【方言シリーズ】「チューチューマンゲ」対「オガメガトーサン」
わたしは月に何度か散歩をかねて図書館に足を運ぶのですが、十年以上経ってようやく出会えました。
「とうだいもとくらし」という言葉もあるように身近なところを見逃していたのです。
先日、このような書物を見つけました。

1972年に編纂されたもので、冒頭に「八女の方言 研究中間報告」とあります。当時の忠見小学校長と福島中学校長が執筆されているのですが、こんなに広く深く研究された資料を初めて目にしました。
編者は【はじめに】のなかで
「方言には方言だけがもつ味わいというものがある」と解説して、石川啄木の短歌を引用しています。
ふるさとのなまりなつかし停車場の
人ごみの中にそをききに行く
さらに編者は続けます。
しかし、悲しいことに、今日、方言は消え去ろうとしている。
(中略)
散りゆく花を止めようとするこころは、花を愛でる者の感慨である。それなら、ほろびようとする方言をとどめようとするこころは、言葉を愛でる者の悲願といえる。
このような切なる願いから、八女市を中心とする『八女の方言』の研究活動が、研究同人によって着手せられたのである・・・。(後略)
『八女の方言』には「語法」と「語彙分類」に分けて膨大な方言が網羅されています。今回の【方言シリーズ】ではそのなかからわたしが独断で特におもしろいと感じた言葉を選びました。
チューチューマンゲとオガメガトーサン
まずはタイトルにも使った二つの方言から。
(ちなみに『モスラ対ゴジラ』を思い浮かべて似たようなタイトルにしただけです。両者が戦うことはありませんのでご了承ください)
絵に表わすとこんな風でしょうか。

チューチューマンゲは「蝶」で、オガメガトーサン(オガマガトーサンとも)は「かまきり」のことです。
わたしは町内の集まりなどでお年寄りが「チューチューマンゲ」と話すのを耳にしたことがあります。しかし普段の会話ではほとんど使いません。
このような“生き物”を表わす方言をいくつか紹介しましょう。
ジーサンバーサン:ふくろ蜘蛛
キンコブ:女郎蜘蛛
クロツチ:コオロギ
ヒュータンゴ:おたまじゃくし
ヂクヂクッショ:つくつくぼうし
レンコンクウ
次は状態、状況、性格などを表わす方言の一部を取り上げました。
レンコンクウ:粋をきかせる(※スイヲキカスとは物事の処理に粋人ぶりを発揮する。男女間のことなどを気を利かして物分かりよく裁く。こと)
サーダラバーダラ:ばらばらで手がつかぬ様子。
インガット:きちんと。
シレンゴレン:知らぬふりをする。
オヨンコヨン:動きがとれぬさま。とまどうさま。
ニギリギンタマ:働かないで結構楽な生活をすること。
「カタカタやん」「モガイなさんな」など体験済み方言。
わたしは筑後地方で30年以上暮らしています。それまでは北九州市と宗像市に住んでいたので、方言の違いを肌で感じました。
妻は大牟田市出身なので筑後弁に近い方言を使うことがあります。たとえば次のような場面で話していました。
カタカタ:一対のものがそろわないこと。かたほう。
HKT48に移籍したばかりの指原莉乃が、どんたく祭りのステージに立って自己紹介したときのこと。
テレビを見ていた妻が指摘しました。
「さっしー、靴下がカタカタやん」
指原莉乃がはいているソックスの高さが左右で違うというのです。
ドッキリ:満腹な感じ
妻が使うときのニュアンスは「満腹でかつ胃もたれしそう」な感じに聞こえます。
グルメ番組で韓国から流行ったチーズトッポギが映ったとき・・・
「あんなにチーズをたくさんかけたら、見ただけでドッキリする」
みたいな。
モガウ:からかう
まだ小学校と幼稚園に通う甥っ子たちがけんかしているとき。お義母さんが兄の方に言い聞かせる言葉。
「そげんモガイなさんな」(しつこくからかうのはやめなさい)
ツンナウ:連れになる。連れ立つ。
お義母さんが甥っ子や姪っ子たちが一緒に遊ぶときなどにかける言葉。
「ツンのうて遊びにいかんね」(皆で連れだって遊びに行きなさい)
ヨーラ:①静かに。そろそろ。②理由なく。③手ぶらで。かざりけなく。④そのまま。平気で。
・持ち帰った荷物を片付けずに部屋にそのまま置いたままにしているようなとき。
「またヨーラしとろう」(またそのままにしてほったらかしてるわね)
「にゃあ」と「さい」
『八女の方言』では「語法/拗音(ようおん)」の項で触れています。
長崎ばってん肥後にゃあにゃあと言われるほど、肥後方面は「にゃ・きゃ・ちゃ」等拗音が多いが、八女地方にも相当多い・・・。
わたしも地域の集会で話していると「にゃあ」をよく聞きます。語尾に「にゃあ」や「さい」をつけるのが特徴ですね。
実際に会話する音声を聞くとわかりやすいのではないでしょうか。次の動画をご覧ください。
八女で暮らしている若者たちが「バリバリの八女弁でしゃべって」というテーマで会話する動画です。
古き良き方言が使われなくなっている実態が垣間見られます。
ただ「にゃあ」と「さい」は真っ先に出ていましたね。
難度が高い「長文」の例
「方言の姿/長文の例」のなかには、わたしでは読み解けないものが複数ありました。
「つっきゆでっしょうる、べえらばくべんか」
「このだだぶっぢゃううみんづるばい」
この二つです。長文の例には「訳」がついていないため、意味はわからないままです。
近き頃、肥後の国人のきたるがいうことを聞けば、世に“見える”“聞える”などといふたぐいを、“見ゆる”“聞ゆる”などぞといふなる。こは今の世には絶えて聞えぬ雅びたる言葉遣なるを・・・。
『八女の方言』では「語彙一覧」の前に江戸時代後期の国学者・本居宣長の言葉を引用しています。
古より方言は「雅び」な響きがあったのでしょう。
令和の世となっても「雅び」を感じる心は残っているはず。素晴らしい方言が忘れ去さられぬよう伝えていきたいですね。
「そんくれんこつおっでんしきっぜ」(それぐらいのことは、オレでもできるぞ)の心意気で続けられたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
なお『方言シリーズ』ではほかにも興味深い方言を取り上げています。そちらもご覧ください。
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