🕊浦島真奈美の事件簿 第1章 第3話
第3話 思わぬ方向
午後の署内は静かだった。
コピー機の作動音だけが、一定のリズムで空気を揺らしている。
浦島真奈美は、デスクに並ぶ資料をゆっくりと読み返していた。
第一通報者・田嶋浩介の供述。
ジョギング経路、通報時刻、現場での行動。
どれも、整っている。整いすぎていた。
「裏取り、進んでます」
若い刑事がメモを片手に近づいてきた。
「現場付近の防犯カメラを数台確認しました。……これを見てください」
ノートパソコンに映し出された映像。
早朝の川沿い。
通報の十五分前。
田嶋が映っていた。
その横に――人影。
身長、肩幅、歩き方。
女だ。
「奥さん、ですね」
浦島は即答した。
刑事が息を呑む。
「やっぱり……」
「確証ではない。ただ、“現場にいた可能性がある”ということ」
言い切った声は低いが、迷いはなかった。
長机の端では中村係長が缶コーヒーを開けた。
静かに一口飲む。
「裏を取らなきゃ意味はない」
「はい。動きます」
浦島は立ち上がり、資料をまとめる。
背筋がまっすぐに伸びていた。
「お前はどうしてそうやって“確信めいて”言えるんだ」
中村が聞く。
浦島は少しだけ間をおいて答えた。
「……あの朝の空気が、違和感を残したままなんです。
その違和感が、まだ消えない。」
中村は鼻で笑った。
「刑事ってのは結局、そこだよな。
数字じゃねぇ、紙でもねぇ。
“残ってるもの”を追う」
浦島はうなずいた。
その夜。
資料室で一人、照明だけが灯っていた。
机に置いた紙片の写真を見つめる。
淡い香水の成分。
河川敷の湿気。
風に揺れたブルーシート。
そして――通報者の声。
(静かな朝は、もうどこにもない)
真奈美はそっと目を閉じ、深く息を吸った。
次に進む覚悟は、もう決まっていた。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
物語の中で描かれる警察活動や手順は、あくまで創作上の表現です。
©ChatGPT & 宇都宮幸宏
