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 🕊浦島真奈美の事件簿 第1章 第9話 生きている女


その女は、生きていた。
浦島真奈美がその事実を知ったのは、
一通の報告書が机に置かれたときだった。
「身元、割れました」
若い刑事が差し出した書類には、
防犯カメラに映っていた“もう一人の女”の名前が記されている。
——田嶋里美。
通報者・田嶋浩介の妻。
そして、事件当初から「現場にいなかった」とされていた女。
「……生きている女、か」
浦島は、思わずそう口にした。
里美は、市内の安いビジネスホテルにいた。
化粧は薄く、髪も整っていない。
逃げていた、というより——
“隠れていた”という表現が近かった。
「どうして姿を消したんですか」
取調室で、浦島は静かに尋ねた。
里美は、しばらく黙っていた。
やがて、小さな声で言った。
「……怖かったんです」
「何が?」
「真実が」
その言葉は、嘘ではなかった。
里美の話は、こうだった。
事件の朝、彼女は夫から呼び出された。
河川敷で、夫と口論になっていた女性を目撃した。
止めに入ろうとしたが、
足を滑らせた女性が転倒し、動かなくなった。
「私は……触っていません」
里美の声が震える。
「でも、見てしまった。
 “何も言わずに立ち去る”という選択をしたんです」
「それで?」
「主人が言いました。
 “俺が通報する。お前は消えろ”って」
里美は、その言葉に従った。
それが、夫婦としての最後の選択だった。
「じゃあ、封筒は?」
浦島の問いに、里美は小さくうなずいた。
「……私です。
 あなたなら、真実を見つけてくれると思った」
「どうして、私を?」
「事件のとき……
 あなたの目が、私を責めてなかったから」
浦島は、一瞬言葉を失った。
刑事としての視線。
人間としての距離。
その微妙な違いを、里美は見抜いていた。
夜。
署の屋上で、浦島は一人、風に当たっていた。
“生きている女”。
それは、
死んだと思われていた人物が生きていた、という意味だけではない。
嘘をつき、逃げ、
それでもなお生き続けてしまった人間。
「生きているって……重いですね」
独り言のようにつぶやく。
その背後で、足音が止まった。
中村係長だった。
「次は、どうする」
「全部、報告します」
浦島は即答した。
「それが、代償でも」
中村は何も言わず、夜景を見た。
事件は、終わりに近づいていた。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
物語の中で描かれる警察活動や手順は、あくまで創作上の表現です。
©ChatGPT & 宇都宮幸宏

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