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坂田明と26人のブラバン部員|“本気”について考えた

「俺が本気出したらすごいぜ」
「わたしはいつも本気ですよ」

アニメやドラマで出てきそうなセリフ。現実で使うこともあるのかな(オラはないけど)。

思うにそれぞれの“本気”は必ずしも同じではありません。人によって捉え方はさまざまです。

この記事では“本気”を考察するため。ジャズミュージシャン・坂田明に焦点を当てたいと思います。

坂田明とは

サックス奏者で、大型トラックを運転していた時期もあり、山下洋輔やタモリと仲がよい。そんなおじさんです(現在80歳)。

わたしが学生時代にはタモリと考えた(とされる)「ハナモゲラ語」をしゃべったりして、とにかくジャズミュージシャンらしからぬ奇抜なおじさんという印象を持ってました。

1980年に出したLPアルバム『坂田明/20人格』より『ホワイト・クリスマス』の音源をお聴きください。

※記事中で音源やライブ映像をいくつか紹介します。坂田明を知っていただくため、できるだけ視聴するようおすすめします。もちろんフルで視聴すればさらなる感動を呼ぶことでしょう。


坂田明とフリージャズ

正直なところ「フリージャズ」がよくわかりませんでした。オーネット・コールマンとかも聴いてみたのですが、すごいことはわかっても「また聴きたい」って思えなかったんですよね。

そんなわたしも山下洋輔トリオの『クレイ』というライブアルバムを聴いてようやくフリージャズに目覚めたのです。

『CLAY』 YAMASHITA TRIO   LPレコード
『CLAY』ジャケット裏側
『CLAY』ライナーノーツ


山下洋輔(ピアノ)、坂田明(クラリネット、アルトサックス)、森山威男(ドラムス)のトリオが、1974年6月2日に西ドイツで開催されたニュー・ジャズ・フェスティヴァルに出演したときのものです。

わたしはこのレコードで森山威男もりやまたけおを初めて知ったのですが、度肝を抜かれました。素人のわたしでもわかる、パワーとキレがあるうえにフレーズが独特で多彩なプレーから“本気”がビンビン伝わってきたのです。


早速出てきましたね。“本気”という表現。森山威男だけではありません。山下洋輔、坂田明ももちろん“本気”です。

フリージャズとはコード進行など決まり事をできる限りとっぱらって、プレイヤーが自分の発想だけで思いきったアドリブをするのが特徴です(個人的解釈)。

『クレイ』の「ミナのセカンド・テーマ」は28分ほど熱演が続きとくに圧巻です。ヘッドフォンで聴いていると3人のプレイに引き込まれて心がふわふわした感じになりました。

竹田賢一氏(音楽評論家)はライナーノーツで次のように記しています。

山下洋輔はかつて、山下トリオの演奏をサッカーにたとえて『サッカー選手と同じで、何年も何年も同じフォーメーションで走るわけだ。でも一回一回やっぱり違うんだよね』と語っていた。ぼくたちはそのルーティンの中で一回ごとのヴァリエーションを聞き分けることに、自分の美学を賭けていたように思う。そして山下トリオの演奏は、またボクシングにもたとえられることもしばしばあった。肉体的なパワーの発散の応酬を通じて形成されるドラマ。この様式化された美学と強固なドラマ性こそ、山下洋輔やトリオの演奏を、アメリカやヨーロッパのフリージャズと明確に分かつものだったかもしれない。

竹田賢一が綴った『CLAY』ライナーノーツより


わたしは「ミナのセカンド・テーマ」を聴きながら、ボクシングではなく大好きなプロレスを思い浮かべたものです(※「プロレス」という言葉を安易に捉えるけしからんタレントや芸人を見かけます。その件は長くなるので触れません。ここでいうプロレスとは漫画『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎)の世界観になります)。

アントニオ猪木とスタン・ハンセンと前田日明が“本気”で戦う。これは血みどろの喧嘩をするわけではなく、プロレスの技を出し合って力尽きるまで戦うことを意味します。

山下洋輔トリオのライブはそれを思わせる迫力がありました。

ネットでは音源が見つからず、ここでお届けできないのは残念でなりません。しかし、それに迫る熱演をなんとか探しました。

まずは「結成40周年記念! 山下洋輔トリオ復活祭」(2009年)より、歴代メンバーによる『GUGAN』。錚々たる顔ぶれによるアドリブ合戦はもちろんながら、とくに森山威男と小山彰太(メガネをかけてる方)によるドラム対決は圧巻。二人の戦いを見守る山下洋輔がなんとも楽しそう。


もう一つは横浜のJAZZライブハウス・ドルフィで2016年に行われた、森山威男トリオ:森山威男(ds)・佐藤允彦(p)・坂田明(as,cl)による『キアズマ』。ピアノは佐藤允彦ですが、このトリオによる演奏は山下洋輔トリオ『クレイ』に近い熱量を感じました(ゆーしん談)。


