青い落とし物|片想い文芸部
落とし物を拾った。
青のシャープペンシル。
困った。
持ち主がわからないからじゃない。
わかるからこそ困っている。
なんの変哲もないシャープペンで、記名なんてないし、シール跡もない。
ただ、グリップのすり減り方が少し偏っている。
僕の斜め前の席で、彼女が昨日の数学の時間、これをカチカチ鳴らしていた。
細かい間隔で、一定のリズム。
時計の秒針みたいに心地よく、やけに気になる音だった。
見ていたなんて言えない。
これが彼女の物だと知っていることに言い訳ができない。
彼女はこれを落としたことに気が付いていないようだ。
「あれ?ないな……」なんて声に出してくれたら、「もしかして、これ?」と自然に返すことができるのに。
そんな都合の良い展開を待っていたら、今日が終わった。
完全に返すタイミングを見失った。
彼女が帰った後、彼女の机の上にシャープペンを置いた。
あーあ……せっかく喋るチャンスだったのに。
なんで僕は、声をかけられなかったんだろう。
不甲斐なさにため息が出る。
次の日、彼女はまた、授業中にあの青いシャープペンを鳴らしていた。
昨日と同じ、一定のリズム。
まるで何事もなかったかのように。
いや、彼女にとっては本当に何もなかったのだろう。
僕はそれのせいで昨日半日、感情の上げ下げに振り回された。
正直、ものすごく疲れた。
もう落とさないでくれよ、なんて、情けないことを思うくらい。
前からプリントが回ってくる。
彼女が後ろを向いた時、不意に僕と目が合った。
彼女はくるりとシャープペンを指で回して、少しだけ微笑んだ。
彼女の口が「ありがとう」の形にゆっくり動く。
思わず頷いたけど、どういうことだったんだろう。
僕が拾ったこと、気づいてた?
まさか。
前を向き直した彼女を見ながら、次は直接返そうと思った。
青い落とし物 END
片想い文芸部に参加させていただきました。
ありがとうございました。
