爆薬技術でEVを守る会社——常識を覆す国内No.1の正体
⚠️ 本記事は情報提供目的であり、特定の銘柄・セクターへの投資を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。
はじめに(著者について)
私はバリュー株を中心に日本株の個人投資家として取引をしています。独自開発のバリュー株選別手法を用いてバリュー株を選別しており、過去実績では70〜80%程度の勝率で推移しています。
このシリーズでは、単に「割安な銘柄を紹介する」のではなく、なぜある銘柄・セクターがバリュー株たりえるのか、その背景にある産業構造やマクロ環境を読み解くことを目的としています。割安の理由を理解することは、日本経済の変化を先読みするヒントにもなると考えており、その調査・考察を公開していきます。
今回のテーマ:エアバッグを作る"爆薬屋"が、なぜ今割安なのか
「電気自動車が普及したら、自動車部品メーカーはどうなるのか」——この問いは、ここ数年の株式市場で繰り返し語られてきました。
内燃機関(エンジン)に関わる部品点数は約3万点。対してEVは約2万点。この「1万点の消滅」が、日本の自動車関連部品メーカーを長く不安の影に置いてきました。特定のサプライヤーがEVとともに消えていくというシナリオは、今や株式市場の「常識」のひとつになっています。
ところが、よく考えてみると奇妙なことに気づきます。電気自動車も、衝突するのです。
時速80kmで壁に突っ込んだとき、搭乗者の命を守るのはエンジンでも電池でもなく、0.03秒で膨らむエアバッグです。エアバッグは内燃機関と何の関係もありません。ではなぜ、エアバッグを製造する会社が「自動車部品銘柄」として一括りにされ、割安に放置されているのでしょうか。
この「ズレ」を追いかけていくと、特殊化学品セクターの面白い構造が見えてきます。
「EV不要論」が本当に正しいのかを確かめるために、独自データベースで割安状態にある特殊化学品各社の財務と事業を丁寧に調べてみました。
この記事でわかること
エアバッグ・インフレーターの市場が、EV普及後も年率8%超で成長し続けている理由
国内シェアNo.1メーカーが「解散価値以下」の株価に置かれている、EV転換とは別の本当の理由
同じ「特殊化学品」セクターでも、事業の中身がまったく違う各社の実態
「怖い理由」が市場の思い込みだと確認できたとき、何が起こりうるか
調べてわかったことを正直に書くと、「EV転換でエアバッグが不要になる」という前提は、事実として成立しませんでした。エアバッグは電気自動車にも搭載必須であり、市場は拡大中です。
ただし——割安な理由は、別のところにありました。
ここが今回の記事で最も「えっ、そうなの?」と感じた部分です。
▼ この先で解説すること
・なぜEV転換はエアバッグ需要に関係ないのか(市場データで検証)
・では何が「割安の真の理由」なのか(中国市場問題の実態)
・EV向け新製品で「追い風」を受ける可能性(電流遮断器とは)
・同じセクターの他社との比較から見える「割安の質の違い」
【詳細分析】「EV不要」の誤解と、割安に隠れた本当の問題
まず、今回のセクターの全体像を把握しておきましょう。

7社を並べてみると、すぐに目に入ることがあります。PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る会社が3社ある——つまり、解散して資産を全部売り払ったほうが株を買うよりお金が戻ってくる、という水準の会社が、セクターの中に複数存在しています。
なぜそうなっているのか。それを解きほぐすのが今回の記事です。
①「命綱」メーカーは本当にEVで不要になるのか——ダイセルの事例
ダイセル(4202)
PER 10.0倍 PBR 0.92倍 ROE 10.6% 配当利回り 4.5%
ダイセルは、エアバッグの心臓部である「インフレーター(ガス発生剤)」を製造する国内最大手です。
インフレーターとは何か——衝突センサーが信号を発してから、わずか0.03秒以内にエアバッグを完全に膨らませるデバイスです。人間が「ぶつかった」と認識するよりも速く、袋は展開を終えています。
その仕組みの核心は、**「制御された爆発」**です。電気信号が点火剤に火を伝え、グアニジン硝酸塩などの推進薬が瞬時に燃焼し、大量の窒素ガス(または不活性ガス)を発生させます。「要は、車の中に小さな爆薬を仕掛けているということ?」——そうです、ほぼその通りです。
だからこそ、インフレーターは途方もなく難しい製品でもあります。
まず、一度も誤作動せず、かつ必要なときに確実に作動しなければならない。しかも製造から15〜20年後の衝突事故でも機能することが求められます。夏の炎天下・真冬の極寒・高湿度という過酷な環境下でも、精度は揺らいではいけない。タカタのエアバッグリコール問題(2014年〜)が世界最大規模のリコールに発展したのも、インフレーター内の推進薬が経年劣化で異常爆発を起こしたことが原因であり、品質管理がいかに困難かを物語っています。
この「制御された爆発」を安定的に量産する技術こそが、ダイセルの競争力の源泉です。同社は花火・火工品(信号弾・ロケット推薬など)の産業として戦前から培ってきた高エネルギー化学の知見を、民生安全部品に転用しました。新規参入メーカーが量産レベルの品質を確立するには10年単位の時間がかかると言われており、この技術的な堀は簡単には埋まりません。
世界市場でのポジションは、国内1位・世界2〜3位。世界最大手はスウェーデンのオートリブですが、ダイセルはそれに次ぐ規模を持ち、セイフティ事業(モビリティ向け)だけで年間約976億円の売上を持ちます。
では、電気自動車が増えたときに、このビジネスはどうなるのでしょうか。
ここから先は
この記事を楽しんでいただけましたか?もしよろしければ、喫茶店で隣の席から『おもしろかったよ!』とコーヒーを奢るような感覚でサポートいただけると泣いて喜びます。次の記事も頑張ります!

