壁なんてものは、いつだって自分がつくっているらしい
先週の日曜日。
3歳の息子が通う保育園で、忘年会という名のランチ会が開催された。
忘年会には園児も多く参加し、息子もクラスの子たちとはしゃぎ回って楽しそうだ。
そして、そろそろ場もお開きという頃、年長クラスのとある保護者さんが、前に立って声をあげた。
「この後近くの公民館で二次会をするので、都合のつく方はぜひお越しください〜。もちろんお子さんもオッケーです!」
声かけを聞きつつもわらわらと帰路に付く家族たちを見ていると、二次会への参加者はおそらくさほど多くない。
察するに二次会というのは、この保育園に何年も通って先生たちとも懇意になっているような、いわゆる「ディープな保護者」たちのディープな宴だ。
保育園2年目、地元出身でもなく、この地域にもさほど馴染みきっていない「ビギナーズ保護者」代表のような私が入り込める場所ではないだろう。
同じクラスでたまに会話を交わす、同じようなビギナーズの保護者の皆様は、もちろん帰る一択のようだ。
けれど。
私は心のどこかで、「ちょっと行きたい…」と思っていた。
今日は、夫が仕事で私のワンオペなのだ。
これから夕方まで、どう過ごそうか考えあぐねている。
いつものゆるく退屈な児童館か。
今から直行すると、児童館で過ごす時間は推定3時間くらい。
想像すると結構しんどいぞ。
私は絶対あくびが止まらず途中で寝そうになるだろう。
ならば。
公民館の暖かい室内で、他の子達と一緒に息子を放牧し、私は宴という大人の場を味わう方が、楽しいのではないか。
娘もたくさんの大人に構ってもらえるはずだ。
そしてこういう宴の場は、他の保護者さんと仲良くなる最大のチャンスでもある。
一方で、私のビギナーズメンタルは、地元感・内輪感ムンムンと推測される宴への参加に、かなり躊躇している。
こういう宴は参加する人が大体決まっている。いつメンってやつだ。
急に私が参加しても場違いで浮いてしまい、気を遣わせて申し訳ない空気になるだけじゃないか。
これまでこういう宴に頑張って参加して、あとでセルフ反省会をした数多の記憶がよみがえる。
さて、児童館に行って、ゆるく退屈な時間を過ごすか。
反省会覚悟で、宴に飛び込むか。
決めかねた私が息子に意思決定を委ねてみると、息子は答えた。
「こうみんかんいく。だれがいるかみてみたい。」
ディープな宴への興味が、尻込みする気持ちをわずかに上回った。
いや、息子が背中を押してくれた。
…よし、ものは試しだ。
どうしても居づらかったら早めにお暇して、児童館とハシゴしてもいいじゃないか。
私は息子と娘を連れて、保育園のすぐ近くの公民館を初めて訪れた。
すでに部屋の外にも子ども達の声がこだましている。
「こ、こんにちは…すみません、飛び込みなんですけど、いいですか…」
恐る恐る部屋を覗いた私たちを、主催する保護者の方何名かが「どうぞどうぞ!!!」と招き入れてくれた。
その明るい声と屈託のない笑顔に、少しほっとする。
「えっ想定外の人来たやん。どうしよ。」と空気が凍ることはなかった。
ディープな保護者は、必ずしも新参者にシビアというわけではないらしい。
畳に並べられた背の低い長机には、アルコール飲料の缶やジュースのペットボトル、チーたらやナッツ類、そしてポテチなど大量のお菓子が所狭しと散らばっている。
うん、確実に新参者がひょいっと入るようなライトな宴ではない。
ちょっとワクワク、とってもびくびくしながら、腰を下ろした。
息子も私もリンゴジュースを片手に。
午後2時半、開宴である。
息子は普段食べられないカラフルなドーナツやスナック菓子に目をキラキラさせ、次から次へと手を伸ばしている。
息子よ、ハレの食事を楽しむが良い。今日は夜ご飯もここで済ませるぞ。
娘はというと、私の膝の横でごろりとしながら、一人で乳児語を喚いている。機嫌はよさそうだ。
しばらくすると、ひとしきりお菓子でお腹を膨らませた子どもたちが遊びまわり始めた。
場慣れしていない息子は最初こそ「かーちゃんいっしょにいこうよ…」と弱腰だったが、しばらくすると走り回る子どもたちに混じり、年上の男の子たちにちょろちょろと付いて行くようになった。
