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九十八歳の、ごちそう

これは、本当にあった話。


ごはんの前に、入れ歯をお渡しした。

「お口に入れて、しっかりはめてくださいね」

おばあちゃんは、九十八歳。

「あら、ありがとう」

両手で、ていねいに受け取ってくれ

歯は白っぽくて、まわりは、つやつやしたピンク。

それを、じっと見ている。

きれいな顔をして、見ている。

「美味しそう」

え、と思った時には、もう遅くて。

ガブリ。

おばあちゃんが、入れ歯にかぶりついた。

「食べないで! それ、入れ歯ですよ!」

わたしの声は、たぶん、届いていない。

「まぁ、かたいわね」

ガリ、ガリ。

おばあちゃんは、ちょっと笑った。

かたいわね、と言いながら、それでも、ひとくち。

お腹がすいていたのだと思う。

きっと、おばあちゃんの目の前には、わたしには見えない食べ物があったんだと思う。

つやつやしていて。

ピンク色で。

とても、美味しそうな何か。

だまそうとしたわけじゃない。

ふざけたわけでもない。

その瞬間、おばあちゃんの世界では、それは、ごちそうだった。

ただ、それだけ。

わたしは、入れ歯をそっと受け取って、もう一度きれいにして、お口に入れてもらった。

それから、ソファに座ってもらう。

もうすぐ、ほんとうのごはんの時間。

おばあちゃんは、まだ、笑っていた。

今日も、どこかの施設で

だれかの「美味しそう!」が、生まれているかもね!!


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