ここまでご覧になって「おいおい、山下洋輔トリオとか森山威男とかばかりじゃん。『坂田明と26人のブラバン部員』はどこいった」と思われたことでしょう。

どうしても坂田明がどんなミュージシャンなのかを知っていただきたかったのです。そのうえでこれから触れるエピソードを読んでいただくと、その光景をより生々しく想像できるはずなのです。


与那国島にて

沖縄の与那国島で小舟に乗って巨大カジキの一本釣りを続ける82歳の老人を撮った『長編記録映画・老人と海』。劇場公開されたのは2010年7月のこと。

この作品で音楽を担当したのがフォークシンガーとして知られる小室等です。そして演奏ミュージシャンの1人が坂田明でした。

『人生を肯定するもの、それが音楽』(著:小室等)では与那国島にまつわるエピソードを紹介しています。

坂田明が与那国島に行ったところ、中学校の先生に頼まれて急遽ブラスバンド部に会うことに。小さな島ですから全校生徒が26人。ブラスバンド部の部員も26人でした。

坂田もさすがに「生徒全員が自動的にブラスバンド部員ということだったんだよ。これにはコケたね」と笑いながら話してくれたそう。

でも彼は帰り際に「今度来るときは、おまえらいっしょにやろうぜ。おれとやりたい曲を何か考えておけよ」と投げかけたのです。


坂田明の“本気”とは

与那国島で上映会が開催された日。坂田明は約束どおりブラバンメンバーと会いました。

坂田は自分で買い求めたものの、しっくりこずに使わなかった(サックスやクラリネットの)リードを箱にため込んでました。それを部員のためにたくさん持ってきたのです。

「おれはな、自分の楽器を吹くときは、ただあてがわれたものを吹いているんじゃない。よりよく吹けるように、楽器をなだめたり、すかしたり、工夫しているんだ。じゃ、それをこれから君らにおしえるから」

彼はそういうとカミソリでリードを削ってみせました。まず削る前のリードで部員に吹かせて、削ったあとでまた吹かせて比べさせるわけです。

「アッ、吹きやすくなってる!」

目の前でリードを削ったのだから、まさに百聞は一見にしかず。

すると「リードはたくさん持ってきてる、失敗してもいいから、自分たちでいろいろやってみろ」と坂田。


小室等は部員たちの表情を「もうマジックですよ。みんなびっくりしてしまう」と描写していました。

さらに坂田は最初の出会いで「おれとやりたい曲を何か考えておけよ」と伝えていた約束も果たします。

部員たちからグレン・ミラー楽団の演奏で知られる『イン・ザ・ムード』をやりたいと要望がありました。

映画『スウィングガールズ』でも演奏された、吹奏楽の世界でも有名な曲ですね。

こちらは「アルコバレーノ・ウィンド・オーケストラ」による演奏になります。


坂田明は「じゃあ、やってみよう」と部員に演奏させながらアドバイス。やがて「じゃ、だいたいわかったから、おれも君らといっしょに同じパートを吹くけども、ここのセクションまできたら、この中は、アドリブで君らとはぜんせん違うことやる。違うことやるけど、驚くな。君たちは譜面どおりやっていればよろしい」と念を押しました。

そして翌日。本番は学校の体育館で行われました。生徒たちはリハーサル目前までセクションごとにわかれて練習に余念がありません。

「自主的にパート練習するなどということはこれまでなかった」驚いたのは先生でした。

本番がはじまり、まずは坂田明や小室等がそれぞれパフォーマンスを披露します。いよいよ『イン・ザ・ムード』の演奏がはじまると練習の成果もあっていい感じ。満を持して坂田明が予告したセクションに。なんとそれまで封印していたフリージャズをぶっぱなしたのです。

もうグシャグシャな音で、完全なフリージャズ。ものすごい音がつづくなかで、生徒たちはいったい何が起きたか、びっくりしたと思いますよ。でも彼らは自分らの譜面どおりをやるしかないわけで、必死に演奏する。
 すばらしい音楽でした。ぼくも感動しましたが、なにより子どもたちが感動した。多感な年ごろですからね。演奏が終わって、みんな泣いていました。

小室等


小室等は坂田明に真意を聞くのをよしたそう。でも次のように彼の気持ちを代弁しています。

生徒たちのうまいとかへたとかを超えた、まっしぐらな演奏をまえにして、そのとき、坂田明というミュージシャンは、ミュージシャンとしての本気の姿を見せないわけにはいかない。生徒たちにただ寄り添うのではない本気の勝負をしている姿を見せないわけにはいかない。そう思ったのではないか。

小室等


坂田明が吹きまくる音と姿に感動して涙する子どもたち。わたしはその光景を想像すると瞳が潤んできます。

「本気を出せる大人にならねば」

まだ間に合うかわかりませんが、そう自戒しました。

ああ~このくだりになるとやっぱり涙腺緩んじゃうよ~。皆さんはどう感じられましたか。最後までお付き合いいただきありがとうございました。


【参考文献】
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