児童館の方がいい、とは言わなさそうだ。
ほっとした。この判断が吉と出る気がした。
私はというと、確実に10センチほどは浮いていたけれど、優しい保護者の皆様に、ひたすら構ってもらっていた。
所在なげに浮遊している私に気を遣ってくれたのだろう。
「えっ大阪出身なの!?よくこんな田舎に来たね!!」
「下の子どれくらい?半年?かんわいいいいい〜〜❤️❤️じゃあまだアルコールは駄目か。でも遠慮なく飲み食いしてね!!」
ディープな保護者は皆、概してオープンマインドだった。
「今日ワンオペで…子どもを放牧したくて来たんです…」
久しぶりに目にするミスドのDポップの箱に心躍らせていることを悟られまいとしながら、おずおずと参加動機を話す私。
「絶対その方がいいよ!!お母さんもたまには力抜いて楽しまなきゃ!!」
横の年長のママさんは、枝豆を口に放り込みながら、力強く言ってくれた。
普段の仕事のことや保育園のこと、私が知らないこの地域のことなど、多分この人たちがいつも集まって盛り上がっている話題に耳を傾ける。
ビギナーズにはわからない話題もあるけれど、多分誰もなんとも思っていない。
「あの、それって…」と恐る恐る質問したら、ごく自然に教えてもらえる。
思った以上に、宴が掬い上げるキャパシティーは大きかったらしい。
皆さんの器の大きさに全力で甘えながら、お腹いっぱい飲んで食べて、気付いたら時計の針は6時を回っていた。
あっという間に3時間以上経っている。児童館で過ごす時間に比べ、体感は5分の1ほどだった。
最後までドキドキしていたし、浮遊感がなくなるまではいかなかったけれど、ここまで過ごせたことに安心した。
(そもそも私は集団の飲み会が苦手で、浮遊しなかったことがない。ある程度の浮遊感は許容範囲だ)
ああ、いつだって壁を作っているのは自分のほうなのだなと、これまで何度も思ってきたことを、また実感した。
新参者がいることを面倒がったり、変に気まずそうにしたり、そんな人は全くいなかった。(よく考えると、多分そんなことを思う人はこの宴を主催しない)
「冬場、なかなか遊ばせる場所ないやろ?よかったらうちに遊びにおいでよ〜!」
この地域の方言が使えない私の相手をずっとしてくれた年長ママさんからの言葉。
それが現実になるのかどうかは別として。
そう言ってくれる人が近くにいる。そのことが、たまらなくありがたい。
私は構って欲しいくせに自己開示するのが苦手で、そんな自分がいつも面倒だった。
どうせ変わった奴だと線を引かれる。浮いていると笑われる。
ずっとそう思っていた。
今回も、「よく来たなこの親子」とは思われただろうけれど、来たらそれまで、そこには新参者だとか、ビギナーズだとか、そんな壁を作る人はいなかった。
構って欲しいなら、頼りたいなら、そういうことを言えば誰かが助けてくれる場所だった。
息子は息子で、動き回った末に最後はトレーナーを脱ぎ捨てて、なおも広い和室を走っていた。
同じクラスの女の子と肌着一枚で遊んだり小競り合いしたりしながら、その場を全力で楽しんでくれた。
「まだかえらない!!」
最後にはそう言って泣き出した息子を宥めながら、やっと帰路に着く。
長くてあっという間の一日だった。
その日、布団に入るや否やすやすやと寝息を立て始めた息子と娘を眺めながら、こんな日を過ごせたことに、まだ少しふわふわとした気持ちでいた。
こうして周りの人に面倒を見てもらいながら、親子で大きくなったらいいのだと思う。
まだ一緒に遊べない3歳児と0歳児を1日見るのがしんどい、というヘタレな理由から、私は宴に飛び込むことができた。
まあこれも、一つの成長なのだろうか。
翌日。
息子を保育園に預けるときに、宴でご一緒した保護者の方数名と顔を合わせた。
「昨日はありがとうございました。またお願いします。」
一丁前にそんな挨拶を交わして、また少しこの保育園を好きになれた気がした。
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誰かの夢やなりたい姿を伺うのも好きです。
まだ始まったばかりの企画。
超細々、超不定期に行っています。
読んでくださり、ありがとうございました!
