わたしのロツレチハヒ【第2話「お好み焼き屋にて」】
「おばちゃん。学割焼きね」
「わたしも学割焼き。それと学割パフェ」
「え、マジで。じゃ、わたしも学割パフェ追加で」
わたしとまりなが続けざまにしゃべるのでお店のおばちゃんが笑い出した。
「あんたたちはホント仲がいいね~。見ていて楽しいよ」
お好み焼き屋「ダモン」はカモ校生の溜まり場だ。
焼き物からデザートまで日替わりで“学割”メニューがあるから嬉しい。
それにコハルおばちゃんがとてもフランクで話しやすく、悩みを相談する学生もいるほどだ。
この日の“学割焼き”は豚キムチと焼きそばが入ったお好み焼きで550円。“学割パフェ”はあまおうたっぷりのいちごパフェが480円というコスパ最強コンビだった。
「わたしんちは、パパの帰りに合せて晩ご飯が遅いから無問題だけど。かなえはパフェまで食べて大丈夫なの?」
まりなが聞くけど。まあ、心配というよりはおしゃべりの流れっていう感じかな。
「うちは、親が共働きだからおばあちゃんが夕飯を作ってくれるんだよね。美味しいけど、わたしにはボリュームが足りないっていうか。でも手伝わないで寄り道してダベってるから、文句なんて言えないし」
「ふーん。そうなんだぁ」
まりなは気のない返事をすると、ちょっと身を乗り出した。いよいよ本題らしい。
「どう思う?じんさんのスパルタ練習。今日なんか足が痺れて涙が滲んだんだけど」
「だしょうっ!あれってやっぱり意味があるのかなぁっ。逆に曲の練習に集中できない思うねん!」
「てか、かなえ、なんか言葉づかいがおかしいんですけど」
「ヤバっ、興奮しすぎたら言語回路がおかしくなるんだよね。アハハハ」
「なにそれっ、おもしろすぎーー。アハハハ」
「はいお嬢さんたち。盛り上がってるようだけど、学割焼きですよ。それと学割パフェも」
「うわーーメチャ美味しそう」
「おばちゃんありがとー」
わたしもまりなも食べながらおしゃべりするタイプではない。まずは学割焼きに集中した。
自宅でもたまにお好み焼きを作るのだがこの味は出せない。ソースもおばちゃん流のブレンドなのだろう。
二人ともぺろりと平らげると、次は学割パフェが待っている。このあたりになるとようやく会話する余裕ができた。
「でさ、正座の練習って必要なのかなぁ?」
振り出しに戻ったかのように切り出すまりな。
「どうなんだろ。じんさんは、座奏にも慣れとくべきだっていうけど。座奏している人って見たことないのよ」
「だよね。テレビののど自慢とかで演歌や民謡のときにプロのおじさんが尺八吹いてるときって、だいたい立ってるような気がする」
まりなはわたしに共感すると、珍しく邦楽について真面目に語り出した。
「わたしってさ、“和楽器タイフーン”を見て邦楽部に入ろうと思ったの。女性が凜々しく尺八を吹く姿に衝撃を受けたんだ」
「そのバンド知ってる。尺八担当が鼎(かなえ)さんっていうんでしょ。名前を聞いたときにわたしと同じだからすぐ覚えたわ。なんか親近感があるのよね」
「そうそう。わたしも邦楽部で自己紹介を聞いてびっくりしたの。“日色かなえ”って鼎さんと名前がいっしょじゃんって」
すぐ脱線するし、パフェをつつきながら話していることもあって、なかなか先に進まない。
「かなえは、坂本堂山推しなんでしょ。ポスターで見たことあるけどけっこうイケメンよね。邦楽界の貴公子って感じで」
「坂本堂山“さま”ね。最初はラジオで偶然に尺八とピアノとチェロの合奏を聴いて興味を持ったの。え、尺八ってこんなにカッコいいんだって。それからYouTubeで動画を探したら吹いてる人がこれまたクールなお兄さんじゃん。音から入って人物に惚れたというところかな」
「で、座奏するの? 堂山さまは? 和楽器タイフーンはあんなノリノリなバンドだから正座するイメージないし。邦楽界の貴公子だったらするんじゃない、正座?」
「うーん、私だってそこまで詳しくないけど、動画で見る限り正座はしていなかったかな。堂山さまが師匠と仰ぐ山本邦山先生の時代はしていたかも」
「あれだよね、きっと。社中の演奏会みたいなときは正座するとかあるんだろうね」
「それはありそうね。でも、高校の邦楽部はそこまで正座にこだわる必要ないんじゃない」
「あーあ。こうやってぼやいたところで、あのじんさんが方針を変えるわけでもないし。堪えるしかないのか」
「おいおい。まりなから言い出したんでしょ。諦めるの早くない?」
「だって~しょうがないじゃん。そだ!2年生になったらかなえがパートリーダーをすればいいのよ。そしたら前みたいに正座しないやり方に戻せるじゃん」
「いやいや、まりなが自分でやってよ。パートリーダー。わたしはそんな柄じゃないから」
「待って。田中浩二をパートリーダーに祭りあげるっていう手もあるわね」
「さんせー!」
こうして正座論争はいったん落ち着いた。
お好み焼き屋・ダモンでまりなとおしゃべりする楽しみがあるから邦楽部を続けられているようなものだ。
そもそも尺八を練習しても上達している実感がない。「ジン」の野郎はなぜあれほど一生懸命になれるのだろう。
わたしはモヤモヤを抱えたまま家路についた。
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