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鍵穴のない鍵

扉は、ずっとそこにありました。
でも、誰のためのものかは、もう思い出せません。
風がすこしだけ、 少女の背を押しました。
鍵はまだ重たいけれど、 彼女は ほんのすこしだけ
足を前に出したような気がしました。
「進まなきゃ」って、いちばん痛かった。
目を閉じれば、 この世界は 
すこしだけやさしかった。
夢のなかで、少女はただ眠ります。
起きなければ、何もこわくなかったから。
そばには、あの鍵があって
それだけが まだ ほんとうでした。
誰も、起こさなくてよかったのに。
こんな扉、どこかで見たような……
でも 開けたことなんてないし
だれかがいた記憶も なかった。
ただ、ずっと 待っていたような気がしたんです。
少女の手の中の錆びた鍵だけが その理由を知っていました。
 誰の願いだったの?わたしのじゃない。
世界が、壊れていく音がしました。
少女は その音を ただ 黙って 聴いていました。
「どうして、わたしだけが壊れなかったの?」
そう思っても だれにも きくことはできません。
でも立ち尽くしていたのは、
だれかがそう祈ったからかもしれない──
それが やさしさだったとしたら、
まだ こたえていたかったんです。
色が差しました。
それだけで 少女は 少しだけ 生き延びた気がしました。
名前も、記憶もいらない。
でも 手の中のこの鍵だけが、
「まだ 終わっていないよ」って
まるで音みたいに 静かにそう教えてくれたんです。
終わりにしていいって、誰も言ってくれなかった。
少女は ことばを持ちませんでした。
だから 語ることも 願うことも できませんでした。
けれど、 その胸の奥で
まるで 鍵みたいなかたちをした記憶が
音になって ふいに あふれてきたのです。
それは祈りではありません。
ただ、どうしようもなく 
残ってしまったものだったのです。
ほんとは、声なんか出したくなかった日もあった。






───

(ここまで、読んでくれてありがとう)

……あなたは ほんとうに

もう 終われていますか?

────

[ ふれてしまったなら ]
(残された音だけが、そこにあります)
→ 残された音を聴く




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