない「正の循環」がある。

TSMCは世界中の顧客のチップを製造する。

Apple。
AMD。
NVIDIA。
Qualcomm。

顧客が増えれば、工場の稼働率が上がる。
稼働率が上がれば、利益が増える。
利益が増えれば、次世代の設備投資ができる。
設備投資が進めば、技術が進む。
技術が進めば、さらに顧客が増える。

この循環が回り続けた結果、
TSMCは最先端プロセスで世界の独走態勢を築いた。

一方Intelは、
基本的に自社製品しか作らない。

顧客が自社だけなので、工場の稼働率が限られる。
投資効率でTSMCに追いつけない。

これが「分業の勝者」と「垂直統合の敗者」の構造だ。


4|構造③:それでもIntelは垂直統合を捨てない

普通なら、ここで方向転換する。

設計だけに特化してファブレスになるか、
製造を売却して身軽になるか。

だがIntelは違う。

設計も残す。
製造も残す。
さらに、TSMCのように他社のチップも受託製造する。

Intel Foundryだ。

これは「設計もできるTSMC」を目指すという宣言に等しい。

2025年3月、IntelはCEOを交代した。
新CEOはリップ・ブー・タン。
半導体設計ツール大手Cadenceの元会長であり、
半導体業界の投資家として30年以上の経験を持つ。

タンCEOは就任後、直ちに改革に着手した。

従業員を約25%削減(10万人→7.5万人)。
不採算事業を整理。
Intel Foundryを独立採算の事業体として再構築。

しかし数字は厳しい。

Intel Foundryの2025年第4四半期の売上は約45億ドル。
だが営業赤字は約25億ドル

売上より赤字の方が大きい状態だ。

外部顧客からの受託製造売上は、
四半期でわずか2.2億ドル

TSMCの四半期売上が約250億ドルであることを考えると、
Intelの受託製造はまだ100分の1以下だ。


5|構造④:国がIntelを支えている

なぜ市場が見放した企業に、
アメリカ政府は1兆円以上を投じるのか。

アメリカ政府がIntelに投資している。

2022年に成立したCHIPS法(半導体支援法)に基づき、
アメリカ政府はIntelに総額111億ドル(約1.7兆円)を投じた。

さらに2025年8月、トランプ政権はIntel株の9.9%を取得した。
政府が半導体企業の株主になるという、異例の決断だ。

なぜか。

理由はシンプルだ。

アメリカ国内で最先端半導体の設計と製造の両方ができるのは、
Intelだけだからだ。

TSMCは台湾企業だ。
NVIDIAは設計だけで、工場を持たない。
AMDも工場を持たない。

もし台湾有事が起きれば、
世界の最先端半導体製造の90%以上が止まる。

アメリカにとってIntelは、
単なる企業ではない。

国家安全保障の最後の砦だ。

だからアメリカ政府は、
Intelが赤字でも、
Intelに数兆円を投じ、
Intelの株主になった。

これは「市場の論理」だけでは説明できない。

「国策」だ。


6|構造:分業 vs 垂直統合

AIサプライチェーンを振り返ろう。

素材はJX金属。
装置はASML。
製造はTSMC。
設計はNVIDIA。
電力はGE Vernova、日立エナジー、シュナイダー。

全員が分業していた。

Intelだけが、
その全部を自社で抱えようとしている。

分業が正しいのか。
垂直統合が正しいのか。

現時点では、分業が勝っている。

だが、ひとつだけ確かなことがある。

もしIntelが成功すれば、
「設計もできるTSMC」が誕生する。

それはAIサプライチェーンの構造を、
根本から変える可能性がある。

だからIntelは、
最も苦しい。

そして最も面白い。


7|リスクを見る

1. 設備投資の負担
Intel Foundryの損失は四半期で25億ドル。最先端工場の建設には数兆円規模の投資が必要であり、赤字が長期化すれば財務を圧迫する。オハイオ工場は外部顧客が確保できなければ中止の可能性がある。

2. TSMCとの技術差
Intelの最新プロセス「Intel 18A」は立ち上げ段階にある。TSMCの最先端プロセスとの差はまだ埋まっていない。受託製造で顧客を獲得するには、技術面でTSMCに匹敵する品質を証明する必要がある。

3. 外部顧客の獲得
Intel Foundryの外部売上は四半期2.2億ドルにとどまる。TSMCのように多数の顧客を集められるかは未知数だ。自社製品と外部顧客の製造を同じ工場で両立させる難しさもある。

4. 政治リスク
CHIPS法の資金はアメリカの政権交代や政策変更に左右される。国策として支援が続く保証はない。


8|結

AI時代の勝者は、
分業だった。

素材はJX金属。
装置はASML。
製造はTSMC。
設計はNVIDIA。
電力はGE Vernova、日立エナジー、シュナイダー。

市場は分業を選んだ。

だが国家は、
垂直統合を捨てなかった。

Intelは、
企業である前に国家戦略になった。


※本記事は企業分析および投資教育を目的とした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。Intel(インテル)は米NASDAQ(ティッカー:INTC)に上場する外国企業です。為替変動リスクがあります。

記載のデータは2026年6月時点の報道および公開情報に基づきます。株価・業績は変動します。

株式バリュー研究所(VSL)は「構造で見る」をテーマに、企業分析・業界分析を発信しています。

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